第9話『テレポウト』
二人は部屋を出て左右に分かれる。
まほの変身したエスパーのマナは、念動力で廊下の天井を崩すと、手前の道をガレキで防いだ。
これでこちらからの進入はしばらく防げる。
(さて急がないと)
そこからテレポートで屋上に出ようとすると、空間跳躍中に攻撃を受けた。
体勢を崩して屋上の床に叩きつけられる。
「つっ…!」
立ち上がると、マナを取り囲むように3人の高校生くらいの年齢の男女が立っていたる
(こいつらがテレポーターね…)
この世界におけるテレポートは跳躍にある程度決められた『道』を通って行われる。
その『道』を通れば障害物や危険を回避して無事にテレポートできる。
もちろん道は複数あるが、その道のほとんどをこの3人に抑えられている状態である。
逆に1人のテレポーターを押さえ込むのに3人は必要という事になる。
ついでに言うと精神防御の為遠距離へのテレポートは今は出来なくなっている。
5~7メートルが限界か。
「こっちは初心者エスパーなんだから、手加減して欲しいんだけど!」
扱うのははじめてだが、熟練の超能力者に変身している。
マナは右手を大きく凪ぐと、マナ中心に円を描くように衝撃波が走った。
3人はその場からテレポートするとそれを避ける。
マナもテレポートをすると次に姿を現した時、敵テレポーターの1人が地面にたたきつけられた。
「さっきのお返し」
マナはそう言うとすぐに再テレポート。今ので空いた『道』でホテル内部に飛んだ。
弾丸の雨がホテルの廊下の壁を削る。
こう狭い路地で複数に撃たれては飛び込めない。
幸いマナがもう一方の廊下の道を崩してくれたおかげで挟みうちにはならないが。
(スーツがありゃ弾丸くらい平気なんだが)
いやこの数はスーツがあってもちょっとか。なんて事を思いつつ。
進みあぐねいていると、すぐ後ろにマナが現れる。
「おっ?」
「裏拳やって」
「ん?」
「いいから」
言われるまま右手の拳を後ろに振るうと、そこにちょうどテレポートしてきた男の顔面に当たった。
マナは再度消えて遥を連れて戻ってくると、京介の手をとってテレポートした。
ホテルのロビーに出る。
「これくらい広いなら戦いようがあるでしょ?」
見渡すとロビーには30人程度の武装した人間。ほとんどは上にあがって行ったのか、思ったより少ない。
「バイク借りるわよ」
マナはそう言うと遥を連れてバイクに上にテレポート、そのままフルスロットルで発進させた。
入り口付近にいた敵を蹴散らして出て行く。
そのすぐ後をテレポーターたちが追ったのを京介は見た。
「…アレを相手にはしたくない」
京介は脚力を強化すると、ロビーを走りまわる。銃弾が後から走った後に突き刺さっていく。
「そんな撃ち方してたら味方に当たるぞ!」
近場にいた男二人を殴り飛ばす。
いくら身体能力の増幅は出来るといっても銃弾をつかむ事は出来ないし、当たれば死ぬ。
速さで翻弄しているだけで見切れるわけではない。
(中途半端な強さの超人のつらいところだな)
さいわい相手の戦闘熟練度は低く、統率もイマイチだ。
一斉に囲まれさえしなければ100人相手でも勝てない事もない。
(能力者が出て来なければ)
の話である。
マナは片手で運転しながら、なんとか遥を落ちないように自分と遥をロープで繋ぎ固定する。
後ろからテレポーター達が小刻みにテレポートしながら追ってくるのが見える。
彼らの弱点は高速移動しているものだ。
テレポートで近場に追いついてもバイクの速度で即座に離されてしまう。
どこかに『乗る』場所でもあればいいが、二人乗ったバイクではそのスペースはなく、掴まるのは150キロを超える速度を出しているバイクではそうも行かない。
