005 アルゼリア=クラウソラスの真価
「俺とアルゼリアがマンティコアを一体ずつ引き受ける。マルケルスは牽制して俺たちを援護しろ! リオーナは防御魔法をかけた後魔法で攻撃、ユニスはブレスに適時回復魔法だ。敵は強いが、俺たちがいれば大丈夫だ。冷静に自分の役割を果たせ!」
非常時だったから、俺はマルケルスの頭越しに指示を出してしまった。まあこんな状況だ、許してくれるだろう。
「分かった!!」
みなが自分の役割を果たすために行動し始める。リオーナが俺とアルゼリアにプロテクション・アーマー(防御力強化)とマジックシールド(魔力障壁)をかけてくれた。
そしてユニスはパーティー全体にブレスをかける。士気を高揚させ、最良の状態で戦いに望めるようにする神聖魔法である。
やっぱりパーティーにはマジックキャスターが必要だよなぁ。俺の気分も高揚してきたぜ!
「さて、これほど強い相手は久しぶりだな」
俺は独り言をつぶやきながら、マンティコアに向かって歩き出した。
マンティコアはゴニョゴニョと口を動かしている。奴め、魔法を唱えているな。
「させるかよっ!!」
俺は奴に向かってダッシュする。だが、魔法の初撃を食らうのは仕方がないだろう。
「ジー・エルクス・ブリクス・ラムダ スレイド・オリクト・ラムシス・エイダ レイ・アルムード・バイロン・イシス 漆黒ノ闇間ヨリ来タレ 雷光ノ力 我ノコノ手ニ収束セヨ」
マンティコアは第三位階のライトニングを唱えていた。奴の詠唱が完成し、周囲に雷の力場ができ、放電現象が起こる。
ジリ、ジリッ!
「ちっ、さすがに上級の魔法を唱えて来やがるな」
そう毒づきながらも俺は足を止めない。マジックキャスターを相手にするには、とにかく懐に飛び込むことだ。
マンティコアから直線上にライトニングが伸びる。一端放たれた魔法はまずかわせない。
俺は呪文をまともに食らってしまう。
――だが
リオーナのマジックシールドにくわえ、俺は呪文を食らう瞬間に精神を集中し抵抗力を高めていた。
俺ぐらいの戦士になると、この抵抗力っていうのもかなりのもの。第三位階くらいの魔法ならなんとか耐えられるのだ。
ビリビリっ、と俺の体を雷が貫いていった。体の奥に燃えるような痛みを感じたが、俺は構わず魔獣に突進する。
「うぉおおお!」
呪文を放って無防備な怪物に剣を振るう。俺は奴の右前足を切り落とし、胸部に深い傷を負わせた。これは重傷なはず。
ここまで接近戦になるともはや魔法は唱えられまい。だが、怪物はその巨体を活かして攻撃してくる。
前足の蹴り、突進など。しかし俺はそれを予測していて当てさせない。
「ガルフ、危ない!!」
マルケルスの言葉で俺はハッとする。視界の横から尖ったものが俺を突き刺そうとしていたのだ。
「くっ」
俺は寸前で地面にころがり、それをやり過ごした。マンティコアの尾だ。奴の尾はサソリのもので、鋭く尖っているうえに、猛毒を持っている。そこにリオーナのフレアが奴に当たり、俺が立ち上がる余裕を作ってくれた。
「助かったぜ」
俺は牽制役に徹しているマルケルスに礼をいった。奴は俺とアルゼリアの中間の位置にいて、二体のマンティコアにちょっかいを出して牽制してくれている。
「なぁに。お前にばかり危険な目に合わせちまってるからな」
マルケルスが片目をつぶる。こいつなかなか良いやつだな。
俺は魔法で援護してくれたリオーナにも親指を立てて礼を言う。
「い、良いのよ! 自分の役割を果たしただけなんだから」
余裕ができた俺は、アルゼリアの戦況も見てみた。向こうも優勢のようだが、マンティコアの息の根を止めるには至っていなかった。あいつめ、本気で戦ってるのか怪しいところだ。
二体のマンティコアは傷ついてはいるものの、いまだ健在。完全に倒すにはもうちょっと強いインパクトが必要だな、うん。
俺は持っていた剣を鞘に収め、アルゼリアに向かって呼びかけた。
「アルゼリア、例のやつやるぞ!!」
こちらに振り向いたアルゼリアは不敵に微笑んでいた。悔しいがそれはハットするほど美しい。
「我の名を呼べ! ガルフ!」
俺は両手を上に掲げ、架空の剣を握るように形作った。
「我が召喚に応じよ、ク・ラ・ウ・ソ・ラァスっ!!」
キィイイイン!
眩い光が当たりをおおう。
「なんなんだ!?」
マルケルスたちが突然の強い光にくらみ、視界を失っている。
やがて光がおさまると、俺の手には一振りの剣が握られていた。
クラウソラスは光の剣、その刀身には絶対不敗の光の力が宿っている。
「ガルフ! 一体何が起こったんだ!? これはお前がやったことなのか!」
「詳しい話は後だ。いまこいつらを始末してやるからな」
俺はクラウソラスを横に持ち、刀身に中指と人差し指を押し当てた。
「光の神、光の神霊に申し上げる、我猛き武神の末裔にして、汝が力を欲したり、汝は不敗、敵は敵にあらず、光輝な炎、至高の光、その力もて我が前に立ちふさがりし者を滅っし給え!!」
早口で呪文を唱えると、クラウソラスが光のオーラを刀身に宿す。
きたぁあああ!! いくぞっ!!
「クレイヴ・ソリッッッシュ!!」
俺はクラウソラスの真の力を解き放った。クラウソラスは「光の剣」。その光はあらゆるものを断ち、放たれた刃はかわすことのできない絶対不敗の剣。
光の刃はマンティコアを真っ二つにし、さらにその肉塊を光の炎で蒸発させた。そして俺は返す刀で、もう一匹のマンティコアも同じように容易く屠ったのである。
気に入っていただけたら、感想やブックマークお願いします!