一話「紳士、異世界転生する」
僕はロリコンでした。
36年間、生きてきて、その過半を幼女に費やしました。
当然、座右の銘は「イエスロリータ、ノータッチ」。
あだ名は「紳士」。
おまわりさんのお世話にはなったことはない、
社会的なロリコンでした。
しかし、それ故に僕は、恋愛をすることができなかった。。
学生時代から今まで、一度たりとも。
同年代の女子は特に、妙に狡賢い、計算高い、
飢えた獣のように見えてしかたなかった。
イケメンに、運動が出来る奴に、頭がいい奴に、
媚びうる汚らわしい性根が露わになっていた。
当然、そうでない女性も少なからず、いた。
だけど彼女らは、ただ妬み、憧れるだけ、
陰鬱とした雰囲気を身に纏い、
とても恋愛対象にはならなかった。
せめて、良い女性と恋愛ができたなら
僕も変われたのかもしれないが、
まあ、僕は運悪く、女性の悪い面を多く見つけてしまった。
結局、だらだら流され生きてきた結果、
独身、ロリコン、36歳。いい歳のおっさんだ。
今日は新人の3か月祝いの飲み会に来ている。
全く、入社祝いは無かったくせに、3か月祝いはあるなんて、
一体どんな会社だよ。
まあ、僕もそんなことは気にせず、
3か月祝いのパーティーに参加してしまった。
その結果が、今、この様だ。
新人たちよ、気付いてくれ!
この会社は3か月祝いをしてから、
初めて、本性を表すんだよ。
ここにいる8割は社長命令で口を開けないんだ。
頼む、この微妙な笑顔を察してくれ!!
思い出せ、うちの自販機にエナジードリンク、無かっただろ?
どういうことかわかるよな!?
「センパイ?どうしたんですか?
汗流れていますけど・・・」
「あっ・・・こ、これは、ちょっと暑くってな。
最近、始めた乾布摩擦の効果かもな、あ、はは」
何言ってんの、僕。
乾布摩擦なんて始めてないし、
大して目立たない僕がこんなところで、
滑る話しても、後輩の痛い目線と、
先輩や同期から憐みの目線を受けるだけだろ!?
「センパイ、乾布摩擦してたんですか?
実は自分も小さい頃、おじいちゃんとやってました!」
良い後輩だ。その爽やかな笑みも好感が持てる。
しかし!今そっち方面の掘り下げ入らないぞ。
ああ!先輩や同期からの憐みの目線がまたとんでもないことに!!
大卒で入社して、15回目の3か月祝い。
記憶に残る限り、最悪の日になりそうだ。
その後、僕はちびちびと酒を飲みながら、
聞きたくもない乾布摩擦の話と、
ちっとも興味ない後輩の恋愛事情を聞いていた。
そもそも年上好きという時点で、この後輩とは、
いつか戦争を起こしそうなんだよなあ。
人としては好きだが、どうにも相容れなさそうな存在だ。
そもそもあんな化粧べっとべとの肌と、
純粋なモチモチプルプルスベスベの神々しい肌、
どっちがいい?
あれなら、まだ堂々とすっぴんでいてくれた方が
目に優しいわ。
そんなことを思いながら、適当に相槌を入れていると、
「はーい!!えんもたけなわですがぁ!!
ここでおいわいかいをぉ、おわらへようかなぁっておもいましゅ!!
にじかいきたいひとは、ついてこおい!!」
・・・うわぁ、半裸で、ネクタイ頭に巻いて、
あの社長、何時代の人だよ。
呂律回ってねえし、二次会とか行かないし、行かせねえよ?
先輩が、半狂乱の社長を、タクシーに乗せ、
僕の15回目の3か月祝いは幕を下ろした。
僕は飲み会の会場から家が近かったので、
皆とはそこで別れた。
騒がしい飲み会から一変、
静寂な夜道に、寂しさのような、解放感のような、
何とも言えない虚無感を味わっていた。
その虚無感を埋めるため、僕は鞄から、
一冊の小説を取り出した。
そう、ライトノベルだ。
このライトノベルは全10巻の長編の6巻で、
人類最強の勇者と魔王の娘の冒険を描いた
ファンタジー物だ。
人類最強故に、悲しい宿命を背負い、
心を閉ざしてしまった主人公の心を溶かすのは、
そう幼女だ!!
魔王の娘の、幼く、明るく、優しく、純粋な言動、
その全てが主人公の氷のような心を溶かす、太陽そのものであり、
聖女なんだ!!
幼女が、主人公の生きる理由なんだ!!
