013 真相
久しぶりに投稿します
ミノタウロスたちとの戦闘を終え、俺達はさらに地下へと降りていく。こりゃ、簡易的なダンジョンのような雰囲気。さっきのモンスターたちがただの兵隊だとすれば、普通に考えてこの奥にはもっと強い奴らが居るってことだ。
「アルゼリア、クラウソラスになる準備をしておけよ。多分この先の戦いで必要になるからな」
「うむ、この奥からビンビンな気配を感じるぞ。心するがよい」
魔神のこいつがここまで言うってことは相当強いってことなんだよな。俺やロイドは良いとして、リオーネやユニスは正直レベルが足りてない。
さっきのミノたちとの戦闘でもアップアップだったくらいだ。
「よし、ちょっと集まってくれ」
先頭を行く俺が立ち止まり、皆が来るのを待つ。
「ここから先はもっと強い敵がいるのは確実だ。こんなに敵が強いなんて予想外なんだがな、ロイドさんよ」
俺はあからさまな皮肉を案内人のロイドに向けた。恐らく奴やフェイマスはここにいるのがただの野盗でないことに気づいていたはずだ。
問題はどこまで正確に敵の情報をつかんでいるか、だ。この先に何が待ち受けているのか、知っているなら吐かせるべきだろう。
「フェイマス氏が雇った討伐隊がことごとく帰ってこなかったのです。敵が強いことは予想出来たはずですが」
ロイドは涼しい顔だ。短い付き合いだが、このおっさんはある意味達観しているように見える。自分が強いから生き残る自信があるのか、フェイマスのために死ぬ覚悟が出来ているのか、死についてあんまり心配していないようなんだよなぁ。
だが、俺たちが好き好んでそれに巻き込まれる必要はないはずだ。
「事前の情報じゃ相手は野盗団だったよな? だがモンスターたちが混じってるっていうのはどういうことだ? しかも強いやつらが。
そろそろあんたの知っていることを教えてもらいたいもんだぜ。じゃなきゃ、フェイマスを敵にするとしても俺たちは引き返すぜ」
半分以上ブラフだが、俺はロイドの態度によっては本当に引き返す気でいた。奴はフェイマスが俺たちにつけた案内人。だとすれば情報を伝える義務があるはず。それを履行しないというなら……。
もともと俺たちはフリギアには流れ着いただけだし、またよそに行けば良いだけの話だ。俺たちの目標はあくまでもヒルデグリムのパーツを集めることにあるんだからな。
「仕方ありませんね。ですが、私も敵について大したことは知らないことをご承知おき下さい」
俺たちに引き返されては、奴も主人から与えられた使命を果たせなくなって困るだろう。俺としても、正直なところ、ここで引き返せばこれまでの苦労が水の泡になるわけで、出来ればこのまま任務を遂行したいところだ。
「私が知る限りですが、敵の首領は神聖グラン帝国の上級魔術師マリクスという男です。モンスターはその魔法で従えていると推測されます」
俺は耳を疑った。
「宮廷魔術師だと!? どこが野盗だ。大物じゃねーかっ!!」
思わず大声をあげてしまうほどに予想外の展開だった。
国家に使える宮廷魔術師は、上から大魔導師、魔導師、上級魔術師、魔術師に分かれている。上級魔術師とは上から三番目の地位にあるってことだ。
こういうと大したことが無いように聞こえるかもしれないが、奴らは狭き門をくぐり抜けたエリート中のエリート。
その国の魔術師の上位30位には入るような奴らってことだ。そこらの冒険者とは格が違う。
しかも相手が宮廷魔術師ということは、国家が関わっている可能性があるということじゃねーか!
