第三話
お待たせしました。第三話です。
アスディークさんの話をまとめるとこういうことらしい。
アスディークさんがのんびりお昼寝を楽しんでいると、上の方から妙な魔力が近付いてくるのに気が付いた。
最も、魔力なら空を飛んでいる鳥たちも少しは持っている。この時点でアスディークさんは特に気にせず、しかし魔物だったりしたら周囲にある村が大変なことになるのでとりあえず確認したらしい。
そこで、落下中の私達に気付いた。
空から人が降ってくるという異常事態に混乱したものの、慌てて風魔法を使用して落下速度を落とした。
しかし、慌てて発動したためか満足に効果を発揮できず、地面に落下した私は大怪我を負ったらしい。それも、生きているのが不思議なくらいの大怪我を。
幸か不幸か、一緒にいた秋菜の方はしっかりと魔法が効いたらしく、たいした怪我はなかったようだ。
脱ぎ捨てられた制服は、回復魔法をかけるときに傷の状態がわかりやすくなるように脱がしたらしい。
脱がせる前に一言言っておいて欲しいものだが、気絶していた上に一刻を争う状態だったので文句は言えない。
しかし、流石は神龍アスディークだ。今は失われたとされる光属性の回復魔法を扱えるとは。
(・・・?)
いや、少し待ってほしい。何故私は目の前にいる龍に対してなんの疑問も抱いていない?それに魔法についてもだ。私達がいた世界には魔法なんて存在しないはず・・・。
・・・『元の世界』?何故私はそう表現した??それではここがどこか違う世界みたいではないか。
それだけではない。私には『この世界』の知識がある。
言語や一般常識。国の名前から歴史、神話にいたるまで全て知っている。
私の知らない、私の記憶。なくなったことならあるが、知らないうちに増えたことなどない。
いったい何故?
「・・・どうやら、気付いたようだな」
混乱している私を見ていたアスディークさんが、ニヤリとした顔でそういった。口ぶりから察するに、私の記憶に細工をしたのはアスディークさんのようだ。
しかし、あなたが笑っても怖いだけですよ。アスディークさん。
「・・・貴女の仕業ですか?」
「ああ。その通りだ」
私の私の問いかけに対し、面白そうに笑いながら肯定するアスディークさん。だから、怖いです。
「・・・なぜ、そんなことを?」
「その方が手っ取り早いと思ってな。お主らが気絶している間に細工させてもらった」
その言葉にはたいした驚きはない。神龍ともなれば人間の記憶に細工することぐらいは容易いだろう。最も、その知識さえもアスディークさんが植え付けたものなので安心できないが。
変な記憶とか、植え付けられてないですよね?
「安心せい。妙な記憶など植え付けておらぬわ。せいぜい言語や一般常識といったところかの」
私の懸念を悟ったらしいアスディークさんがそう説明してくれる。
まだいまいち安心できないが、少なくとも先程よりは不安感は少なくなった。
「それでだ。もう気づいておるとは思うが、ここはお主らがおった世界ではない」
「でしょうね」
少なくとも、元いた世界には魔法などないし、龍などという生物も存在しない。
記憶に細工されていなければドッキリかと疑っているところだ。
「ですが、何故私達はいきなり異世界に来てしまったのですか?」
とりあえず、今一番気になっていることを聞いてみる。私の中のこの世界に関する知識では、異世界から人間を呼び出す魔法は遥か昔に失われたはずだ。
私の問いかけに、アスディークさんは渋い顔をしながらも説明してくれた。
「・・・おそらく、古代遺跡の暴走だろうな」
「・・・暴走?」
古代遺跡というのがこの世界に存在していることは知っている。それが元の世界のそれとは違い、冗談のような高い技術が眠っているということも。
「たまにあるのだ。身の程をわきまえぬ愚か者が古代遺跡を発動させ、制御できずに暴走させてしまうことがの。お主らは、不運にもそれに巻き込まれたと考えるのが妥当だの」
なんとも迷惑な話である。
私の中にある知識によると、かつて神龍の力さえも越える技術を持った文明も存在していたらしい。
その文明は神龍さえもなし得なかった世界の境界を越えるすべを有しており、別の世界から様々な物を呼び出していた。
だが、そんな高度な技術を持った文明も終わりを告げる。
理由は単純。強くなりすぎた力をもて余して自滅したのだ。
恐らく、アスディークさんが言っている暴走した古代遺跡というのはその事だろう。
「・・・元の世界に帰る方法はあるんですか?」
「あるにはあるが・・・正直、おすすめはできんな」
「何故です?」
「まず、世界を渡るとなると大量の魔力が必要となる。それこそ、神龍たるワシが数千年・・・いや、数万年かけてやっと。といったところかの」
割と軽い口調で言っているが、その内容は私にとって死刑宣告に等しかった。
それも当然だ。神龍であるアスデークさんは人間を遥かに越えた魔力を有している。無限ではないが、それに近い魔力を。
そんな彼女が数万年たたないとできないというのであれば、人間である私達は到底できない。
「次に、例え魔力を集めて世界の境界を渡る魔法を発動させたとしても、決まった世界に転移できる確率は極めて低い。いや、まず不可能だろうの」
アスディークさんの追加攻撃に、私は思わず呻いてしまう。
魔力もなく、仮に集めたとしても元の世界に戻れる確率はほぼ0パーセント。
完全に詰んでいる。もういっそ、開き直ってこの世界で生きてみようか?
思わずそう考えてしまうほどだ。
だけど。
「・・・だけど」
「うん?」
「だけど、諦めることなんて出来ません。無理かも知れない。できたとしても、何年かかるか分からない。それでも、あの世界には私を育ててくれた人達がいます。秋菜以外にも、仲の良い友人もいる。彼らともう一度会うことを諦めるなんて、私には出来ません」
これは私の本当の気持ちだ。私はあの世界で様々な人達と交流を深めてきた。今更彼らを忘れることなど、できるはずもない。
私のその言葉に、アスディークさんは何故か優しげな表情を見せた。
「・・・そうか。それもいいだろう。ならば、とりあえず暴走した古代遺跡に行ってみるといい。何かわかるかも知れん」
どうやら反対はしないようだ。それどころか、アドバイスもしてくれた。
しかし、アスディークさんはまだ何か言いたそうにしている。
「だが、その前にここで修行でもしていけ。旅をするにしても、自分の身は自分で守れるくらいにはならんとな」
確かに、この世界には魔物という元の世界では物語の中にしか存在しない生物も普通に存在してちさいるし、治安もいいとは言えない。
なので、アスディークさんの提案にありがたくのらせてもらう。
だけどその前に。
「あの、その前に何か着るものをくれませんか?」
私に露出狂ではないのだ。いつまでも裸でいたくない。
私のお願いに、アスディークさんは苦笑しながら頷いてくれた。しかし、お願いしてみたものの人間サイズの服など持っているのだろうか?
少し不安だが、ここは期待しておこう。
あ、ちなみに秋菜は私に抱きついてから一度も離れていない。心配させてしまったので好きなようにさせていたが、「デュフフ」と言いつつ私の胸をさわり始めたのでそろそろ引き剥がしておこう。