「ふぅ・・・尊い」
その言葉は、僕の心をそのまま吐き出した嘘偽りのない言葉だった。
その言葉を零す時だけ、僕は、本当の僕でいられる。
そう感じていた。
≪本当に、尊い?≫
「当然、特に、この魔神の初登場シーン。
人類最強の勇者を圧倒し、瀕死まで追い詰め、
最後のとどめを刺す時に、魔王の娘が大泣きで
止めに入るところなんか、完璧だ!
しかも、それで勇者は覚醒して、
魔神を一時的に追い払うんだ!
この熱い展開、そして幼女への愛!
まさに神!ゴッドだね!」
≪ん?まさに、じゃなくて本当に神様なんだけど・・・≫
「確かに!マジで神だよ!」
≪・・・ねえ、人の、じゃなくて、神様の話聞いてる?≫
「え・・・神様?」
≪うん、神様≫
・・・確かに冷静になってみると、
声は聞こえるというより、ぬっと頭の中に入り込んで来る感じだ。
見たところ、辺りに人はいない。
・・・まじで神様ってやつか?
≪・・・おーい≫
しかも、よく聞くと千人に一人、いや一万に一人、もっとか?
とにかく素晴らしいロリボイスの持ち主じゃないか!
何だ、神様も案外捨てたものじゃないな。
「で、神様?あなたは今どこにいるんですか?」
≪ん?ボク?そのまま真っ直ぐ進んでみなよ≫
まさかのボクっ娘!?
コイツは、一目、その御尊顔を拝んでおく必要がある。
なあに、少し拝んでから、
すぐに、離れれば、イエスロリータノータッチは
破ったことにはならないさ。
それに神様だろ?何億年も生きてるんだろ?
残念ながら、合法ロリは対象外なんだ。
別に僕は小さい子が好きなんじゃない、
幼い子が好きなんだ。
当然、その愛くるしい容姿も要因の一つだが、
幼女の素晴らしいところは、
幼い故のその純粋な行動。
まだ世の闇を知らない、綺麗な心。
つまりその心にこそ、幼女の本質は眠っている。
だから合法ロリは姿さえ拝めればいいのさ。
神様なら自分で何とか出来るだろうしね。
それにしても神様が本当にいるなんてね。
まあ、驚いたよ。
しかし、酔いで頭が少しぼーっとしてるせいか、
そこまで驚けない。
さて、あそこの道の真ん中に立っている小さな影が恐らくそうだろう。
月を背に凛と背筋を伸ばし立つ幼女は、
「尊い・・・」
涙が零れた。
夜の闇よりも暗い黒髪、黒目。
髪は、自然に整っており、不自然なほどに美しかった。
目は、少しツリ目だったが、目つきが悪いという感じはなく、
じっとこちらを見つめる。
肌は、瞳、髪とは対照的に、
全てを受け入れるような、透き通った白。
黄金比というのか、体全体のバランスが整っていて、
間違いなく、今、地球で一番綺麗な女性は彼女だ。
その美しい幼女に目を奪われ、僕はしばらくその場に立ち尽くした。
「・・・・・・」
言葉が出ない。形容できない。
心が真っ白に浄化されるようなその姿は
まさに神そのもので、
言葉という広大な有限の箱の中では
到底、表せなかった。
「どうしたんだい?人間」
「・・・あなたが綺麗だったから、見惚れてました」
ああ、やっぱり今日の僕はよく口が滑るなあ。
話も滑るけど。
「あはは、そんなことを言ってくれたのは君が初めてだよ。
もしかして君は、ロリコンっていうやつなのかな?」
「・・・はい」
「正直だねえ、ボクも君の事好きかもね」
可憐?いやそんなレベルではない。
直に鼓膜に触れたその声は、
まるで兵器的な可愛さを誇っていた。
いつまでも鼓膜が震える。
心臓の鼓動を加速させる。
「それで、どうして、僕をここに呼び寄せたんですか?」
「ああ、それはボクを守ってほしいのさ」
「何から?」
「・・・命の危険かな?」
少し躊躇ったように見えた。
何か事情アリか?
とその直後、視界の端にトラックが現れた。
神様のことは背丈が小さいせいか気付いていない。
神様もまだ気づいてない。
ヤバい!助けなきゃ!
とその瞬間、何かが僕の体を引っ張ったように感じた。
糸のような何かが僕の足を止める。
神様は、トラックに気付き、
僕の方を見て、諦めたように微笑む。
駄目だろ!頼まれたんだ!
命の危険から守ってくれって!
紳士36歳独身!幼女の命の危機!!
