5.四大アルカナ
同時刻、『女教皇の間』。
「女教皇、教皇が愚者と接触した模様です。」
使いが報告すると、女教皇は高笑いした。
まるでこのことは予想通りであったかというように。
「そう…ついに動き出したのねえ…。」
女教皇は一切動じることは無く、この状況を楽しんでいるようにも見える。
教皇の狙いは何なのか、そして愚者は今後どう動くのか。
彼女の脳内を様々な考えが巡る。
そんな中、ある一つの答えにたどり着いた。
————
「明日は雨が降るらしいよ、愚者」
教皇は突如として俺に話しかける。
さらに、その内容は『明日の天気』ときた。
正直どう言葉を返そうか、俺はかなり迷っていた。
「そうなんですね。俺は雨は嫌いです」
こういう時は大体、話を合わせておくと会話も続くはず。
「ところで」
あっ、話題転換ですか。そうですか。
「僕が君をここに呼んだ理由を教えよう、愚者」
教皇は興味深そうにこちらの表情を窺うように眺めながら話を進める。
基本的に、俺は感情を表に出すタイプではない。
俺の表情を探ろうが得るものはないと思うが。
「単刀直入に言うと、僕の幹部にならないか?」
四大アルカナはそれぞれ大きな派閥を持っている。
教皇ならば騎士を従えているし、確か法皇には執行人と呼ばれる直属の部隊があったはずだ。
今教皇が俺に放った言葉はつまり、教皇の下で、教皇のために働けということか。
「お断りします」
「やはりか、まあ大方予想通りだ。理由を聞いても?」
「俺は平和主義者なもんで、無駄な争いはしたくないんですよ。四大アルカナ同士、いつ首を取り合ってもおかしくはない冷戦状態だという事は知っていますが…。そんなもんには巻き込まれたくないですね」
何回も言うが、俺は平和主義者だ。
しかし、俺の平和を乱す者に容赦はしない。
今は四大アルカナの争いや、その他の無駄な争いに巻き込まれることは少ない。
だが、こんな平和も束の間なのだろうという事は、俺にも十分分かっていた。
このタイミングで俺を引き入れようとした教皇。
恐らくだが、近々四大アルカナに何かしらの動きがありそうだ。
————
愚者が教皇の間を去った後、騎士団長が口を開いた。
「よろしかったのですか、教皇。貴方の最大の目的は彼を引き入れることでは?」
教皇は紅茶を口に含み、それをゆっくりと飲み込んだ。
カップをソーサーの上に置くと、静かに立ち上がった。
「愚者というカード…。それは、変化を求めていると言われてね。彼もまたそうさ。彼は必ず僕のもとにもう一度やってくるよ」
教皇は微笑んだ。
騎士団長も教皇という男をよく知っている。
だからこそ、彼が根拠もなしにこんなことを言うはずがないという事もまた分かっている。
その眼に映っている未来のビジョンは、一体どんな未来を描いている————
5話です。順調です。
これからもご愛読よろしくお願いします。