2.騎士団長 『ナイトリーダー』
今日もこの学園のどこかでは役職争いが起きている。
少しでも上に立ちたいという人間の私利私欲が垣間見える争いが。
昨日もどうやら愚者と騎士の争いがあったようだ。
しかし、私には関係のないこと。
私は日々起こる戦いのもとに集められる『治療者』の一人。
役割はその名の通り、決闘の敗者の傷を治療するというもの。
学園のルールとして、決闘の場には必ず治療者を一人配置しなければならないというものがある。
治療者は大アルカナのように特別な力を持っているわけではないが、代わりに傷を治癒できる魔法を持っているのだ。
しかしまあ、昨日その現場にいた治療者によれば、愚者の圧倒的な勝利だったという。
そして以前にあった女教皇と吊るされた男の決闘もどうやら女教皇の一方的なものだったらしい。
これらから分かるように、大アルカナとただのアルカナでは圧倒的な力の差がある。
また、それは大アルカナ同士でもそれは同じ。
自分が決闘する側じゃなくてよかったとは思う。
ましてや学園の誰かに無様に負けて血を流している所を治療されるなんて私は死んでも嫌だから。
――――—
昨日、屋上であった一件は瞬く間に学園中の噂となっていた。
俺が登校してくると奇異の眼差しをむけてくる者や、何やら無言で偵察でもするかのように俺の事を眺めている者もいる。
そんな中俺は今日、朝から騎士団長に呼び出されている。
騎士団長というのは、騎士を束ねる長だ。
因縁をつけられて決闘——なんてことは避けたいが。
俺は騎士団長が指定した校舎の離れにやってきた。
そこには一本の大樹が生えており、その木陰に人影があることに気がつく。
「来ましたよ、騎士団長」
「よく来てくれた。すまないな、こんなところに呼び出して」
綺麗な赤色に染め上げられた髪、胸には騎士団長であることを示すバッジ。
間違いなく騎士団長だ。
「それで、一体何の御用なんです?騎士団長が愚者の俺を呼び出すなんて」
「我が騎士団の者が、お前に迷惑をかけてしまったことを詫びておきたくてな」
「いえ、別に俺は構いませんよ。正当な理由で決闘を挑まれたものですから」
「昨日の件で君は間違いなく大アルカナ達にマークされただろう。しかし、それには私の騎士達に対する教育が足りなかったという責任もある。だから、もし君がこれから困った時にはいつでも私を呼んでくれ」
騎士団長はブレザーの内ポケットから紙切れを取り出し、それを俺に差し出した。
そこには騎士団長の連絡先が丁寧な字で記載されていた。
「何も騎士団長がそこまでしなくてもいいのに。…まあでも、正直有難いです。俺は無駄な争いは避けたい人間なので」
「いや、いいんだ。気にするな。この学園にもそのような思想を持つ人間が増えてくれればいいのだが。それでは、私はここで失礼するぞ」
騎士団長はゆっくりと歩きだした。
俺も少し時間をおいてから校舎内へと戻ることにした。
――――—
自分のクラスに入り、席に着こうとした時だった。
俺の机の中に見知らぬ紙切れが入っていたのだ。
取り出してみると、騎士団長のものとは違い、少し雑な字で連絡先が記載されていた。
誰が入れたのか、当然心当たりはない。
しかし気になった俺はその日の夜、記載されていた番号に非通知で電話をかけることにした。
番号を入力し、3コール程が経ったときだった。
『この番号に電話をかけてくるって事は、連絡先は無事に届いているみたいですね!』
その声はかなり明るめの女子の声だった。
すぐさま俺は質問を投げかける。
「いったいどこの誰だ?俺に連絡先を教えて何がしたい?」
『私は治療者の一人なんです。実はあなたにお願いがありまして…』
「治療者が俺に…?なんだ?」
『あなたは昨日、50連勝もの騎士を見事に打ち破ったそうじゃないですか。その力を貸してほしいんす!詳しいことは明日の昼休み、学園の屋上で話がしたいんですが…ダメですかね?』
聞いている限り、おそらく彼女の言葉に嘘偽りはないだろう。
それに、彼女が俺に嘘をつくメリットはない。
「…分かった。聞きたいことはまだまだあるが、明日に聞こう」
『本当ですか!?それじゃあ明日の昼、お待ちしていますね!』
機械音が鳴り、電話が切れた。
それにしてもまだ、俺の中の不信感はぬぐい切れない。
そこで俺はある男に電話をかけておくことにした。
第2話となりました。
未だに小説家になろうの使い方がよく分かっておらず、読者の皆様にはご不便をかけることがあるかもしれません。
ですが、私なりの世界観で今後も作品を作り続けていこうと思っていますので、温かく見守っていただければ幸いです。
早くも1話をブックマークをしていただいた方がいらっしゃいました。
こんな新人の作品ですがどうぞご愛読よろしくお願い致します。