01.再開
西暦3○○○年。
地球は遠に滅び、人類は地球よりは小さく地球と似た環境を持った4つの惑星に移り住んだ。
そしてここ、エウス国、中央区では歌姫、黒蝶のコンサートがエウス中央ホールで行われていた。
綺麗な長い漆黒の髪を後ろに束ね、黒い瞳の少女は歌う。
会場は大盛り上がりだ。
「~♪♪」
日本人特有だったらしい黒髪に黒色の瞳を持つ人はほぼ居なくなった。
環境が影響しているのか、原因は不明らしい。それから超能力のような不思議な力を持つ人達もちらほらと現れ始めた。そんな人達をまとめてアンノウンと呼ぶようになった。
やはり原因は不明らしいが環境が影響したのでは無いかと言われている。
ついでに言うと、日本なんて国はもう無い。
East United States(東合衆国)。
頭文字をとってエウスという1つの国になった。
「黒蝶~~!!!」
コンサートも終盤に近づき、更に会場は盛り上がる。
このホールはこの国で最高の広さを誇る中央ホールだ。もちろん防音もばっちり。
しかしそんな中、爆音が響き渡る。
それと同時に電気が落ちた。
今まで最高潮に盛り上がっていた会場は人々のどよめきに変わった。
一体、何が起きたのかと不安が過ぎる。
すぐに予備電源が発動して明るくなった。
『1階、エントランス付近にて火災が発生しました。警備員の指示に従って避難してください』
そのアナウンスと共に何人かの警備員が入ってきてコンサート会場にいた人達を誘導していく。
黒蝶改め朝日奈琴子はステージの上から降りて警備員の案内に従おうと歩きだそうとする。
すると後ろから声が聞こえた。
「やっと見つけた。琴子ちゃん。」
琴子は後ろを振り返る。
そこには仮面を付けた男が立っていた。
「誰?」
「さぁ、誰でしょう?」
そう言いながら琴子に近づいてくる。
仮面をしているから表情は分からないが、なんだか楽しそうな声音にも聞こえる。
「来ないで!」
得体の知れない男に琴子は恐怖を感じ声を上げた。
しかし仮面の男は止まらない。
そして琴子の手を掴んだ。
「っつ!」
「一緒に来てもらうよ」
抵抗することも出来ず琴子は仮面の男に引っ張られ歩き出す。
仮面の男の右首筋に小さなタトゥを見つけた。
そのタトゥは赤色で目をモチーフにしたタトゥで…琴子には見覚えのあるマークだった。
「レッドアイ」
レッドアイとは、人殺しから窃盗まで依頼されて金さえあればなんでもすると言う闇の組織。どうしてそんな組織がと思いながらも琴子は恐怖で何も言えなかった。
「(殺されるかもしれない…)」
脳裏を過ぎったのは10年前の惨劇。
当時、琴子は9歳だった。
幼なじみの気が弱くて眼鏡の優しい男の子、來之衛と活発で明るくて優しい女の子、希空と学校から帰っている途中だった。
今日学校であったこと、人気の歌手がどうとか、最近流行ってるものとか、そんな他愛ない話をしながら歩いているときだった。
前方にフードを深く被った男がじっとこっちを見て立っていた。
なんだか異様な雰囲気の男に、3人は警戒して立ち止まる。
次の瞬間、男は突然襲ってきた。
3人は逃げ出す。
走って、走って廃家に逃げ込んだ。
3人は各々隠れる。
しかし希空は物音をたててしまいフードの男に見つかってしまった。
ニタリと男が笑う。
いつの間にかナイフを持っていた男は希空にナイフを振り下ろす。
「いやっ!!!」
恐怖に泣き叫ぶ希空。
その時、弱虫で泣き虫の來之衛が男に体当たりした。
「希空!逃げて!!」
しかし希空は恐怖のあまり腰を抜かしてしまい動けない。
瞬間、男は來之衛に向かってナイフを振り下ろした。
真っ赤な血が宙を舞った。
「こ、來之衛っ!!來之衛ーーーーーっ!!!」
來之衛にすがり付く希空を影が覆う。
そして希空はナイフで心臓を1突きされ、絶命した。
琴子はその様子を物陰からただ見ている事しか出来なかった。
引っ張られて歩いている中そんな事を思い出していた。そして琴子は無意識に呟いていた。
「弱い者は一方的に…蹂躙され……殺される」
「生き残れるのは強者だけ」
仮面の男に今言おうとした事の先を言われ驚いて顔を上げる。
仮面をしていて表情は分からないはずなのにどこかその男は哀しげに見えた。
「よく分かるよ」
「…っ、何が目的?どうして私を…っ」
「黒蝶……昨今ではとても珍しい漆黒の髪に漆黒の瞳…誰をも魅了するその歌声…この国で1番大きいコンサート会場でライブするくらい…遠い存在になっちゃったね…琴子ちゃん」
