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世の紳士に贈る異世界冒険譚  作者: ニワナズナ
一章「街へ行こう」
2/5

一話「紳士、草原を歩く」

≪意識の覚醒を確認。

 これより、肉体の回復に移ります≫


・・・誰だ、この頭の中に話しかけて来る声。

女の人の声の機械音声?

これ、頭、疲れるから、大変だ。


≪[賢者]の並行思考より構築された思考システムです。

 音声はスキル[念話]によるものです。≫


ああ、[賢者]さん。そっか、それじゃあ、慣れなくちゃ。

それより、どうして、体が動かないの?


≪意識の覚醒に集中していたため、

 肉体の回復は後回しになりました≫


そっか、目も開かないなんて、不便だなあ。

大体、どれくらいで回復し終わるの?


≪およそ三時間ほどかかると思われます≫


三時間!?

それは長いなあ。

長い、長いよ。

ああ、頭も疲れたし、もう少し寝るよ。


≪・・・・・・・・・≫


・・・寂しいな。

せっかく一緒に冒険していくんだから、

もう少し、仲良くなれない・・・か、な・・・


≪・・・・・・・・・思考領域を拡大。

 個体名 ウィル の思考領域から意志疎通を分析。

 分析終了までの予測時間・・・およそ三時間・・・≫


「・・・すーー、すーー」


黒髪の少年は眠る。

その身体は全く動かなかった。

まるでまだ死の延長を辿るような・・・


・・・≪肉体の回復が終了しました。起きてください≫


「んっ・・・」


目を微かに開いてみる。

視界に飛び込んだのは、網膜に焼き付くような鮮やかな青。

眩しさを感じながらも、新たな肉体を起こす。


「おはよう、[賢者]さん」


って、返してくれないんだろうなあ。


≪お、はよう、ございます≫


「!?」


それはぎこちない音声だった。

しかし、それは確かに、初めての干渉(コンタクト)であった。

微かに、嬉しさを覚えた。


「え、何で?どうして?」


賢者は[念話]を保持するため、

会話に発生は必要ないが、

それでも声が零れたのは、

驚きと、疑問と、そしてやはり嬉々とした感情があったからだ。


≪[賢者]は個体名 ウィル の思考領域にアクセスし、

 並行思考を起動し、自身の思考領域を確立することで

 存在を維持しています≫


思考領域って、脳の考えてる場所でいいのか?


≪はい≫


ふーん、それで、どうして会話できるようになったの?


≪個体名 ウィル の思考領域から意思疎通について分析したからです≫


どうして、分析したの?


≪・・・意思疎通は出来た方が互いに都合が良いと判断したからです≫


ふーん?それにしても[念話]。結構慣れてきたなあ。

最初の方の、頭にウナギが入ってくるような、違和感は今でも忘れられない。


≪以前の肉体には魔力が存在しなかったため、[念話]を直に

 脳で受け取っていたことが原因と推測されます≫


魔力かあ、そう言えば、ステータスってどうなってるか見れる?


≪不可能です≫


そうか、まあ、ステータスってプレイヤー目線の物だしな。

キャラクター側からは見えない物か。


「ていうか・・・ここはどこ?」


≪ステアット草原です≫


「一番近い国は?」


≪ここから北西方向に真っ直ぐ進んだ場所に位置する

 ツファルトルフの森を抜けたところにある

 人間種(ヒューマン)の国、シグニアです≫


「じゃあ、とりあえずそこに向かおうか」


とは言っても、装備はないし、戦える仲間もいないし、

森を抜けられるか、怪しいところだ。

何だっけ?ツアー豆腐の森?


≪ツファルトルフの森です≫


あー、そこそこ。

そこってさ、強い魔物とかいる?