「ですが、帝国は直接この件に関わりはないようです。あくまでマリクスが個人的に画策したこと、そう把握しております」
神聖グラン帝国というのはシュバルツバルト、バルダニア両王国と並ぶこの大陸の三大国のうちの一つだ。よく考えれば、奴の言うように、その大国が一商会と事を構えるというのは確かに考えにくいかもしれない。
「その情報、確かなんだろうな?」
「信じていただくほかありませんが、私はそう確信しております」
「何があったのか詳しく話してもらおうか」
俺は若干の殺気をこめてロイドを睨みつけた。奴がいらぬごまかしを思いとどまるために。ロイドは仕方がない、というテイで事情を話し始めた。
「ある日、フェイマス氏のところにマリクスから使者が送られてきました。使者は書状と『礼物』を所持しており、交易を邪魔されたくなければ彼らと提携するよう要求してきたのです」
「いつのことだ?」
「いまから三ヶ月ほど前のことです」
「フェイマスの討伐隊が派遣される前のことだな?」
奴がお抱えの討伐隊を派遣したのは一月前のはず。そのマリクスの要求をはねつけた上で、討伐隊を送ったのだろう。
「お察しの通りです。ちなみに使者が持ってきた礼物は、我が商会の従業員の首でした。不幸にも襲われた隊商に参加していた者です」
つまり、フェイマスの隊商を襲った証拠を持ってきたわけだ。
「マリクスはなぜフェイマスとの提携を望んだ?」
「それは分かりません。ただ我が主はフリギアの次期評議長となるお方。その力の利用価値は高いでしょうな」
「質問を変えようか。なぜフェイマスは申し出を断った? 受け入れれば少なくとも交易上の損失はなくなるはずだろ?」
ロイドは珍しく笑みを浮かべた。
「それこそ愚問というもの。次期評議長ともあろうお方が、そのような脅迫に屈して汚点や弱みを持つわけにはいきますまい。信用は多少の財とは引き換えには出来ませぬ」
多少の、ね。奴の多少というのは、俺達が一生遊んでも使えないような金額だぜ、多分。
「で、討伐隊が全滅した後、相手がかなりの手練と分かった上でガブリエルや俺を派遣したってことか」
ようやく話がみえてきた。フェイマスがこの件にいやに入れ込んでいることや、報酬が普通じゃないこともな。奴は自分の威信にかけて「野盗団」を潰しにかかったのだろう。
「話はわかった。お前たちのやり方は正直気に入らないが、引き受けた以上最善を尽くすとしよう」
「よろしくお願いします。私も主に変わり、誠心誠意サポートしましょう」
ロイドも計画が破綻せずにすんで安心したようだ。リオーネやユニスはといえば、自分たちがあまりに大きな事件に巻き込まれた事を知り呆然としていた。
「それでリオーネ、ユニス。お前たちは戦闘になったら安全なところを見つけて、後ろからサポートに徹するんだ。俺、アルゼリア、ロイドで出来るだけ敵の相手をする。俺が逃げろと言ったら、俺達に構うこと無く逃げるんだぞ」
「あなたを見捨てて逃げろってこと?」
勝ち気なユニスが表情に不満を表している。
「そう、見捨てることになってもだ。正直今の力ではお前たちは足手まといになりかねん。俺たちは魔法が使えないからそれでも貴重な戦力だが、乱戦になったらお前たちをかばえ無くなるに違いない。
お前たちが自分で切り抜けられるほど、甘い相手ではなさそうだ」
俺はユニスとリオーネに、もしもの時は逃げるようきつく言い含めた。可愛い女の子を犠牲にしたとあってはこのガルフ=アンブローズ一生の不覚だからな!
俺たちは再び地下通路の奥へと歩みだした。ダンジョンとは違って一本道だから迷うことはなかったが、それは敵が待ち伏せするにも好都合ということだ。
キィイイイン! キンキン!
通路の奥から剣を交える音が聞こえてきた。この先で誰かが戦っているのだ! たぶんガブリエルたちだろう。俺たちは互いに頷きあうとその先へと走って向かった。
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予想を過たず、通路の先で戦っていたのはガブリエルたちだった。「たち」と言っても、立っているのはすでにガブリエルとジゼルの二人にだがな。
一方で敵はリーダーらしき魔術師――これがマリクスだろう――と護衛の戦士が3人、竜牙兵が2体、そしてまたもやマンティコアが3体! おいおい、敵が強すぎるだろ!
ガブリエルのパーティーが二人以外倒されているのも無理は無い。
マリクスは上級魔術師であれば、相当高度な魔法を使えるはず、護衛の戦士もよもや素人ではないだろう。竜牙兵はドラゴンの牙を使って作成した兵士、並の戦士よりもよほど強い。
「やあ、ガブリエル! 苦戦しているらしいな。助けが必要か?」
俺は場違いなほど朗らかな調子で呼びかけた。深刻な状況で深刻な言葉を口にすれば心の余裕がなくなり、切り抜けられはしないだろう。
俺は長い傭兵生活でそれを学んでいた。