第二話③ 青い空と恋模様
一方の到は、幸広の自宅の二階にある書斎に入り浸っていた。
「まったく……。いきなり来たいと言うから何かと思えば、本を借りたいなどと……。国立図書館にでも行けばいいだろう」
「またそうやって邪険にするー。みゆりさんはよくて、僕は家にあげられないっていうんですか?」
幸広は午後からみゆりを家に誘っていた。本当はクロウとの決着が付いた直後に一度誘っていたのだが、中々訪ねる気配がないので到に伝言を頼み、こちらから再び誘ったという次第だ。
だがこんな風に茶化されるくらいなら、彼に伝言など頼むんじゃなかったと少しばかり後悔した。元々到は親しい間柄にはそうしてからかうところはあったが、博の影響かここに来て頻度が増えた気がする。
「論点をすり替えるな!!私が聞きたいのは何故わざわざうちに本を借りに来たのかだ!それを口実にうちに来て、私に何か聞こうと思ったんじゃないのか?」
「本当に本を借りたかっただけですよ。君とは長い付き合いです。君が嫌なら無理には聞きませんよ」
困ったようにそう言い、本棚の物色を続ける到。丁度その時、玄関の呼び鈴がなった。
「?みゆりさんでしょうか。もうそんな時間なんですね」
幸広の家の書斎は家自体が広いせいもあり、学校の図書室くらいはあった。当然蔵書数もかなりあり、夢中になっているうちにもう正午少し前だった。
ーーこんな豪邸に一人暮らし出来るなんて、そこらの一般人には無理な話だ。彼は中々いい生活を送っている。
とはいえ、逆に言うとこんな広い家にひとりぼっちなのが少し寂しい気もした。
「かもな。ちょっと行ってくる」
「あー……。じゃあ僕はお邪魔なんで帰りますよ。とりあえずこの三冊、借りていきますね」
興味が湧いた本を適当に鞄にしまいながら、幸広と一緒に階下に降りる。
「?邪魔なんてことはないが……。クライアントならともかく、みゆりは仲間じゃないか」
(だ~か~ら~、そのみゆりさんがまずいんですよ)
心の中で苦い顔をしながら、どう言ったものだろうと悩んでいる到の気持ちなど全然おかまいなしに、
「いや、おまえがいた方が都合がいいかもしれない。もし忙しくないなら付き合わないか?」
などと言い出す始末。
そして彼は玄関の扉を開けた。予想通り、そこにはみゆりが立っていた。
彼女は幸広が出たので「こんにちは」と言ったが、途端彼の後ろに最もムカつく男が居ることに気付き、眉間にシワを寄せた。
「どうして到さんが?」
きっと私が望月さんを好きなのを知っていて、からかいに来たに決まってる。
到をライバルとしてしか見ていないみゆりは、理不尽にも到を悪者扱いした。
「ああ……。うちの書斎に本を借りに来ていたんだ。それでせっかくだから到にも協力してもらおうと思ってな」
「協力?」
到とみゆりが同時に疑問符を浮かべる中で、二人は幸広に「まぁとにかく入りなさい」とリビングに通された。そしてソファーに座り手を組んで彼は言った。
「前回の戦いでは、みゆりは今年受験生だというのにも関わらず半月も旅に出ていた。そのせいで学業が疎かになってしまったのではと心配していたんだ。私は一応家庭教師の経験もあるし、解らないところがあれば今のうちに取り戻しておいた方がいいと思ってな」
幸広は予め用意しておいたらしい問題集の山を、木製の丸テーブルの下から引っ張り出した。
「さぁ、何から始める?」
どうやら彼は教える気満々のようだ。
「………………………………………」
余りにも予想外の展開に、みゆりはただただ絶句していた。
「……………なるほど。君の考えそうなことですね」
到は、何故彼がみゆりを家に呼んだのか、ようやく理解した。
「?何をそんなに驚いている?」
「いえ………。それで、僕が協力っていうのは……」
よもやまさか、家庭教師の真似事をしろというのか。まさか………ね。
「私が家庭教師で担当している科目は文理だ。数学は到の方が得意だったし、時間に融通が利けばと思ったんだが」
そのまさかだった。
(はてさて……。どうしたものでしょうか)
到はまたも、心の中で苦い顔をした。
みゆりは幸広といたがるだろうから、はっきり言って自分はお邪魔虫だ。しかし、彼女の将来を考えるなら勉強を教えた方がいいのは歴然。いっそ本人に聞けたらいいのだが、幸広の前で「みゆりさんが良ければ」というのは嫌味にしか聞こえない。
(大体、鉢合わせってのがまずかったんですよ。どうしてこうタイミング悪いかなぁ)
そう思った時、タイミング良く?赤髪の少年ーーチェイニーが転移魔法で現れた。
「やほ。取り込み中ちょーっち悪いんだけどさ。重大な話があるんだよね。みんなにはもう千慧姉んとこに集まってもらってんだけどさ。今からおまえらも転移させるから」
と、かなり強引に魔法でを発動させ、四人は望月家を後にした。