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ハルちゃんの物語  作者: SAI
2/4

町中で

 黒いスニーカーに白のソックス。淡い水色のワンピースの上に斜めにかけた小さな赤い水筒とお母さんにふたつに分けられた三つ編みの頭に被せられた麦わら帽子を被ってお出かけです。


 透き通るような淡い青空に浮かぶ雲を見ながら、ハルは公園を通り過ぎどんどん歩くと町中に出てきました。


 大きな建物や大人の間をすり抜けて歩くと、なんだか自分が蟻のように小さく縮んでしまったような感覚にむずむずしながら、少し拓けた場所に着きました。


 いくつか大きな石で作られた低い机と椅子は、職人の手により顔が映るほど磨きあげられています。

 ここはみんなの憩いの場です。


 ハルは椅子によじ登り座ると水筒のお茶を飲みました。


「ふわぁ~、美味しい。」


 少し涼しくなると、今度は麦わら帽子を脱ぎ、帽子の中にこもっている蒸気を扇いで逃がすと椅子の上で上半身を伸ばした。


 ハトがこっちに近付いたり、離れて行ったりする動作を眺めしばらく寛ぐとハトに近付いてみた。バサバサと翼を羽ばたかせ一斉にハトの群れは何処かへ飛んでいってしまった。


「残念。少しは触れると思ったのになー。」


 再び町中を歩くと、ショッピングセンターの近くまで来た。お昼すぎの時間帯だが、主婦らしき女性を沢山見かけた。


「ちょっと、ボク?ボク??」


 ハルの後方から知らないおばさんが男の子を呼んでいるようだ。

 ハルは気になって、辺りを見回すがどこに男の子がいるのだろうか?見当たらない。

 もしかすると、もう見付かったかもしれないと思い、後ろを振り向くとおばさんがニッコリと笑い小走りで近付いて来る。

 

(嫌な予感しかしない。)


 顔を引きつらせながら、頑張って愛想良く笑顔で自分の方を指差し「?」と、ジェスチャーをするとおばさんは頷く。


(ありえない)


 ショックで地面に打ちひしがれそうになりながらも、おばさんはハルに声をかけた。


「おばちゃん、郵便局を探してるんだけどね?ボク、どこか知らないかな??」

「ゆうびんきょくって、あかいポストのとこ?」

「そうそう。手紙を出すのにおばちゃん、切手を切らしちゃって買いに行かなきゃ行けなくなっちゃったのよねー。早くしないと、夕飯の仕度が遅れちゃう。旦那が帰ってきたらなんと言われるか溜まったもんじゃないわ!!だいたい、あの人ったらね...」


 語りだしたらなかなか止まらないのは大人の(さが)なのだろうか。急ぐと言っているのに語りだすおばさんにハルは頭を抱えたくなった。


 そもそも、ワンピースを着ているのにも関わらず「ボク」と呼ぶ人に優しく接するいわれも無いのだが、このまま放っておくと門限になっても帰れないかも知れない。


 ハルは思い切って話を切り出すことにした。


「郵便局はあそこにありますよ。ゴハン、早くしたいんですよね?」


 小首をかしげて郵便局の方を指差すと、おばさんはその先を見た。


「あらやだ!?こんなすぐ近くにあったのね!!ボク、ありがとう!助かったわ。」


 ハルの手を握り、おばさんは手を離すとその小さな手の平に飴を3つ乗せた。


「どういたしまして。アメちゃんありがとう。あと、ボクじゃなくて女の子なんだけど・・・って、あれ?聞いてない!?」


 いつの間にかおばさんは郵便局の入口にいた。これが、セールや安売りの時に見せる主婦の成せる技なのか。


「ママさんパワーすごッ!」

 

 人がいるので小さな声で言ってみました。

 それでも少し恥ずかしくて、ハルはその場を走り出した。





 郵便局を抜けて、並木道を通ると図書館の近くにあるレンガの花壇に腰掛けた。


 蒸気した頬を風が優しく撫で、さわさわと並木の木の葉は擦れ合う。


 おばさんに貰った飴を1つ口にしようと、袋を開けると、飴は少し溶けていたようで袋に引っ付いていた。


(取りにくいな...。)


 袋から少し顔を覗かせた飴を口に咥えて引き剥がすと、口の中でコロコロ転がした。苺の甘酸っぱい香りがふわっと広がり美味しい。自然と口角が上がり、機嫌も良くなった。


(さっきのことは深く考えないで、アメちゃんを楽しみますか。)


 ーー余り考えすぎると、黒いモヤモヤが胸の中をぐるぐる台風みたいに大きくなって辛くなるしね。




 

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