006 初依頼完了といいこと
俺はクラウソラスとなったアルゼリアを振るい、いとも容易くマンティコア2体を屠った。
「おいおいおい、すげーなガルフ!! 何がどうなってんだ」
「そうそう! それにアルゼリアはどこへ行ったの?」
「その剣には強い霊気を感じます。いったいどこから出したんですか?」
マルケルス、リオーナ、ユニスが俺を質問攻めにする。ま、こういうリアクションは予想していたが。
「まず、この剣は伝説の魔剣クラウソラス。その力は見ての通りだ。で、アルゼリアはこの剣の本体、剣に宿った魔神なんだ」
「えぇぇえええ!!」
リオーナとユニスがそろって大きな叫び声をあげた。
「まじかよっ!」
「アルゼリアは俺と契約を交わしている。普段は人の形をしているが、魔剣の力が必要な時は剣に変身する。というか、人の形をしている時の方が変身した姿なのかな」
「この目で見てなきゃ、信じられないわ、こんな話」
リオーナが眼を丸くしている。ま、無理もない。彼女は「ちょっと触らせて」などと言って剣に触っている。
「魔神ということは、私の神の敵っぽいですね……」
神官のユニスがジト目で俺を見ている。やめろ、俺を神の敵みたいな眼でみるのは。
「ま、まあアルゼリアはお前らもちょっとだけだが付き合ってみただろ? 悪い奴だと思うか? ユニス」
ユニスは少し考えた後――
「いいえ、そうは感じませんでした。そうね、まだ何も悪さはしていないのだから一方的に滅するのも良くないですね」
滅するのかよ!! おいおい、ユニスちゃんって結構怖い性格してんのな。敵と思われないように気をつけんとな。
「じゃあ、そろそろ人化させるぞ。 レナト(人化)!」
俺が人化の呪文を唱えると、アルゼリアの姿に戻り、って忘れてた!
俺はアルゼリアに押し倒されていた。胸が俺の顔に押し当てられている形だ。ひじょーに格好悪い。
「な、な、な、何してるんですか?」
リオーナが顔を手で隠しながら俺を追求する。まずったなぁ。剣を握ったまま人化すると、いつもこうなってしまうんだった。しばらく剣にしてなかったから忘れてたな。リオーナやユニスに俺が変態だと思われてしまうではないか。
「オイっ、早く離れろ」
俺は抱きついたママのアルゼリアを引き離そうとする。
「良いではないか。我は剣となって力を出すと腹が減るのだ。気を補給しないとまた剣になれぬ」
こいつわぁ。いつも剣になった後はこうだよな。
仕方がない。俺はアルゼリアの耳元でささやいた。
「今夜な。こんな所じゃ無理なのは分かるだろ」
「その言葉、忘れるでないぞ」
アルゼリアはようやく俺から離れてくれた。剣として役にたつんだが、その後の始末には困ったものだ。まったく。
「それじゃ、帰りの時間もあるし、早速5層に降りようぜ」
マルケルスが場を収拾してくれた。ナイス、マルケルス!
**
第5層に降りた俺達は、無事リオーナの妹が必要とする薬草を手に入れることができた。帰り道はとくに強い敵にも出会わず、俺達は無事フリギアへ帰ってくることが出来た。この薬草の採取によって、今回の冒険は無事達成されたってわけだ。めでたい!
「良かったな、リオーナ」
「ええ、ありがとう! 今回はあなたのおかげよ、ガルフ。あなたが居なかったらマンティコアは倒せなかったわ」
リオーナは笑顔になって素直な感情を俺に向けてくれた。目的の物が見つかって張り詰めていたものが無くなったようだ。
「そうだな。俺もガルフと一緒に冒険して、戦士として学ぶことがあったぜ」
そう素直に感謝されると、俺も照れてしまう。
「ま、まあそれは良かった。何か得るモノがあったんなら、単なる仕事以上のことが出来たってわけだ」
「あれ~、ガルフさん照れてるんですか? あんなにエッチなのに」
ユニスっ! 照れ屋なのとエッチなのは関係ないだろ!