「ここで男見せなきゃどこでみせるんだよ!!!」
糸のような何かをぶっちぎりながら、
僕は何とかして進んだ。
進む僕を見て、神様はどこか驚いたようにしていた。
「神様!!!!」
神様を抱きしめるや道の端まで、飛び込んだ。
誰かの家の塀に当たって痛いけど、
二人とも無事みたいだ。
トラックの運転手さんも、
僕が飛び出して気付いたのか。急ブレーキ。
そして、慌てて駆けて来る。
大丈夫だって、二人とも無傷なんだからさ。
≪ううん、無事じゃない≫
また頭の中に話しかけてきたな?
これ慣れてないからか物凄く頭に違和感残るんだよ・・・
「・・・!」
腕の中にいた神様は、僕の顔を覗き、ボロボロと大粒の涙を零していた。
「一体どうしたんだよ?」
≪人間。君は[運命の糸]を切ってしまった。故に死ぬ≫
「えっ・・・」
その後、僕の視界はブラックアウトし、
その後の事は知らない。
次に目を覚ました時、世界は真っ白だった。
それは病院の比喩ではなく、
本当に真っ白。方向も、距離も無い
無限の空間がどこまでも広がる。
「目を覚ましたかい?人間」
「・・・神様?」
「さっきはすまなかった。
ボクのせいで君の人生を失うことになってしまって・・・」
「てことは・・・」
「・・・君は死んだんだ」
何で?だって無傷だったよ?
間一髪、危なかったけど何とか二人とも無傷だったじゃん!
多分、ものすごく酷い顔をしていた。
それを見たら、神様はきっと傷つくと知っていても。
「すまなかった。
ボクのせいで君の[運命の糸]を切ることになるなんて」
「死ぬ直前にも言ってたけど、その[運命の糸]って何?
僕はそれを切ったから死んだの?」
「・・・」
神様が言うには、世界に誕生した生命には全て
[運命の糸]と[神の加護]が与えられる。
[運命の糸]とは、その名の通り、
その生命の生きる道を定める糸。
本来、生命は自身の[運命の糸]に反った行動は出来ない。
[神の加護]もその名の通り。
神様が人を守ってくれている証らしい。
神様は自分の加護を持つ生命を自分の子のように
守っているとのこと。
そして、僕が神様に呼ばれたのは、
偶然あの近くにいた、神様の[神の加護]を持っていたのが
僕だけだったということらしい。
そして何の偶然か、必然か。
僕は自分の[運命の糸]を切ってしまった。
「それでいい?」
神様はコクリと頷く。
「ちなみに神様は何の神様なの?」
「・・・モイライが一柱、クロト。
運命を紡ぐ神」
・・・聞いたことないな。
「で、僕はこれからどうすればいいんですか?
命の裁定とかあるんですか?」
「本来はある」
本来は、ってことは、
今回は無いのかもしれない。
となるとどうなるんだ?
神様助けたんだし、無条件で、
天国とか?
「君は、僕が下界に落ちたせいで死んでしまったんだ。
だから、ボクが責任をもって・・・」
これはやっぱり無条件で天国っぽいな。
まあ、死んだじいちゃんとかに会えるならいいかもな。
「異世界転生の権利を授けよう」
は?イセカイテンセイ?異世界転生?
あ、その可能性は抜けてた。
そうだ、異世界転生だ!
「勿論、好きな世界に行かせてあげるし、
出来る限り、君の要求を飲むよ」
「よっしゃー!
僕、もう一回人生やり直せるのか!?
なあ、クロト様!!」
クロトは少し驚きを見せた後、
「あ、ああ」
「じゃあ、幼女がいっぱいいる世界!」
即答は当然!誰だって獣で溢れる世界よりも
花の咲き誇る世界の方がいい!!
例え、ドン引きされても構わない!
僕は誰が何と言おうと幼女のいっぱいいる世界にしか行かない!
「相変わらず、すごく正直だねえ。
そう言うところ、ボクは好きだよ?
でも、そんな世界はない。
もしもあったら、
生殖能力の発達しない人間で溢れて
人類は滅亡への一途を辿ることになるよ。
そうならないために神様がいるのに・・・」
「そ・・・そうですか。
すみません・・・」
無いものは仕方ない。
じゃあ、ここはセオリー通り、
特殊能力だとか、最強装備だとかを
お願いしておくか?
「・・・うーーん」
「悩んでるみたいだから、先に、君の転生予定の世界について
説明していくよ?」
「うーーん・・・」
クロトの説明を要約するとこうだ。
まずその世界は、[神の加護]が強く影響しやすく、
魔素という物質が生まれた。
ほとんど全ての生命はこの魔素という物質を扱う
魔力という特別な力を持つ。
また、人類以外の生命が魔素を浴び続けたことで、
魔物という存在に個体進化するものが現れた。
また、魔物を統べる魔王という存在も
自然と生まれたらしい。
人類はそれに対抗するため、
冒険者ギルド、対魔騎士団といった
武装集団を構築した。
人類は六種族に分類され、
それぞれ人間種、獣人種、妖精種、
魔人種、龍人種、造人種と呼ばれる。
「とりあえず、生き延びるために、
若くて、健康な体にして欲しい」
「若いってどれくらい?」
「うーん、大体十五歳くらいだ。
運動能力も少し高めにして欲しい」
「分かった」
後はどうするか?
