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第四話 回顧録~ネサラ編~②

ネサラは長になるつもりもなかったし、なれるとも思っていなかった。自分より強い存在がいることを知っていた。

けれど自分は長になった。先代とノエルの任命によって。言い渡された時、不思議と驚かなかった。心の底では、こうなることを予感していたのかもしれない。自分より強い彼女が、本当はとても弱いことを知っていたから。


今までは強い者が生き残るのが道理と思っていたけど、ここから離れていった彼女は、弱いということだったのだろうか。

それとも強い者が生き残るという考え自体が間違っていたのだろうか。


どちらかにしても、彼女に生きる価値がないなどとは思いたくない。

彼女に対する感情が、何というものに分類されるのかは知らないけれど。


そんな感情を持つようになったのも、母を殺してからだろう。


親子間の争いでは一対一の勝負になることはまずない。兄や姉、父母達がこの時ばかりは団結して襲ってくる。一対一で勝てない相手でも、複数いれば勝率が上がる。その上、魔力が高くても実戦で役立つのは戦闘センスだ。年齢が高ければ高いほど、相手の戦い方を見抜くのは容易。

何しろ、彼らも今まで歴戦をくぐり抜けてきたのだから。

それでも必ずしも勝つとは限らない。


他の時天使とその母が戦うところを見たことがある。数を連れてきた割りにあっさりとやられ、息子に殺されそうになって母親は喚いた。

「今まで育ててやった恩を忘れて、母を殺すというの!?」

死を間際にして頭がイカれたんじゃないかと思った。まるで《人間みたいな》事を言う。育ててやったという何かをしてきたのか、アンタは。

親があんなのでは殺す方が可哀想だ。殺す価値もないようなヤツが母で、殺さなければならない相手なんだから。

自分の場合は母が誇り高くて、恵まれていたのかもしれない。


時天使のほとんどには恋愛感情はない。強い相手と結婚することがステータスだから、するというだけだ。そして子どもはその証明でしかない。だが母にとっては違ったらしい。


母は自分を殺しに来たとき一人だった。

しかも、寿命が間近だったらしい。彼女に流れている時流をみて気づいた。

何故死の間際に来たのか、ネサラには全く解らなかった。自分の寿命に気付かないほどのアホにも、殺しに来る時を計り違えるほどのバカにもみえなかったから、余計に。


殺した後、しばらく後にスルーフが教えてくれた。母と話したことがあると。

「彼女は私達人間に似ていた。家族を、そして君を愛していたんだ。珍しく恋愛結婚だったようだね。だけど時天使の体面上、中々そう振る舞えなかった。自分が時天使じゃなかったら、もっと違う家族になれたのかしらと淋しそうに漏らしてた」

「………それだけに、君の姉上が寿命で亡くなられた時は本当に悲しそうだった。だからせめて、君だけは永く生きて、出来るなら自分と同じように、愛する人と幸せになってほしかったんだろう」


そういえば、母は俺に姉の死を報せに来た。ほとんど会ったことがなかったから、他人事みたいに「ふーん」とだけ答えたけれど。

母は俺に背を向けて「こんなに早く死ぬなんて」と呟いていた。

どうして姉が死んだと知っているのか疑問だった。生まれた後は、勝手に生きて勝手に死ねという親が多い中で。

もちろん、官職に就くという噂を聞けば殺しに行くけれど。


今、ようやく解った。母は俺や姉を見守っていたんだ。


「君の魔力の高さは母上殿もご存知だった。だから寿命で死ぬことよりも、長や側近の就任争いに巻き込まれて殺されるのではと、心配しておられた。それで、死ぬ前に君に殺されに行ったんだ。どうせ死ぬなら息子の戦闘経験になる。そうすれば、後々君の役に立つだろう。自分に出来るのはそれぐらいしかないとな」

「………バカじゃねーのか、あの女。自分が時天使じゃなかったら?時天使じゃない自分なんて存在しねーんだよ。そーゆーのもひっくるめて自分なんだからよ。人間みたいな事言いやがって」

スルーフは何故か笑った。それを尻目に、俺は続ける。

「大体な、これが人間なら大仰に泣いたりするんだろうが、生憎俺はそんなたまじゃねぇ。あの女の、ただの自己満足だろーが」

スルーフがおもむろに口を開いた。

「君がそんな風に傷付いて泣く姿を想像できなかったんでね。でも、何も感じないわけでもないだろう」

「…まぁな。あの女がそうしたのは自分で望んだからだ。同情もしないし、俺のせいだとも思わない。けどまぁ、彼女が母親で恵まれてたんだろうな。それに……正直ちょっと思った。俺らが時天使じゃなかったら……違ってたのかもな。さっきも言った通り、俺は時天使だから俺だし、時天使に生まれたことが当然で、それに疑問を持ったことはないんだが」

不可解な感情に首を傾げると、スルーフが答えた。

「それは、憐れみというんだよ」


優しい目をしていたその男。

後に彼との付き合いで多くのものを理解するようになる。主に人間の感情についてだ。

その度スルーフは喜んでいたが、360歳は違うひよっこに教えられてばかりでは面白くないので、ヤツの大嫌いなシソの葉を混ぜたお茶を贈ったり、ことあるごとにマリクの肩を持ったりもしたが。

他人に対するそんな余裕が出来たのも、やっぱり彼の入れ知恵の賜物である。


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