004 こんな強敵がでるなんて聞いてないんだが
俺たちはそれからも何度か戦闘を繰り返し、3層に降りていた。幸いそれほど強力なモンスターもおらず、ユニスの回復魔法もあってほとんどダメージを負った者は居なかった。
まあ大抵の敵は俺一人でも倒せるのだが、この冒険は彼らのものだ。しゃしゃり出て余計な事をするのは良くない。
道中パーティーの連中と話をして大分親しくなってきた。
「ところでこのパーティーの名前、なんで『魔眼』なんだ?」
俺がふと漏らした疑問に、「魔眼」の奴らがピクリと反応する。ハハハ、とマルケルスが側で笑っている。
「実はリオーナは」
「マルケルス!!」
説明しようとするマルケルスをリオーナが慌てて止めようとする。なんだ、なんだ?
「『魔眼』という名前は、リオーナさんが名付けたものなんですよー。もともとこのパーティーを作ったのはリオーナさんなんです」
ほう、リオーナさんがねぇ。さては。
「で、なんで魔眼なんです? リオーナさん」
俺は意地悪くリオーナをちくちく追求する。
「リオーナは魔眼の持ち主なんだよな? なぁリオーナ?」
「やめてよ!!」
マルケルスの言葉に、リオーナは真っ赤になってあさっての方向を見ている。
「もともと俺たちは幼なじみなんだ。小さい頃からこの面子で遊んでたんだよ。その頃のリオーナは、なんというかアレな時期でね、自分には『魔眼』があるのだぁ~とか言ってたわけよ」
うむ、誰にでもそういう時期はあるぞぉ、リオーナちゃん。別に恥ずかしいことではないさ、ククク。
「その頃から俺たちのグループは『魔眼』って名前だったんだ。それを今でも使い続けてるってわけさ」
「もぉお! 何度もパーティーの名前変えようって言ったのよ! でも二人がいつも反対して、2対1で却下されちゃうんだから」
リオーナが真っ赤になって訴えた。マルケルスはともかく、ユニスもいい性格してやがんのね。
――それから2時間後
俺たちは第四層に降り立っていた。薬草の生えている5層まであと一階層だ。
「リオーナ、妹さんはその薬草で治るのか?」
後ろを歩いていたリオーナが俺の横に並ぶ。
「一時的に症状を緩和するだけ。根本的に治癒できるわけじゃないわ」
「治す方法は無いのか?」
「私はそれを探しているの。とりあえずの冒険者として生きる目標みたいなものね」
神聖魔法の治癒では、傷を塞ぐだけで病気は決して治せない。薬や特別な魔法、アイテムなどを使わなければ無理だろう。
リオーナ、まだ若いのに重たいものしょってるんだな。お気楽な俺やアルゼリアとは大違いだ。
前を見ると、ダンジョンの道は細く、奥の方までずっと続いている。しばらく分岐はなさそうだった。
俺たちはその道を抜け、階段のある開けた空間にたどり着いた。
マルケルスが後ろを振り返り、しばらく休憩をとることになった。
「ふう、これでやっと5層に降りられるな。どれくらいかかった?」
「約4時間といったところです。なかなか良いペースじゃないかしら?」
ユニスが側にあった岩に腰掛けながら答える。汗ばんだ体に法衣がくっつき、結構エッチな感じになっている。むっ、ユニスちゃん、いいおっぱいしているな。リオーナの貧乳とは大違いだ。
「ここでちゃんと休んでおけよ。こっからはリオーナとユニスの魔法にもっと頼ると思うからな。ガルフ、アルゼリア、あんたらにはこんなことを言う必要はないだろうが、ここのダンジョンは5層からモンスターが強くなってくるんだ。一応気を引き締めておいてくれよな」
俺が妄想をたくましくしているのとは反対に、マルケルスがパーティーに注意をしている。
「了解だ。いままでが弱いモンスターばっかりだったから拍子抜けしてたところだ」
俺はさも冒険のことを考えていたかのように振る舞った。さすがに女の子の体を睨め回していたとは言えない。
「えぇ? これでも私たちにとっては結構強かったけど。ガルフとアルゼリアって相当強いのね」
俺の答えにリオーナが反応する。ふふふ、俺たちは上級レベルのダンジョンに何度ももぐってるから、この程度じゃ準備運動にもならん。この分じゃ5層に言っても大して強そうな敵は出てこないんじゃないか。
「さて、そろそろ」
行くか? と俺が言おうとした時――
「なにあれ!?」
ユニスが恐怖に満ちた声で、俺たちが来た方向を指差した。みなの視線がそっちに集中する。
そこに居たのは老人の顔、ライオンの体、コウモリの翼にサソリの尾を持つ魔獣が2体。
「なんだあれは……」
マルケルスやリオーナたちが呆然としている。知らないのか?
「あれはマンティコアだ。かなり強力な魔獣だぞ!」
俺の声もちょっと緊迫した調子になっている。マンティコアはかなり上級レベルのモンスターで、普通こんなところで遭遇するようなもんじゃない。中級クラスまでのパーティーなら一匹で全滅してもおかしくない。
「あれがマンティコアか。俺初めて見たわ」
マルケルスがゴクリとつばを飲み込む。
「わたしも」
リオーナたちは他人事のように話している。事態がまだ飲み込めてないのだろう
「奴は優れたマジックキャスターだから魔法に気をつけろ! それとしっぽには毒の針があるから、それにも注意しろよ。気を引き締めないと全滅しかねんぞ!」
俺は呆然としている「魔眼」の奴らに発破をかけた。さすがに呑気にしていられる状況じゃない。
「アルゼリア! お前も前に出てこい」
「りょーかい。やっと出番ってわけね」
アルゼリアはこの状況でも全く緊迫感がない。まったく、この女は。
「俺とアルゼリアがマンティコアを一体ずつ引き受ける。マルケルスは牽制して俺たちを援護しろ! リオーナは防御魔法をかけた後魔法で攻撃、ユニスはブレスに適時回復魔法だ。敵は強いが、俺たちがいれば大丈夫だ。冷静に自分の役割を果たせ!」
こうして俺達は運悪く強敵に遭遇したのであった。次回、俺の活躍や如何に!