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ふわふわさん  作者: 村良 咲
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 翌朝、私は首から懐中時計のペンダントを下げて下駄箱に向かった。


 昨夜は、仕事を早めに切り上げて、久しぶりに家に帰ると母に言ってあった。


家に着き玄関先に車を止めると、玄関の向こう側に人のいる気配がした。


私は助手席に置いてあるカバンを持つと、「チリン」といういつもの音を確認するように、そこにぶら下げている小さな鈴に目をやり、車から出た。


「ただいま」


既にテーブルについて、刺身をつつきながらビールを飲んでいた父にそう声をかけると、「ああ」と、一瞬こちらに顔を向け、父はまた刺身をつつき始めた。


 テーブルの上には、私の好きなエビフライがたくさん揚げてあった。


その他にも、ナスやシイタケ、ジャガイモなど、私が好きなフライをたくさん揚げて待ってくれていた母と3人で、仕事の話を聞きたがる母に、適当に相槌を打ちながら食事を終えると、私は今までのいきさつを、盛り塩のことなど端折れる部分は大きく端折りながらも、大也の周辺で起きている事象がわかるように話し、母の持っている懐中時計を借りたいと申し出た。


「その子の心の安定のためにもそれがいいわね。首から鏡のついたものを下げているところを目にしていれば、その子も安心できるでしょうし」


と、私の小学生の時の肝試しの経験からか、母は心の安定ということを重く受け止めて私を育ててきたので、快く貸してくれたのだ。


新婚旅行の思い出の品なので、さすがにまだくれはしないようだったが。



 翌日、私は子供たちの気が散るといけないと思い、とりあえずそのペンダントは服の中に見えないように下げていた。


 下駄箱に行くと、ここ数日は意識して見るようなことをしなかった盛り塩のことが気になり、目を遣った。


すると、それは壊れていた。


「誰が壊したのかしら。美咲はもう壊さないだろうし」


いやいや、私は首を横に振りながら、また考え込んでしまいそうになる自分をそうして払い落とした。


「おはようございまーす」「おはようございます」


子供たちが登校してきた。


ランドセルを背負い、給食袋をそのランドセルの横から下げ、手提げを持っている子たち、習字セットを持つ5年生、次々と子供たちが登校してくる中に、いつもと同じ、2人の兄と優太と一緒に大也が昇降口を入ってきた。


優太が私に気づき、「あっ」と言うと笑顔がもうひと回り大きくなり、


「おはようございまーす」


と、大きな声で挨拶をしながら下駄箱を上がってきた。


「おはようございます」


と、優太の目を見てそう挨拶をすると、その後ろにいた大也に目を向けた。


すると、大也の顔に笑顔はなく、顔が引きつっているように見えた。


「おはようございます」


勤めて笑顔で大也にそう声をかけると、大也の上に向いていた視線が私を捉えた。


「せんせ、おはようございます」


そうひと言言うと、また視線を上にあげた。


私は大也のすぐ近くまで行き、大也の目の前まで自分の顔を下げ、その上へ向いている視線を自分の目で捉え、


「どうしたの?」


と、声をかけると、大也の視線が下がり私を捉え、その視線が更に下がっていくことに気付いた。


 洋服に入れてあったペンダントが、その一連の動作の途中で外に出ていたのだ。


「せんせ、かがみのくびわ」


「うん、そうだよ。鏡のペンダントね、毎日首から下げているから、もう大丈夫よ」


そう言うと、


「うん」


と、大也は安心した顔を私に向け返事をしたが、その「うん」の返事が終わるかどうかの一瞬上がった視線の先が、私のすぐ頭の上だった。


「ふわふわさんはまぶしいがきらいだから、おこってもうおりてこないよ」


大也はそう言うと、上靴に履き替えて私の横をすり抜けて、優太のあとを追って行った。


 私は大也の視線の先が気になり、上を向いて天井を見渡したが、そこは白いコンクリートがただ広がっているだけだった。


「せんせい、ゆいちゃんが……」


その声に振り向くと、お腹を抱えた結衣と、声の主の真弥がいた。真弥の腕には結衣の分だろうか、手提げバックが2つかかっていた。


「結衣さん、どうしたの?お腹が痛いかな?」


「ゆいちゃん、きゅうにおなかがいたいって」


「そう、真弥さんは教室に行ってね、結衣さんは保健室に連れて行くから。それ、結衣さんの手提げ?」


そう聞くと、頷いた真弥が結衣の手提げを前に差し出したので、それを手に取り、結衣のランドセルを肩から外し、手提げと共に腕にかけ、空いている方の手で結衣の脇に手を挟み、抱えるようにしていると、そこに結美と美咲が姿を現した。


「ゆいちゃん、どうしたの?」


結衣のその姿に驚いたように、結美が声をかけてきた。


「結衣ちゃんね、ちょっとお腹が痛くなっちゃったから、保健室に行くからね」


心配そうな結美の手を取り、「いこ」と、声をかけた美咲が私と結衣の脇を通り過ぎるときに、一度も動かないままだったその視線が、見下ろすように一瞬結衣を捉えたと思うと、その顔には口を真一文字に強く結びながらもニヤリとしたところを私は見逃さなかった。


 何か変だ。


その意地悪そうな美咲の顔は、やはり私が今まで見てきた美咲のそれとは、あきらかに違う何かだった。




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