騎士は静寂に暁染めゆく 7
騒ぎの元は、再復興地区の工事に関わっている作業員達が活動の拠点にしている長屋の一角だった。
「ギリア団長殿、それにカーザス団長殿!」
騒ぎを聞きつけて先に現場に到着していたのだろう。臙脂色の制服を着た、王国騎士団の付属組織である分隊騎士の青年は、群がる野次馬達を押しのけながらやってくるリーディアとディルに声を上げた。
「よ、ご苦労さん」
「一体どうした?」
背筋を伸ばして敬礼する一つ、二つくらいは年下の青年に軽く二人は敬礼をかえし、今にも崩れてしまいそうな長屋に顔を向ける。
掘っ立て小屋とでも言うべきなのだろうか、下手をすれば倉庫の方が住みやすいのではないかとおもえる建物の、壁をくりぬいて板を張ったような粗末な扉の隙間から……そして破れた窓のむこうから、白い煙が漏れ出している。
「火事……ではなさそうだな」
部屋の中は燃えているような様子は感じられない。
周囲の景色を包み込んでしまうような多量の煙にも、煤は混じってはいないようだ。
「何かが爆発したという話ですが……どうにも」
この煙の正体がつかめない以上、彼等も下手に突入することが出来ない。
もしもの危険を考慮し、長屋から人を遠ざけようと奮闘する分隊騎士は表情を濁して、判断を仰ぐように二人の若い団長を見上げる。
「指示にあった、魔道具に関係があるんでしょうか?」
「指示……? 魔道具?」
怪訝な表情になって聞き返してくるディルに、分隊騎士もまた「あれ?」っといった感じで首をかしげた。
「魔道具が王都に流出しているので、厳重警備指令がでているんです……よ?」
「……なるほど」
自分たちが寄り道をしている間に出された指示なのだろう。
リーディアはやれやれと首を振って、ディルの戯言など無視して戻っていればよかったと、ごわついたジャケットと真っ赤に染まったシャツを見下ろして心底後悔した。
浴びたワインはよほど高価なものだったのか、まだ強く匂いが残っている。
厳格な雰囲気が強いリーディアの悲惨な格好が気にかかるのか、ちらちらと向けられる視線に内心で嘆息し、苛立ちを押し付けるように煙を吐き出す長屋へと足を踏み出す。
その背中を、ディルも追う。
「お前達はここで野次馬の相手をしていてくれ。何が起きるか分からないから、近づけさせるなよ。
中の様子は、オレとリーディアで確認してくる」
「了解です!」
心地よい復唱に頷き返し、二人そろって形程度に張り付いている扉の前に立つ。
足元に絡みつくような、濃厚な煙が漏れ出している扉の向こうには何があるのだろうか。
「こりゃあ、普通の煙じゃねぇな」
ディルは開けるぞと目でリーディアに合図をし、扉を押し開けた。
「……っ!」
そのとたん、狭い室内に充満していた煙が一気に外へと流れ出でてゆく。
新鮮な外気と交じり合って渦を巻く煙から服の袖で口元を庇い、二人は慎重に足を踏み入れてゆく。
じゃりじゃりと砂っぽい床の上。
濃厚な煙に光が閉ざされた室内は、暗いというよりは黒い――闇に侵食されていた。
「この煙――無意思精霊の塊だな。やっぱり」
「こんなのも、精霊なのか?」
埃くさい空気に顔をしかめつつ、口元から腕を下ろしてぐるりと周囲を見回したディルは、不審げな表情のリーディアにそう断言した。
「自然界に存在する……まあ、魔力みたいなもんさ。
所構わず吸い寄せられて交じり合ってるから純度がかなり高い。だから、煙って形でお前にも見えているんだ」
みしみしと床を鳴らして中に進み、何かを探すように視線を泳がせるディルは、小さなテーブルと椅子が置かれているダイニングの中央でその足を止めた。
「ほら、これだ」
「?」
手招きしてみせるディルの隣に立ったリーディアは、見下ろした床に魔法の発動時に姿をみせる円陣が描かれているのを見つける。
発動しているのか、重なり合う線は弱々しくもいまだ彼等の足元で瞬いている。
部屋に充満する煙は、どうやらこの円陣から発生しているようだった。
「これは、ディル!」
「――うん?」
その構成を探るべく円陣を凝視しているディルの緋色のケープを引っ張って、リーディアはその注意を周囲に転がる大量の瓶へと促す。
