012 野盗団の秘密
俺たちは玄関ホールから二階へと続く階段を上がって行った。ガブリエルとの連絡がつかないことから、何が起こってもおかしくない。出来る限り音を立てぬよう、忍び足で進む。
ダンジョンでモンスターを相手にするのはともかく、俺もこういう人間の拠点に潜入するのは久しぶりのことだ。かつて所属していた傭兵団では、雇い主の意向に従ってモンスターの討伐から、対立する商人の暗殺まで何でもやったものだ。
傭兵は金で雇われる存在。しかも俺は一介の傭兵に過ぎず、傭兵団の団長の決定に服従するしかない。自分の好みで仕事を選べるわけではないのだ。
俺はなぜだか、そんな昔の記憶を思い出していた。もう随分前のことなのにな。
階段のあるホールから部屋をうかがったが、静まり返っていて人が潜んでいる気配は全くなかった。
「争ったような跡は……ないようだな」
俺たちは最初の部屋で簡単な調査をした。ガブリエルの隊に何かあったことをうかがわせるものは何もない。
ロイドが棚についたホコリを指で払う。
「この部屋は日常的に使われているようですね。しかし、それにしてはまだ一階にいた5人しか出会っていません。あの5人で敵が全員とはとても思えないのですが」
「それにガブリエルたちも居ないしな。一体どうなってやがる」
それは奥の部屋に行っても同じことだった。手前の部屋と同様に何もない。
「もしかしたら……」
後ろにいたリオーナがつぶやく。
「なんだ、リオーナ?」
「もしかしたら、何らかの魔法のせいかもしれないわ」
ふむ、その可能性はありそうだな。物理的に探しても見つからないなら、試してみる価値はある。
俺はリオーナに頼んでセンスオーラ(魔力感知)の呪文を唱えてもらった。この魔法は、何かしらの魔法が使われているかどうかを判定するものだ。
詠唱が終わるとリオーナの眼に魔法の力が宿り、赤く光っている。おっとこれは「魔眼」みたいじゃないか、ぷぷぷ。
だがそれでリオーナの可愛さが一層増したような気がする。ちなみにリオーナは黒のローブを着ているが、ひざ上までしかないので綺麗な太ももが露わになってちょっとエッチぃ。
ぺったんこな胸に合わせて足もかなり細く、長く細い足が好みの俺としてはどストライクだ。
俺がそんなことを思っているとも知らず、リオーナは部屋をグルリと見渡した。そして暖炉の辺りを指差す。
「あそこに魔法の力が働いているわ。多分隠し扉じゃないかしら」
おお、やはりか。こういう時に魔法は役に立つな。俺とアルゼリアでは絶対に見つけられなかっただろう。
俺たちは暖炉の前までやって来た。俺は手を伸ばして暖炉を触ってみる。すると――
暖炉に触ったハズなのに何も感触がない。これは……
「幻術ってやつか。手のこんだことを」
「魔法で何も無い所に暖炉のイメージを作り出していたのですね」
ユニスも珍しそうに手をかざしている。が、やはり何も存在していないのだ。
「この奥に隠された通路がありますね。探しても見つからないわけだ。ガブリエルさんたちもこの通路を見つけて先に進んだのでしょう」
ふむ、あいつらにも腕の良さそうな魔術師がいたからな。ムサいおっさんだからいらないけど。
「よし、じゃあ中に入ってみよう。ここからは更に危険が待っているだろう。覚悟しろよ」
俺は主にリオーナとユニスに向かって言った。腕のたつロイドとアルゼリアにはまあ必要ないだろうからな。
**
中へ入ると細長い通路がずっと続いていた。そして一階へと降りる階段があり、そして更に道は地下へと続いていた。
ここまで来て引き返すわけにもいかん。俺たちは地下へと降りた。
「こんな風になっているとはな。地上の砦はカムフラージュで、こっちが本命ってことか」
「そのようだの。この場所からは強い気配を感じるぞ」
最後尾にいたはずのアルゼリアが前に来ていた。いつもふざけた態度の女だが、いまは鋭い目つきになっている。
この女が敵を強いって言うのはただ事ではない。ちっ、あんまり強い敵を相手にしたくないんだがな。
「と、言ってるそばから早速かよ」
通路の向こうから敵が姿を現した。敵はミノタウロス3、イービルアイ3。
って、モンスターか?
人間相手かと思ったら、こっからは人外かよ。ますます話がきな臭くなってきやがった。
こりゃボーナスはずんでもらわないとな。
ミノタウロスは半牛半人の強い戦士であり、イービルアイは目玉の姿をした魔物で、そこそこ優秀なマジックキャスターだ。
「ミノは俺とロイド、アルゼリアが相手をする。リオーナとユニスはイービルアイを何とかしろっ!」
指示は出したものの、リオーナたちは二人で3体を相手にすることになる。早くミノを倒して援護してやらんとな。
とはいえ、こんなところでまだアルゼリアを剣化することはできない。本当に危険な奴はもっと先にいるはずだ。
俺は腰に差したナマクラでミノの相手をする。かなり強い相手だが、まあ何とかなるだろう。
俺がミノと接触する時に、後ろからリオーナがフレアを飛ばす。イービルアイの一体が炎に包まれ、崩れ落ちた。
これで数は同数!
ゴウっ ミノタウロスの持つ巨大な斧が俺の顔をかすめて行く。ミノの攻撃は単純で読みやすいが、圧倒的なパワーによって尋常ではない速さを誇っている。斧は破壊力があるが、小回りは効かない。
俺はミノの大振りを後ろにエビ反りして交わす。よけるにしても出来るだけ次の行動に繋げやすい態勢でするのが大事。
斧をやり過ごすと懐に入り、剣を喉に突き刺した。ミノは喉の傷からゴボゴボと血を吹き出して倒れる。ミノは筋肉の塊だ、腹や胸を剣で刺すと固くて抜けなくなる可能性がある。
自分の敵を倒した俺は、左右のロイドやアルゼリアの方を見る。まあ、あの女に手助けなどいらないだろうが。
驚いたのはロイドが素手で一方的にミノを殴っていること。まあグローブをはめてるから厳密に言えば素手じゃないんだが、武器も無しにミノを倒せる奴なんてどれだけいるか。
そうこうしているうちに、ロイドはボディーブローを打った後に肘打ちを叩き込み、ついにミノが崩れ落ちた。
ちなみに後衛のイービルアイは、ユニスと俺が一体ずつ倒している。
こうして俺たちはモンスターとの最初の戦闘に勝利した。うん、なかなかいい感じだ。
「それにしても、あんた剣も無しによくモンスターを倒せるな」
戦闘が終わった後、俺はロイドに声をかけた。
「己の拳や蹴りも、鍛えれば武器以上の力を発揮するものなのですよ」
「っても、人間の力には限界があるだろ!? 魔獣クラスに通じるとは思えないんだが」
「攻撃するときに『気』を乗せると破壊力が増すのです。『気』とは……そうですね、オーラのようなものです」
よく分からん。きっとこの辺りの世界ではない、キタイやモング−のようなところの文化なのかもしれない。
俺たちは準備を整えると、更に奥へと進んでいった。