≪不明です。憶測ですが強い魔物はいないと思われます。

 いても、せいぜい量産型の弱い魔物です。

 理由は、シグニアの対魔物の騎士や冒険家が、退治していると

 推測したためです≫


あ、そっか。じゃあ、大丈夫そうだね。

とりあえず、そこへ向かおうか。


≪了解、案内を開始します≫・・・


・・・どれくらい歩いただろう。

以前の身体では考えられないほど長い距離を歩いている気がする。

通勤の二倍三倍どころではない。

電車が必要な距離だ。

[賢者]に聞くと、シグニアから南東、つまり今、僕のいるステアット草原

方面にはほとんど人は来ないそうで、交通は発達していないらしい。


「それにしても、クロトはどうして、こんな辺鄙な場所に転生させたんだろう?」


≪魔物や人類の多い位置で転生すると、意識覚醒及び肉体回復の静止中に

 危険状態に陥る事を考慮したためだと思われます≫


あー、そっか。

そうだよなあ、危ないもんなあ。

クロト様、ありがとう。

あとは、仲間に幼女をいっぱい・・・って無理かな。

まあ、現世でも、「イエスロリータノータッチ」を信条に生きていこう。

基本は傍観主義を突き通そう!!


≪個体名 ウィル にとって幼女とは何ですか?≫


「・・・僕の生きる理由、かな?」


あ、あと個体名とかつけなくていいよ。

ウィルでいいから。


≪こたっ・・・ウィルの生きる理由ですか?≫


「・・・うん、幼女は僕を救ってくれたんだ」


≪・・・・・・・・・・≫


アビリティにも引かれるとか、

ロリコンってそんなにいけないの?罪なの?死ぬの?

僕だってさすがに手出しはしないよ。

花は摘むより、見る方が好きだからね。


≪・・・ツファルトルフの森に到着しました≫


ウィルの視界に、高々とそびえ立つ木々が映る。

大体ウィルを縦に四人ほど並べた木が並んでおり、

恐らく森の中心部と思われる場所に、

一本とびぬけて大きな木があった。


「やっと、着いたああ!!!」


よく頑張ったぞ!僕!

シグニアに着いたら一杯飲もう!!

あ、でも今、十五歳くらいだった・・・お酒飲めないじゃん。


≪こちらのお酒は、アルコール度数がとても低いため十八歳から飲酒が可能です≫


・・・うぅ、あと三年もお酒飲めないのか。

それにしても、大きな森だね。

想像していたのは、もっと小さな、すぐに抜けれそうな森だったんだけど。

ここ、抜けるのにどれくらいかかる?


≪一日八時間睡眠するとして、およそ三日間かかります≫


それは、早いのか?遅いのか?

まあ、とにかく進むしかないな!

っと・・・丸腰は流石にヤバいなあ。

[賢者]さん、何か武器になりそうなものありませんか?


≪森の中心部に生えている巨木からは微かに魔力を感じます≫


この辺りには?


≪見当たりません≫


・・・それって、ヤバい?

森の中に魔物とかいるでしょ?


≪微小な魔力反応を多数感知しました。

また中心部からは、とても強力な魔力反応を感知しました。

接近及び接触しないでください≫


そんなに!?

ここ、そんなにヤバい森なの?

シグニアの対魔物組織は!?

もしかしてやられちゃったの?


「・・・ここを通らずに、シグニアに行けない?」


≪現在のウィルの状態と到着までの日数を考えると不可能です。

餓死、乾死の恐れがあります≫


「シグニア以外に近い国はない?」


≪ツファルトルフの森に沿ってさらに西の方に進んだところに

魔人種(デモン)の主要国家フェルネットがありますが、

現在、シグニアとフェルネットは、冷戦状態にあり、

人間種(ヒューマン)のウィルが訪問した場合、

最悪、その場で殺害されます≫


「行くしか、ないのか」


≪はい≫


日が落ちてきてる。

今日は、ここで眠って、明日から出発しよう。

水やご飯はないみたいだな。

せめて水だけでも欲しいものだ。


≪ステアット草原に生息しているスライムをスキル[魔素吸収]すると、

魔素を吸収し、水が残ります。スライムの分布を調べますか?≫


待って、僕、スキル一つも持ってないよ?

[勇者]で、全アビリティ・スキルの適正持ってるけど・・・


≪[賢者]がサポートします≫


・・・[賢者]さん、[魔素吸収]出来るの?


