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ふわふわさん  作者: 村良 咲
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「友井先生……」


翌朝、左後方の職員室の入り口に背を向けるように席に座る私を呼ぶ声に振り向くと、麻衣さんがおいでおいでと手を振るようにしている姿が目に入った。


「どうかしましたか?」


席を立ち職員室を出ると、その左側にある職員用の下駄箱まで引っ張るように連れて行かれた。


「沙絵さん、今朝、職員トイレに入った?」


「職員トイレですか?いえ、まだですけど。あ、でもそろそろ一度行っておこうかな。ご一緒します?」


昨日のやり取りの後、結局2人で連れ立ってトイレに行き、入り口脇の盛り塩の場所を麻衣さんに教えると、「こんなところにあったんだ。今までドアを開けて入るとドアの陰になるし、洗面所とは反対方向だし、出て行くときもドア開けちゃうしで、全く気付かなかったわ」と、私と同じで異動してきたばかりの麻衣さんは、まだそこまであちこち目を光らせてはいないようだった。


「もうね、冗談は置いといての話なのよ……」


「えっ?どうかしました?」


半分茶化した私に、麻衣さんは言葉通り怖い顔をして私を睨むような顔つきで見ていた。


「昨日、私たちがトイレに入ったとき、盛り塩があったよね?」


「はい、ありましたね」


「昨日、私たちがトイレに行ったとき、まだ残ってた先生って、少なかったわよね?」


「そうですね、私たち遅くまで残業してましたから」


「あれ、ないのよ……なくなってる」


「えっ?」


「とにかくさ、トイレに行こう」


麻衣さんと連れ立って、職員室前の廊下を進んで左側にある女子職員トイレに行きドアを開けると、そのドアの向こう側になる、盛り塩のあるいつもの場所に目をやるも、確かにそれはない。


「えっ……なんで?」


「ね?ないでしょ?変だよね?」


「昨日、私たちが帰ったあと教頭が片付けたんでしょうか?」


「ねえ、考えたんだけど、そもそも男性の教頭先生が女子トイレのに盛り塩やるかな?というか、桑田先生が女子トイレの盛り塩やってたのかな?それは別の人なんじゃない?昨日残っていた誰か……あるいは、今朝、早く来ていた誰か……」


「そうですね、そうかもしれません。でも、それにしても、どうして盛り塩がないんでしょう?」


「そこなんだよね。昨日まで気づかなかった私が言うのも変だけど、いままであったものがなくなると、なんか気になるよね」


「そうですね、教頭先生にでも聞いてみようかな?でも昨日の口ぶりだと、この話は教頭先生には振り難いな……」


「おっと、もうこんな時間。今日は1時間目から体育なんだ。支度しなきゃ」


一瞬で切り替わった麻衣さんを、さすがだなと鼻で「クスッ」としながら見送ると、私もそのまま1年生たちが登校してくる時間になっていたので1年生の下駄箱に向かった。



「せんせい、おはようございます」


「おはようございます」


 何度となくそんなやり取りをして見守っていると、昇降口のガラス窓の向こうに美咲の姿があった。

美咲は立ち止まり、どこか離れた場所を見ているようだった。


 すると、そこに見えたのは結衣と結美の姿だった。

2人が入ってくると、その後ろにつくように美咲も入ってきた。


「結衣さん、美咲さん、結美さん、おはようございます」


意図して美咲の名前を間に挟んだ。


「おはようございます」


3人の声が上手いこと重なって返ってきた。

私の横を通り過ぎるとき、美咲が私の顔を見た。


『ドキッ』とした。


俯きながら目をギョロリとし見上げたその顔は、始めて見る顔だった。

足元から脳天に向けて、全身に鳥肌が立つのを感じ、自分の目が泳ぐのを感じた。

その泳ぐ目は、いつの間にか盛り塩の場所を捉えていた。


な、……ない。


「えっ?」


治まり始めた鳥肌が、また一瞬のうちに身体中を通り抜けた。

いや、そうだ、職員トイレの盛り塩もなかったんだった。

どうしたんだろう?……ということは、もしかしたら女子トイレで見つけた盛り塩も……

すごく気になったが、その時、昇降口を入ってくる大也と優太が見えた。


 ニコニコとなにやら話している優太の話を聞いているのかどうか、大也はキョロキョロと空を目で追っていた。

その目は、上の方だったり横だったりと、なんだか忙しなく動いている。


「おはようございます」


私の方から大也と優太に声をかけた。


「おはようございます」


元気にそう言って、優太は私の横を通り抜け、その後ろにいた大也の視線は相変わらず空を見上げながら動き、そして私を捉えた。


呆けたように、ぼんやりと私を見た大也に、


「大也さん、おはようございます」


そう声をかけた。


 その瞬間、呆けた目が焦点を結び、大也の目に生気が戻ったのが手に取るようにはっきりとわかった。


「せん…せ、お…は……」


「大也さん、どうしたのっ?…大也さん!」


挨拶は最後まで聞こえず、大也は私の揃えて立つ両足を抱え込むように倒れ込んできた。


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