「酒だな。おい、これっては、頻繁に盗まれているって言う、オレの大事な活力元じゃねぇかよ」
無造作にあちこちに散らばる黄色の瓶の中身は全てからになっており、痛んだ床に匂いとしみを刻み込んでいる。
「……なにが、お前のだ」
ふざけているのか本気なのか。いまいち判別のつかないディルの呻きに頭痛を覚え、頭を抱える。
「だが、こんなにも多量の酒を一体何故?」
床に散らばる黄色の瓶は、それこそ一晩ぐらいは飲み屋を開けてしまえるほどの量がある。
「目的は、魔力だよ。
魔力が宿っているのは、何も人間だけじゃない。
動物やら石ころなんかにもちゃんと魔力はあって、特に植物なんかはそれが多いんだ」
転がっているボトルを拾い上げ、リーディアに投げてよこす。
「それにつけて、ここクロスはほかの大陸とも比べて植物がもつ魔力は強くてさ。
そんな魔力の強い大地で収穫されたものは、魔法士にとっていい魔力の補給源になる」
そう言われ、ラベルに目を落とす。
「地酒だと、言っていたな」
「そう、王都のすぐ近くにある村のな。
味が好みだってのもあるんだけど、俺が好んでその酒を飲むのはそのためだし、魔法士に酒豪が多いのもそのためだろう」
円陣と酒――。
その痕跡は、酒場で目にしたあの少年を連想させる。
「しかし、これもまた中途半端な円陣だな。完成する前に何かあったのか?
いや、それとも……」
「中途半端? さっき見たものとは、また違うのか?」
聞き返してくるリーディアに頷き返し、ディルは床に膝をついて床に刻み込まれた円陣に手を伸ばす。
素人身では、完全なのか不完全なのか――それがどういったものであるのかも分からない。
いつになく真剣な表情になって覗き込むディルの横顔を照らす、青白い輝きが形作る精巧な紋様は美しく、それが人の命すらも奪いかねない力を生み出すようなものとは思えないほどだ。
「さっきのは一応完成はしているが、稚拙……というかいい加減なつくりだし、どうにもちょっと違和感があるんだよな。はっきりとはいえないけどさ。
だが、こっちの方は結構精巧なもんだな。
さっきの揺れもこれのせいなんだろうが、完全に発動してなくてもこれほど強いなんてなぁ」
ぼやきながら、ディルは白手袋につつまれた人差し指で光る円陣の一角をなぞる。
「まあ、とりあえず封印しとくか。
普通なら無意志精霊も害はないんだが、ここまで強いとちょっとした拍子で爆発――なんてことにもなりかねない」
ぞっとするようなことを軽く口にして、弱々しく光る線を分断するように曲線のつよい文字を描く。
そうすると、周囲に満ちていた白い煙は勢いをなくし、それと同時に円陣の輝きも急速に萎えていった。
「これでとりあえず、煙はひくだろ」
徐々に鮮明になってゆく視界。
天井近くにある明り取りの窓から、青白い月明りが差し込み。闇と煙に占領されていた室内がその姿をあらわす。
「状況から見ても、この円陣はあの精霊がやったものだろうな」
「ここに、あの少年がいたということか」
外から見てもその手狭さは想像できたが、その想像以上の窮屈さを感じさせる室内には物という物はあまりない。
使われた痕跡があまりない埃の被った台所には、洗われずに放置されたままになっている木皿が二人分。
飛び跳ねれば抜けてしまいそうな床板の上には砂と埃に塗れ、酒瓶が転がっている。
ひどい状況だった。
はっきりとしたことはまだ言えないが、この手狭な部屋は、あの少年が身を置いている場所であるのだろう。幸い、少年は赤茶の髪といった珍しい特徴を持っている。外にたむろしている野次馬から話を聞けばはっきりするだろう。
「とりあえず外に出て、住人に話を――」
……聞こう。
そう言いかけたリーディアは、ふと視界の端に映った人影に言葉をとめた。
「? どうした?」
険しくなるその表情に、ディルもまた少し警戒の色を滲ませながら背後を振り返る。
円陣によって引き集められていた魔力の塊が引き、あらわになった室内の奥。
一つの寝台が置かれている。
「……おいおいおいおい! マジかよ」
