1.愚者
世の中の人々には必ず決められた役職がある。
例えば消防士ならば火災が起こった際に消火活動を行ったり、教師ならば生徒の教育のために自らの知識をふるう。
それは学園内でも同じこと。
社会に決められた役職があるように、学園にも決められた役職は存在する。
「吊るされた男のアナタごときがこの私に歯向かうなんて良い度胸してるじゃなぁい?」
「女教皇、俺はお前の考えにだけは共感できねえ。エゴの塊みてえな自分中心に考えを推し進めるヤツの考えには」
「皆仲良く手を繋いで、なんてことがこの学園で出来るとでも思ってるのかしらぁ?だとすればアナタの脳内どこまでお花畑なのかしらねぇ」
「さっさと始めようぜ?女教皇…。俺はお前が無残にくたばる姿が見たくてたまんねェ!」
「なら私はアナタをあのタワーのてっぺんから吊るすことにでもするわぁ」
役職同士には必ず上下関係が存在する。
たとえ超えられない壁だとしても、下の役職の者は上の役職の者に牙をむく。
こうしてまた一人、学園の中から男子生徒が姿を消してゆくのだ。
――――—
この学園ではタロットカードで決まる役職こそがすべてだ。
例えば女教皇はタロットカードで言うところの大アルカナの2番。
それに対し、吊るされた男は大アルカナの12番。
この場合は女教皇の方がこの学園での地位は高い。
いや、地位だけではない。権力やありとあらゆる力が上回っている。
俺に与えられた役職は『愚者』。
愚者は大アルカナの0番。この学園では優劣がつかない人間だ。
優劣がつかないというのは意外といいもので、学園内の無駄な争いにも巻き込まれない。
この役職がこんな変わった学園の中でも難なく生活できている、最も大きな要因というわけだ。
今日も今日とて変わらない変凡な日々。
俺はこんな日々に徐々に飽きを感じていた。
「オイ、そこのお前」
今にも俺の日々は変わっていきそうな気配がした。
と言うか、屋上に人が来るなんて珍しすぎるだろ…ここは俺の場所なのに。
「僕ですか?」
「お前以外に誰もいねえだろうが」
案外的確なツッコミを入れられて驚いている俺だが、流石にこの流れは分かる。
これは不良に絡まれてる、か弱い男子高校生の図だな?
「僕に何の用でしょう」
「俺ァ騎士だ。もう言いたいことは分かるよな?騎士は学園の人間に100連勝すれば騎士団長への挑戦権が与えられるだろ?今俺ァ50勝まで来てんだ…勝負しようぜ?」
そういえばこの学園にはそんなルールがあったな。
入学時に騎士という役職が与えられた人間はこの学校の役職を持つ人間に100連勝することで騎士団長への挑戦権が得られる。
そこで騎士団長を破った者は騎士長となることができる、だっけか。
「残念ですけど、俺は役職持ってないんで」
俺は嘘をつくのには自信がある。
「嘘つけ、お前は持ってるだろう?」
秒でバレたな。
今の嘘かなり自信があったんだが。
「俺は、挑む相手の事を徹底的に調べ上げてから勝負をするクチでな。なあ?勝負しようぜ…」
なるほど。
だとすれば俺の手の内はもう明かされてるって訳か。
まあ…
「愚者よぉ?」
何というか、命知らずだというか…。
その後、屋上で一人の騎士が倒れているのが発見されたみたいだが、ちなみに俺は何も知らない。
私の処女作品となりました。
タロットカードの知識がなくとも読みやすいと思っていただけるよう、努力してまいりたいと思います。
どうぞご愛読よろしくお願いします!