第二話② 青い空と恋模様
今思えば、ルシフェルバイトしてる場合じゃなくね!?自分の働いたお金でってのはいいけどさ、子供預けたまんまで、親としてやばくない!?
リーナもルシフェルが一週間もバイトするなら先に実家帰んなさいよ(;´д`)
まぁこれ書いたのが十代の頃だったんで……
その辺の私の考えが浅はかだったということで(-_-)
「……………で。
何堂々と見に来てんだよおまえはぁっ!!」
ルシフェルが怒鳴る。そう、リーナは店に入るなり接客をしていたルシフェルを見つけ「やっほー、仕事は捗ってるかい?」などと声をかけたのだった。
「だってー」
こっそり見に行くとか言っておいて自分でもなんだと思ったのだが、リーナがそんなこそこそした真似をするような性格かというと、全くそんなことはなく。
「なんか、そーゆー卑怯臭いのはやだったんだもん!!」
「じゃあ見にくんなよ!!」
ルシフェルの言うとおりである。リーナの言い分は筋が通っているようで通っていない。
「なんでよ!?何で見に来ちゃいけないわけ!?あたしルシフェルの奥さんなんだよ!?他の子は接客してくれるルシフェルを独り占め出来るのに、なんであたしは仕事のルシフェルに会ったらダメなの?!あたしは色んなルシフェルを見てみたいし、いつだって一緒に居たいって思ってるのに!子どもも兄さんに預けてるから、たまには二人で居られると思ってたのに……。仕事だってわかってるけど……ワガママかなって思うけど……。でもここんとこずっと寝る前の数時間しか一緒にいないんだよ?そんなの寂しいもん!!」
端から見たら開き直りとも思えるリーナの発言だが、好きな女にそこまでストレートに愛を伝えられて嫌がる男がいるだろうか。
否。
「だっ!!だーーもぉっ!!なんでお前はそう簡単にか……」
『可愛いこというんだ』と言いかけたが、人目を気にして言葉を呑み込んだ。いや、人目が無くてもこの手の言葉を言うのにはかなり勇気がいる。リーナは自覚したらストレートに愛情表現できるタイプだが、ルシフェルは自覚すればするほど、頭の中がいっぱいいっぱいで言葉に出来ないタイプなのだ。
「か?」
「なんでもねーよっ!!」
「……ルシフェル、君はこういう事に対してホントに余裕がないんだね。相手が姉さん女房で良かったよ。不束な弟ですが、どうぞよろしくお願いします」
顔を真っ赤にするルシフェルを傍で見ていたルーファウスが、リーナに深々と頭を下げる。
「いいえー。あたしの方こそこれからよろしくお願いします」
「兄さん!何人の事ガキ扱いしてんだよ!」
ルシフェルが憤慨する。独身の兄より、今は父親の弟の方が子どもだと言われれば、確かにおかしな話ではあるが。
「だって子どもだろう?奥さんに営業スマイル見られるのが照れ臭い、とかいう理由で来るなって言ったり。まぁ、ガラでもない仕事を頑張った理由は、偉いと思うけれどね」
「理由って?」
その『理由』が気になっていたリーナは当然聞き返す。
「ちょ、ルーファウスさん!」
「それはあと2日の約束だろ!?」
セラフィとルシフェルが慌てふためく。やはり何か隠していたんだ。リーナは不審がって三人を見回した。するとルーファウスがしようがないないなぁと言った顔で言った。
「いーよ、もう。これ以上奥さんを寂しがらせたら可哀想だしね。それに君は実際よくやってくれたよ、この五日間。だからはい、約束のブツ」
そう言って彼が懐から取り出したのは、二つのネックレスだった。鎖の中にそれぞれリングが通っている。一つは赤い宝石、一つは緑色の宝石がついていた。
「赤い方はリーナさんので、緑がルシフェルのだよ。結婚指輪は交換が常識だからね」
「え………え!?もしかして、これくれるために!?」
「………まぁな。俺達の結婚式は急だったし、天使はそういうしきたりないから、用意も出来なかった。けど、ホントはずっとあげたいって思ってて……。妖精サイズのアクセサリー作れるったら兄貴ぐらいだし……」
ルシフェルは照れながらもいつも以上に真面目な顔でリーナを見た。
「ルシフェルは律儀だからね。結婚祝いにプレゼントしてあげるって言ったのに、自分で稼いだ金で作ってあげたいって、私のところでアルバイトをしてたんだよ。それで、君には悲しい思いをさせたと思うけど……、弟なりに一生懸命だったんだ、許してやってほしい」
ルーファウスもリーナを見て優しく微笑んだ。それがまるで全てを受け入れるかのような暖かな微笑みだったので、会ったこともない前世の彼をーー天使達から慕われていた神ノエルを思わせた。そうして、きっと彼は自分達が疑っているような悪い人じゃないのだろう、と感じさせた。
「………許すも何も……。すごく嬉しいよ、ルシフェル。きっと私、世界で一番幸せな奥さんだよ」
ただで作ってもらうのではなく、自分の力で手に入れて渡そうという彼の心が愛しかった。リーナは心の底から、彼を好きになって良かった、彼に愛されて良かったと思った。
「…………僕も、理由はどうあれルシフェルが僕の店で働いてくれたことが嬉しい。実はね、この『赤い月』を、今月いっぱいで閉めることにしたんだ。だから、少しでも多くの人に覚えていてもらいたくて」
ルーファウスはいくつも並ぶガラスケースを見渡して、声を落とした。
「!?なっ……」
「え……?ええっ!?」
ルシフェルは元より、セラフィでさえも知らされていなかったらしく、何を言っているのかとばかりに呆然としている。
「寂しくなるから、まだ誰にも言ってなかったんだけどね。今まで手伝ってくれたセラやスィフトさんにも本当に悪いけど……」
「そんな、どうして!」
セラフィもやはり『赤い月』に愛着を感じていたようだ。ルーファウスの突然の宣言に納得いかずに尋ねる。
「君達も聞いたかもしれないが、もうすぐ第二の戦いが始まる。しかも次の相手は神々と同等の力を持つ存在だ。いくら聖戦士がいるといえど、彼等は普通の人間だ。私やラファエル、ミカエルのように特殊な力を持つわけではない。生半可な覚悟では世界は守れない。だから、私もそろそろ動こうかと思ってね」
「………その、これから起こる戦いのために、クロウをわざと封印させたり、ラファエル様の記憶を蘇らせようとしたんですよね……」
リーナがルーファウスに、今までの行動の目的について問うと、彼は危惧している事由について溜め息混じりに答えた。
「そうだ。少しでも戦力がないと厳しい。向こうはカケラを使える上に、時空天使を味方につけているからな。それも、長クラスの」
「……………!?」
三人の天使は衝撃のあまり言葉を失った。