古びたシーツ。
埃と酒気の強い空気に混じる、すえた匂い。
何もかもを覆い隠していた煙が引いて現れたのは、小柄な男の――遺体だった。
「――っ」
やつれたその肉はまだ生々しく。
冷えた外気によって形を保たれているその姿は、奇妙なほどに生前の様子を残している。
予想もしていなかった事体に動揺してたじろぐリーディアとは逆に、あえて平静を維持するディルは、様子を確かめに遺体へと歩み寄っていった。
背筋を遡ってゆく悪寒を振り払うように奥歯を噛んで、寝台の上に寝かされている男の青白い肌に視線を落とす。
「これは……」
専門家でないのではっきりとしたことは言えないが、死んでからそう日にちはたっていないように見える。
冷えた外気のせいでもあるのだろうが、痛みは少ない。
ざっと見回して、ディルは怪訝な表情のままリーディアを振り返る。
「事件性は……たぶん、ないと思う。外傷はないみたいだしな。
ただ。こいつ、もしかすると……」
いいよどみ、ディルは視線を再び遺体に向ける。
金髪に青い眼というのがこの国の基本的な容姿――といっても、リーディアのような例外もいる――が一般的な王都にあって、赤茶の髪を持つこの男はめずらしい。
場所が場所だけに、他国から入ってきた人間であるのだろうが、それにしてもあまり見かけない髪の色は、彼等が追っている少年と同じ色をしていた。
「まさか――」
ディルが言わんとしていることを悟って、リーディアも驚愕をその顔に浮かべた。
しかし、その推測を口にしあうより先に、古びた長屋の壁を崩してしまいそうな爆音と慌てふためいた声が彼等の注意を引き寄せた。
「だ、団長!
き、来てくださいっ……はやく!」
立て続けの衝撃にもはや驚いている余裕もない。
助けを求める分隊騎士の悲鳴にも似た叫び声に、とりあえず遺体のことは置いて外へと飛び出す。
「一体どうした!」
「あ、あれ! あれ!」
「?」
野次馬達を押し留めるという任務も忘れ、あたふたと呂律の回らない舌で催促してくる分隊騎士の視線の先を眼で追って、絶句する。
「な、なんだよ」
「……」
呆然と見上げる彼等の視線の先で、申し合わせたかのような絶妙のタイミングで家屋が粉々に砕け散っていった。
そのすぐ側には、先ほどの爆発音の元であるだろう半壊した家屋が、無残な姿を月明かりの中に晒している。
「アイツだ――!」
月明かりとは別の輝きに、ディルが声を上げる。
「精霊を連れたあの少年か?」
「ああ!」
答え。
騒然としている場から飛び出してゆく。
「ちょ、ギリア団長!」
「この場は任せる。もう中に入っても安全だからよ!」
置いてゆかれてはたまらないとすがり付く声に手を振って、振り返りもせずにディルは走り去ってゆく。
「頼んだぞ!」
その後ろをついて走るリーディアもそう言いのこし、反論する暇も与えずに閑散とした景色へと消える人影を追った。
「今度こそは逃がすか!」
「これ以上、被害を出すわけにはいかないからな!」
崩れかけた家屋の乱立。崩されたまま、いまだに片付けられていない瓦礫。
道という道がない再復興地区の景色は、どれもばらばで個性的でもあるが、そんな景色が何処までも続いているせいで逆に特徴を掴みにくくなっている。
辺りを照らす明りが少なく、月明かりも乏しければなおさらだ。
感や推測……そして爆音だけでは目的の場所へとたどり着くことは難しいだろう。先頭をきって走るディルの魔法士としての能力が頼りだ。
細く、しなやかな動きで大地を蹴り上げて走る後ろ姿を見失わないようにと追いかけながら、いつでも動けるように腰に下げた剣に手をかける。
ディルのように魔法の才は無いが、長年剣を扱ってきた戦士としての感が奇妙な高揚感を捕らえていたのだ。
俗に言う、嫌な予感という類のものか。
その予感を確かなものにするように、ディルの怒声が闇夜を振るわせた。
「リーディア!」
その声は、注意を促す。
「――来るぞ」
「!」
視界の隅へと身を翻すディルと同時に、リーディアも素早く身を捻る。
その彼等の間を、狂気を秘めた力が駆け抜けてゆく!