特化型にするか、万能型にするか。
スロットが二つ以上あるゲームなら、
別々で試してって出来るんだけど、
あいにく僕は一人しかいない。
パラメーターは、
体力、武力、魔力、知力、運の五要素。
「まあ、初期値は平均的でいいよ」
「いいのかい?」
まあ、ちょっと難しいくらいのがゲームは燃えるし。
これはゲームじゃないけどね。
「で、肝心のアビリティは・・・」
アビリティとは、常時あるいは条件が満たされたときに発動する特殊能力。
指定したタイミングで発動できるものはスキルと呼ばれる。
アビリティもスキルも戦闘を通したり、他人から譲り受けたり、
特殊なアビリティを使用することで入手することができるが、
エクストラクラスと呼ばれるものについては話が違う・・・らしい。
生後、手に入れることはほぼ不可能・・・らしい。
よって、ここで一つ、何かしら入手しておかなければならない・・・らしい。
クロトに見せてもらったリストの中でめぼしいのは、
[勇者]ー全アビリティ・スキル(エクストラクラスを除く)の適正獲得。
全パラメーターの適正獲得。
初めて受けるアビリティ・スキル(エクストラクラスを除く)を必ず無効化する。
[賢者]ー並行思考及び瞬間思考が可能となる。
事象及び概念及び物質の解析が可能となる。
自身の所有アビリティ・スキル(エクストラクラスを除く)を中確率で阻害する。
の二つだ。ぶっちゃけ、どっちもめっちゃ欲しい。
[勇者]の適正獲得があれば、技能に困ることは無いし、
[賢者]の解析能力があれば、情報に困ることは無い。
どっちも取れれば、異世界とはいえ、安定した生活は間違いなしだろう。
「悩みどころだなあ・・・」
「何が?」
「[勇者]と[賢者]、どっちをとろうか悩んでるんだよ・・・」
「じゃあ、両方ともとっちゃえば?」
え、そんなんアリ?
それ何てチート?
まあ、異世界転生なんて、
チート勝負な面あるしな。
出来るなら、お願いしてみるか。
「わかった。一応確認してみるけど・・・
・・・うん、矛盾点はないし、対抗できる生命の存在も確認できたから
大丈夫!!」
え・・・こんなチートに対抗できるとかどんな奴だよ。
そいつとは是非、会わずに人生を終えたいものだ。
「それにしても、色々とありがとうございました」
「いやいや、謝る必要なんてないよ。
元々ボクが下界に落っこちちゃったのがいけないんだし!」
申し訳なさそうにクロトは否定する。
その懸命な姿にさえ、僕は見惚れる。
ん?何か体が透け始めたぞ?
「ああ、肉体の消失が始まったんだ。
転生には何の問題もない、むしろ正常な証拠だよ」
そっか。
なら、いいんだけどさ。
「本当にすまなかった」
クロトは深く頭を下げてくれたが
あのまま生きててもだらだら流されて、
そのまま死にゆくだけだった。
それを思えば、こっちのがいくらかマシだよ。
そう言えば、向こうではなんて名乗ればいいんだ?
「・・・何とでも、好きに名乗ればいいさ」
いや、クロト。
僕は君から名前を頂きたい。
初恋の人から賜った名なら
胸を張って名乗れるし、
何より君も見つけやすいだろう?
「初恋の人・・・とか。
君は最後まで正直者だね。
わかった、君に名前を授けよう」
「ウィル・・・とかどうかな?
どこかの言葉で「紳士」という意味らしい」
ああ、それは僕に・・・ピッタリ、だな・・・
「さよならだ、ウィル。
縁があれば、またどこかで・・・」
あ、あ・・・ま、た、どこ・・・か、で・・・
意識が遠のく、初恋の君がぼんやりとしていく、
太陽のような温かさを感じる。
海に浸かるような、空を浮くような脱力感。
死というよりは眠りに近いものを感じた。
妙な温もりがまどろみと変わる。
そうして、僕は世界から消えたんだ。
次回、投稿(予定)日、2018年3月22日木曜日
一章「街へ行こう」一話「紳士、草原を歩く」
ウィル「(予定)とか、保険かけてませんか?」
クロト「作者は小心者だからねえ・・・」