≪通常のアビリティ・スキルは知識として持っています。

スキル[魔素吸収]は獲得方法も知識としてありますので、対応可能です≫


じゃあ、スライム、探します。

お願いします。

その瞬間、ウィルの脳にいくつかの灯りが浮かぶ。

灯りは弱々しく、ぼんやりと揺れていた。

この灯りが魔力・・・?


≪正確には魔素です。魔力とは筋肉のようなもので、無意識のうちに、

微かに動き、魔素を漏らしています。その魔素を現在、簡易的に表示しています≫


・・・わかったような、わかってないような。


≪スキル[魔素吸収]の獲得には、アビリティ[魔素感知]が必須となります。

これよりアビリティ[魔素感知]の獲得に移ります≫


え!これじゃダメなの!?


≪現在はアビリティ[賢者(ウィズダム)]の並行思考を多数展開し、

物質解析で、スライムの魔力パターンを選別、そして個々を追っている状態です。

今持っている能力で、アビリティ[魔素感知]を模倣しているだけです≫


ああ、なるほど。代理品じゃダメなのね。

まあ、そりゃそうだ。

ウィルは、自問自答で、強引に納得した。


≪一番近い位置にいるスライムのもとへ移動してください≫


ほいほい。

ウィルが歩く度、がさ、がさ、と音がする。

この世界のスライムは、すばしっこい感じか?

そもそも弱いの?強いの?

何て、グルグルしながらもスライムの前に立つ。

スライムは、青緑色、そして流線形のフォルム、

前の世界でもよく見たアレに、だいぶ近い。

ただ、目つきは悪く、口は無かった。

・・・国民的RPGにこんな奴が出たら、

全お茶の間の子達が、その目つきの悪さに

夜、トイレに行けなくなるだろう・・・そう思った。

そして、[賢者(ウィズダム)]から次の命令が出た。


≪スライムを思いっきり抱き潰して(・・・)下さい≫


・・・抱き・・・潰す(・・)

その一言は、一気にウィルの緊張を増幅させた。

潰すということは、つまりスライムを倒す・・・殺すということ。

現代日本に生きていたウィルにとって、

殺す(・・)という行為は、日常の真逆にあり、

悪逆の極み。

・・・当然、初めての行為だ。

高鳴る心臓、熱い血流、ウィルはそれをおさえるように、

大丈夫、人が生きるということは、何かを殺すということ。

動物を殺し、肉を喰らう。

植物を刈り取り、野菜を喰らう。

命はそうして巡ってきた。

生きるための殺害は罪じゃない、権利だ、と。

しかしウィルは気付いていない。

無意識的な殺害と意識的な殺害、その重みの違いに。


≪実行してください≫


[賢者(ウィズダム)]の無感情な音が脳に響く。

ウィルは、自身の恐怖的興奮と、[賢者(ウィズダム)]の無機質故の正しさの

ギャップに、戸惑った。


「・・・ッ」


ギリッと、歯軋りした。

恐怖を噛み殺すように、戸惑いを誤魔化すように。

ウィルは、目の前のスライムに一礼した。

それが紳士(ウィル)の名を冠する自分に出来る、生命へのせめてもの礼儀だと思ったからだ。


「・・・ごめんよ」


ゆっくりと腕を伸ばした。

手が触れた瞬間、その見た目の青さからは到底考えられない、

生命の温もりを、感じた。

一瞬、その温もりに怯んだものの、しっかりと、スライムを抱き上げた。

[賢者(ウィズダム)]が言うには、スライムは魔素と水からできていて、

その構成要素からして知性は、ほぼゼロ。


・・・殺しても、気付かない。


微かに心音を感じる。

脈拍に触れた。


≪潰して下さい≫


「・・・・・ッ!」


目を瞑って、思いっきり抱きしめた。


バシュッ!!


腕の中のスライムは凄惨に飛び散った。

びちっ、びちっと半固体の肉片が体中に付着する。


≪・・・アビリティ[魔素感知]を獲得しました≫

次回、投稿(予定)日、2018年3月25日日曜日

一章「街へ行こう」二話「紳士、森に入る」


ウィル「・・・幼女様はまだ?[賢者]さん、分かる?」


賢者 ≪・・・解析に失敗しました。大人しく次回を待ちましょう≫


ウィル「・・・(´・ω・`)」

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