ごっと鼓膜を揺るがす轟音は、整備途中の道を僅かに照らし出す街灯へと衝突し、鉄の芯を玩具のようにへし折った。
あっけない破壊に、リーディアはこめかみに滲んだ冷や汗を袖で拭って視線を前方へと向ける。
『避けよったか』
油断なく構えるリーディアの怒気に呼応するように響いたのは、幼い少年の声だった。
いや、少年の声を借りて発声する別の何者か――と言った方が正しいのだろう。
「避けなきゃ死んじまうじゃねぇか」
当然だと言い返して闘争心をむき出しにしたディルは、色味を強くした緑色の瞳でそれを睨む。
緊張感の漂う廃墟同然の街並み。
通りの向こうから姿を現したのは、赤茶の髪が印象的なあの少年だった。
『ふふふ、良くやるものだ。
しかし、これ以上我の邪魔をするならば――』
「……うっ」
幼い顔に似合わない高らかな口上の途中で、表情を青くさせたリーディアが口元を押さえて呻く。
『……邪魔をするなら』
「なんだよ、酒くせぇな。
って、大丈夫か? リーディア」
鼻をつまんで、ディルは背後で街灯にすがり付いたまま蹲っているリーディアを振り返る。
「問題……ない。
それよりも、アレをどうにかしろ」
「了解~」
明らかに虚勢と思える口調のリーディアにため息をつき、言われたとおりにディルは軽く身構えて少年……いや、精霊をみすえた。
『おのれ……貴様ら……』
それぞれ勝手な反応を見せる二人に、精霊は少年の肩を震わせて器用に苛立ちを表している。
(まいったな、完璧に乗っ取られちまってる)
酒場で遭遇した時には、まだ肉体や精神まで侵食してはいなかった。
おそらく、それほどまでの力がその時はまだなかったのだろう。
肌に伝わるほどの目に見えない気迫からは、先ほどとは打って変わった強い魔力を感じる。
「どうしたんだ、様子が先ほどとは違うが?」
フラフラと頼りない足取りで隣に並ぶリーディアも、少年の異変に感づいているようだ。
「精霊の意識が、あのガキの精神を乗っ取っているんだよ。
なるほど。さっきの円陣は、魔力を蓄えるためにわざと不完全なまま発動させたんだな……」
「わざと?」
『どいつもこいつも目障りだ。
ここで引かぬというのならば、わが存在をかけて貴様らを闇に滅してくれるっ!』{{半角}}
「……おっちゃんの店から盗んだ酒で不完全な円陣を作り、発生した無意思精霊……自然界に普通にあるようなもんだが、それを取り込んで魔力を回復させたんだ。
本来の力があれば、魔法士でないガキを支配するなんざ簡単――」
『我の話を聞かんかぁ!』
良く響く子供特有の高音の怒声に、ディルはあからさまに表情を濁した。
「聞いてるさ。自分を見逃してくれってんだろ?」
含みの見える微笑。
挑戦的とも取れない表情に、精霊はさらに気を荒立てる。
『貴様!』
怒号と共に膨れ上がる攻撃的な魔力の渦に、リーディアは剣に手をかけ、ディルは装飾の施された金色のナイフを逆手に持って抜いた。
「ここで見逃してちゃ、減給くらっちまうじゃねぇか」
「そういう問題ではないだろう、まったく」
しゃり……と、支給品ながらも質のいい鋼の澄んだ響きが闇夜に冷たく響く。
いくら調子が悪くても、その手に剣を握れば全力の力を持って対する。騎士であるための剣技をもつリーディアは、ディルを咎めながら構えを取る。
『滅してくれるわぁっ!』
精霊が吼える。
人間の魔法士たちが古語を操り精霊と交渉するのとは違い、力の大元である精霊には面倒な通過儀礼はない。
小さな手が空を切るのと同時に、街灯を破壊したものと同等の力が空間に生まれ、対峙する二人の騎士へと襲い掛かった!