「………」
さっきから違和感があった。
琴子は本当の名前を公にしていない。なのにこの仮面の男は黒蝶を琴子ちゃんと呼ぶ。
ふと、仮面の男のレッドアイのタトゥとは反対の首筋に大きな傷跡がある事に気づいた。
パシッ。
琴子は仮面の男の手を振り払う。
2人は見つめあった。
「嘘だ………その傷は…」
琴子の問いかけに仮面の男は静かに仮面をとった。
「久しぶりだね…琴子ちゃん」
仮面の下にあったその顔は琴子のよく知っている顔だった。
でもその瞳は琴子の記憶の中のとても優しい瞳ではなく、昔からは想像が出来ないほど冷たい瞳をしていた。
「どうして…」
琴子は激しく動揺する。
彼は來之衛だ。あの首筋の傷跡は希空を庇った時に斬られたものだからだ。
そんな中、來之衛は首筋の傷跡に手を当てた。
「本当、遠い存在になっちゃったよね、琴子ちゃんも………希空も…」
どこか哀しげに來之衛は言った。
「どうしてっ…どうしてレッドアイなんかに入ってるの?」
やっとの事で絞り出した声で琴子は來之衛に問う。
「………希空のいない世界なんかどうでもいいからだよ」
そう言って來之衛は笑った。
「何それ…っ!!お医者さんになるって夢は!?希空が夢を叶えられない分、私達の夢は叶えようって約束したよね!?」
「もうどうでもいいんだよ、琴子ちゃん…さ、僕と一緒に行こう」
「っ、痛い」
來之衛は少し乱暴に琴子の手を掴みまた歩き出した。
「何で……私を連れていこうとするの?!」
「上からの命令だよ…」
そう言って振り向き琴子を見下し來之衛は不気味な笑みを向ける。
「黒髪黒目の女は高く売れるから連れてこいって」
「っつ!!!!」
琴子は來之衛がこんな事を言うなんて信じられない気持ちと絶望感でいっぱいになった。
「希空は言ってたよ…2人が夢を叶えてる姿見るの楽しみって、だから3人共夢を叶えようね…って」
「………今更、夢を叶えても希空は帰ってこない」
來之衛は静かに呟いた。
「(平行線だ……これじゃ來之衛に私の言葉は響かない)」
ふと、希空がもしこんな來之衛を見たらどうするかと頭を過ぎった。
「(きっと…平手打ちでもして真っ直ぐに來之衛に言葉をぶつけるんだろうな)」
でも、もう希空はいない。
私がやるしかない。
「來之衛……もう私は昔の弱いままの私じゃないんだよ。」
希空なら、きっと來之衛を傷つけてでも止める。
怖いとか言ってる場合じゃない。
震えるな。もう、昔の、ただ怯えてるだけの私じゃないんだ。
俯いて無抵抗に引っ張られていた琴子は顔を上げ、強い眼差しで來之衛を見た。
「《氷よ我が手を凍てつかせろ》」
瞬間、琴子の來之衛に掴まれてる方の手の体温が急激に下がる。
そして手首が氷漬けになった。
それは琴子の手首から來之衛の手を突き刺すように棘のように突然、現れた。
「!!」
異変に気付いた來之衛が琴子を一瞬動揺したように見る。そして思わず琴子の手を放した。
少し離れたところで琴子が凍った方の手首を抑えながら來之衛を見据えていた。
「へぇ…その力何?昔は無かったよね?」
「《氷よ彼の者を牽制せよ》」
琴子がそう言うと來之衛の周りに氷で出来た無数の刃が現れた。
切っ先は來之衛に向いている。少しでも動こうものなら氷の刃は彼に向かって降ってくるだろう。
「動かないで」
「僕は……止まらないよ」
少しの間睨み合いが続いた。
一瞬の隙をついて來之衛はカードを無数の氷に向かって投げ壊した。
そして琴子を囲むようにカードを正方形に地面に突き刺した。
瞬間、カードが淡く光り出す。
そして琴子の身体に電撃が走った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
琴子は苦痛に顔を歪ませ倒れ込む。
そして來之衛は琴子を肩に担いだ。
「(っつ……身体が…痺れてっ)」
…………
一方、コンサート会場の外では…。
「隊長!突入の準備が整いました」
そう腕につけている機械に言ったのは薄紫色のショートボブの髪に瞳の女性だ。
「了解。」
そう腕につけている機械に返したのは隊長と呼ばれた白金の髪に右がスカイブルー、左がゴールドのオッドアイの20代くらいの若い青年だった。
その後ろには彼の部下達、20名程が控えている。
彼らはガーディアン。
異能を持つ者、アンノウンの犯罪等に対処するアンノウンでできた組織だ。
「全員、突入!」
白金の髪にオッドアイの青年の掛け声と共に隊員がコンサート会場へと突入していった。