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学園タロットカード  作者: チンピラゲーマー
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3.愚者と治療者 『ヒーラー』

昨日、俺の机の中に見知らぬ連絡先が記載されている紙切れが入っていた。

俺はその番号に電話を非通知でかけることにし、実際にその番号の主と話をした。

その主は俺に頼みがあるという治療者(ヒーラー)だった。


詳しい話は今日の昼休み、屋上でとの事だ。

俺は午前中の退屈な授業時間を、怠惰にもほとんど睡眠に使っていた。

なぜなら俺は昨日の夜、ある男と少し長話をしてしまったからだ。

ああ眠い。少しだけ眠ろう。


英語科の教師が教壇に立って説明をしているが、その内容は全く頭に入ってこない。

結果俺は睡魔と手を取り合う事にした。


――――

昼休み、その時はやってきた。

俺はむくりと体を起こし、のろのろと屋上目指して歩き始める。

4限分睡眠を取ったため、かなり身体はすっきりとしていた。

起きたばかりでまだ少しの眠気は残っているが、体力は回復している。


俺は足を進め、屋上のドアノブに手をかけた。

ゆっくりとドアを開けると、一人の女子生徒がこちらに背を向けるようにして街並みを眺めていた。

おそらく彼女が昨日俺に連絡先を渡した治療者(ヒーラー)だろう。

振り向く気配もないので、俺は声をかけることにした。


「来たぞ、俺に頼みたいことってなんだ?」


すると、彼女はゆっくりとこちらを振り向いた。


「初めまして!『花園 彩佳(はなぞの あやか)』と言います」


その声は電話で聞いた声と同じだった。しかし、妙にぎこちない感じがする。

それに、この学園内では役職で呼び合うのが普通だ。

しかしそれを嫌い、本名で呼ぶように促す生徒もいるが、大半の生徒は役職で呼ばれることを容認している。

彼女が俺に名前を名乗ったのにはおそらく、こちらの信用を少しでも買いたいということだろう。

一応、彼女は俺に頼みごとがあると言って呼び出したのだから。


「私は昨日もお話した通り、治療者の一人です。それでお願いっていうのは…その…」


彼女は自分の胸に手を当て、一度深く息を吸って吐いた。

しかし、途端に彼女の身体が小刻みに震え始めた。

両腕を肘のあたりで交差させ、深呼吸をしたはずの息も荒くなり始める。


「おい、大丈夫か?」


今にも膝から崩れ落ちそうになった彼女を受け止める。

どうも緊張だけでこうなるとは考えにくい。

それ以外に何か彼女をこうさせる理由が?


…となると———


俺はすぐに彼女を抱え、その場を離れた。

直後に背後でドォォンと大きな物音がした。


「お前は…一体何のマネだ」


誰かが俺達を背後から襲ったのだ。

恐らく彼女はこの事を知っていた。


「よくも…よくも俺様の連勝ォォォ!!」


そう、俺達を襲ったのは一昨日、俺が対戦した騎士(ナイト)だった。

つまりこの治療者は利用されたってことだ。

脅されでもしたんだろう。どうにかして俺を呼び出せと。

という事はまず第一に、この治療者を守る必要がある。

騎士が俺の奇襲に失敗した以上、こいつを人質にされる可能性だってあるからだ。


俺は治療者を床にそっと置いた。

騎士は剣を握りしめ、今にも俺に攻撃を仕掛けてきそうだった。

その眼には憎悪や怒り、憤りといった感情が見て取れる。


「ウォォォォォ!!」


騎士は剣先を俺の方へとむけて突っ込んできた。

今俺がこれを避けると後ろにいる治療者が死んでしまう。

ならば()()を使うしかないか――—


ガキィィィン!!


しかし、どうやた俺が手を下すまでもなかったようだ。

後ろ姿だけを見てもはっきりとわかる、その美しい赤髪。

そう、騎士団長(ナイトリーダー)だ。


「なッ!?」


騎士団長は騎士と(つば)迫り合いの形になっていた。

だが、力の差は圧倒的に騎士団長に分があったようで、押し切られそうになった騎士は後方へと下がった。


「遅れてすまなかった、愚者(フール)


「死ぬかと思ったぞ、騎士団長。あとは任せても大丈夫か?」


「ああ。任せたまえ」


俺はひとまず、治療者の彼女を抱えて屋上の階段まで走った。

騎士団長と騎士は向かい合う形で何かを話していたようだが、俺はそれに耳を傾けなかった。

この治療者を安全なところまで運ぶのが最優先と考えたからだ。


————


「さて、一度敗北した人間に個人的な感情で復讐をしようなどと試みた愚かな騎士よ」


「黙れッ‼」


どうやら頭に血が回っているようだ。

ここは一旦、彼を冷静にするところからか。

しかし、私の脳はある一つの決断を下そうとしていた。


『この愚かな騎士に鉄槌を。』


私は一度決めたことはそう簡単には覆すことが出来ない人間だ。

それは自分が一番よく分かっているからこそ、私は(さや)から剣を抜き、今こうして構えているのかもしれない。


「ただ戦っても私が勝つだけだからな…そうだ。一つ条件を付けよう」


「何だと…?」


私は即座に思い付いた考えを言うことにした。


「もしお前がこの勝負に勝てば騎士団長(ナイトリーダー)をお前に譲ろう。しかし、私が勝てば…」


ただの思い付きにしては突飛な発言かもしれない。

だがこうすることでより勝負を楽しむことが出来るのだ。


「二度と私の前に現れるな」


騎士という生き物は剣を剣を交わすことでしか分かり合えない。





第3話です。少し期間が開いてしまいましたが、また徐々に上げていこうと思います。

どうぞご愛読よろしくお願いします。

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