『トゥカナ!』
だが、彼等は逃げない。
ディルは逆手に持った短剣を正眼にかまえ。美しい輝きを持つ刀身に刻まれた存在の名を呼ぶ。
神秘の力を宿す短剣は彼の声と魔力に呼応し、滑らかな刀身に複雑な紋様を浮かび上がらせた。
「うるぅあっ!」
気合と共に、万全の状態で発動した短剣を振り下ろす。
『……おのれぇぇぇっ!』
刀身の軌跡そのままに現れた鋭い力の塊は、精霊のはなった力と真っ向から衝突する。
「上出来!」
どちらも競り勝つことなく霧散し、騒がしい通りに衝突の名残である風が虚しく渦巻いた。
『た、ただの……ただの人間の分際で!』
「なめんなよっ、てことさ」
得意げに微笑んで、淡く輝く短剣の切っ先を突きつける。
「さあ、観念してその体からでていくんだな」
悔しげに表情を歪める精霊は、ディルの台詞にぎりぎりと歯を食いしばり激高する。
脆弱な人間相手に見下されるなどということは、決してあってはならない。
『言っただろう、我が存在をかけて滅してくれると!』
そう、その存在をかけて。
精霊は宣言するように高らかに声を張り上げ、夜空に吼える。
「!」
嵐のように突如として膨れ上がる魔力に、ディルは背筋に冷や汗を流す。
いくら多大な魔力を得て少年を支配したとはいえ、力に制限がかけられているのに代わりはない。
存在を保つための魔力がなくなってしまえば、どういったものであれ消滅する運命にあるのだ。
しかし、それにも構わずに魔力を放出し続ける精霊に、ディルは小さくうめいた。
「まずいな」
「なに?」
聞き返すリーディアに説明する間もなく、放出される力の渦が明らかな目的を持って集まり……その姿を現した。
『現出せよ、我が隷属どもよ!』
号令と共に、黒い人の形をもった「何か」が十三体。
呆然と立ちすくむ彼等を取り囲むようにして、その姿を現す。
『我が名は、フラムスティード。
精霊の頂点に座する五人の王の一人であるっ!』
「――なっ?」
精霊の名乗りに、ディルは息を呑んだ。
「どうなっているんだ、一体」
渦を巻く力の本流は空気を震わせて嵐を呼び起こし、風圧によって周囲に建つ建設途中の建物の窓ガラスが砕け散り、粉雪のように舞い上がる。
「……っ!
まずいぞ、リーディア」
不可思議な威圧感をもつ十三体の影に身構え、ディルは薄い唇をぺろりと舐めた。
「そのようだな……」
この場所に人がいないというだけでも幸いか。
リーディアもその雰囲気を鋭くさせて、剣を握る手の力を強くした。
「こりゃあ、始末書確定だな!」
「……そういう問題ではないだろう」
『きさむぅあらぁぁぁっ!』
真面目なのか不真面目なのか分からないやり取りに、精霊……フラムスティードの怒りは頂点にたっした。