うぷぷぷっ
アルゼリアが横で笑っている。こいつめ、お前のせいだろうが!
「アルゼリアさんもありがとう。なんか珍しいものを見せてもらったし」
リオーナがアルゼリアにも感謝する。いい子だな、この子。厨二だけど。
「なに、我はガルフに従ったまでだ。礼なら我の分までガルフにするが良い。我はガルフから謝礼を受け」
「おっと!!」
俺はアルゼリアの口を閉じた。こいつ、放っておくと余計なことばかり口にしやがる。
「またガルフさんたちと冒険したいわね」
「そうだな、こんな腕の良い助っ人はそうそう居ないからな」
そう言うユニスとマルケルスに対して――
「俺たちはしばらくこの街にいるつもりだ。俺たちの力が必要になったら、またギルドに依頼すると良い。依頼じゃなくて一緒に飲みたいってことなら、『海馬の角亭』に来てくれ。俺とアルゼリアは酒飲みだから、いつでも付き合うぞ」
「ははは、それじゃまた頼むわ」
俺はマルケルス、リオーネ、ユニスのそれぞれと固く握手して別れた。
**
「フリギアでの初冒険はどうだった、ガルフ」
部屋に戻った俺たちは、向い合ってワインを飲んでいた。ギルドから依頼料をもらったので、少し高めのワインを買ったのだ。
「からかうな。俺たちにとっては大して得るものがなかったのは知ってるだろ?」
この依頼を受けたのは生活のため。大して経験が積めたわけじゃないし、ヒルデグリムのパーツや情報が手に入ったわけではない。
「そう簡単にヒルデグリムが見つかるものか。お主はせっかちな奴よの」
こいつの見た目は18歳ぐらいだが、実は魔神として数百年は生きている。そんな奴からしたら、人間なんてせせこましく生きているように見えるのだろう。っていうかお前が呑気すぎるわ!
「4つまでパーツを集めたのだ。残りは3つ、焦る必要もあるまい」
「妹の事は気にならないのか? アルゼリア」
「ふん、あやつも魔神、長き時を生きてきたのだぞ」
そう、魔鎧ヒルデグリムに宿る魔神ロゼッタはアルゼリアの妹だ。アルゼリアは俺に力を貸す代りに、妹のパーツ探しに協力するという契約を結ばせたのだ。
「だがガルフ、心配してくれて我は嬉しいぞ」
アルゼリアが急に猫なで声を出し、俺にしなだれかかってきた。あぁ、来たなコレ。
「昼間の約束覚えておるか? 我はもう気が欲しくてたまらぬ」
「分かった、分かった」
ま、これは半分義務みたいなもんだ。魔神として力を使ったこいつは、その後人間から気を補給しないと再び力を使うことができないのだ。
俺が普段こいつを剣として使っていないのは、無闇に力を使えないからだ。
冒険で魔剣クラウソラスの力は必要、だからあくまで義務だぞ?
俺はお姫様抱っこでアルゼリアをベッドまで連れて行くと、その唇にキスをした。
「うん、うぅう」
こういう時のアルゼリアは意外にウブな一面を見せる。魔神ってのはそっちの経験が無いんだろうな
俺はアルゼリアを強く抱きしめるとベッドに押し倒す。俺は自分の着ている服を脱ぐと、アルゼリアの服も乱暴にはぎ取る。
「少しは優しくせい」
「お前はこういう乱暴な方が好きだろ?」
アルゼリアは照れたように俺に背を向ける。その背中から俺は首から胸元へと手を回し、ピタリと体をくっつけた。
ドクン、ドクンとアルゼリアの体温と鼓動を感じる。魔神が気を回復するには、こうやって人間と肌を接するのが一番なのだそうだ。
俺はそのまま一晩中、アルゼリアをベッドで抱きしめ続けてやった。