身体能力は常人と変わらないので手が出せない。
「…うっ」
後ろの遥が呻いた。
「目が覚めた?」
「…目はずっと覚めてた。意識攻撃が弱まってる」
「結構遠くまで来たからね」
「これなら…!」
遥はキッと後ろを睨むと、バイクの後ろを蹴って飛び上がった。
いつの間にマナが繋いでいたロープを切っている。
そして現れたテレポーターの1人に現れざまのとび蹴りを食らわす形になった。
遥はそのままテレポートすると、バイクの後ろに立った。
蹴られたテレポーターはそのまま地面に叩きつけられる。
かなりのスピードが乗っているので下手をすれば死んでいるだろう。
「やるぅ」
「熟練度が違うっての」
遥がニッと笑うと、次に現れたテレポーターがマシンガンを手にしているのが見えた。
「危ない!」
遥はマナの肩を掴むとテレポートして姿を消す。
マシンガンの弾がその後の空間をすり抜けて行った。
そしてすぐ後に元通り二人の姿がバイクの上に現れる。
「飛び道具は卑怯だ!」
「…運転変わって」
マナがそう言うと瞬時にマナと遥の位置が入れ替わった。
「おととっ!?」
急な事に遥は少しあせるが、すぐにハンドルを固定した。
「せっ!」
マナが気合をいると、テレポーター二人が現れた瞬間、透明の壁にぶち当たって弾き飛ばされた。
マナが念動力で作った壁である。
遥はそれを見るとバイクを減速させて、とめた。
「ふう…やるぅ」
「ふふっ」
マナはバイクから降りると、辺りを見回す。
「かなり離れちゃった。はやく援軍つれて任意助けに戻らないと」
テレポートすれば距離は関係ないが、テレパシストの精神攻撃が厄介だ。
「アテあんの? 相手あの数だぜ」
「うん、任意の仲間に頼めば多分…」
と話していると突然バイクからアラームのような音が鳴った。
二人は顔を見合わせると、バイクのタッチモニターが点滅している。
マナがそれに触れると、モニターが変わって、ブレインのCGモデルが映った。
『…やれやれ、ヘルメットをかぶってくれれば通信も出来たのだが』
ブレインの声が聞こえてきた。
「あっ、ヒマなかった…それよりあの、任意が大変で」
『わかっている。状況は把握し切れていないが、能力者を1人要請しようと考えている』
「考えている? たった一人!? 相手は…」
『心配要らない。数など彼にとっては問題にならない』
ブレインは無機質な声で言い切った。
『そんな事よりあなたには、このバイクを持って来て貰いたいね』
ブレインはそう言うと現在、外国にいるその男にコールを開始した。
20人ほど倒したところで京介は念動力者二人にあえなく捕縛され空中に固定されていた。
上の階に行った部隊も戻ってきて、かなりの数の武装した人間が銃を京介に向けていた。
これでは何とか捕縛を破っても蜂の巣だ。
(…くそっ、全然ダメだ)
手を動かす事も出来ない。
大勢の敵に囲まれて身動きが取れない絶体絶命。過去の戦いでもここまでの状況は味わった事がない。
完全に動きを封じたのを確認すると、武装した男の1人が手の平サイズの何かの装置のようなものをこちらに向けた。
するとその装置から空に向けて光が放たれて映像が映し出された。
軽くサイバーな投影機のようなものらしい。
ホテルのロビーの空中に中年男性の上半身が映し出される。
口ひげと後退した額が特徴的だ。
京介はどこかで見た事がある顔だと感じた。だがハッキリと思い出せない。
『…任意京介だな?』
声が響き渡る。
「…ああ、あんたは?」
『顔を合わすのははじめてだが、私の顔に見覚えくらいはあるんじゃないかな?』
男はニィと笑う。
確かに見覚えがある。
記憶力操作をすると、思ったよりすぐ答えは出てきた。
「あっ、テレビで見た事ある!?」
『そう! 超能力者研究者の路利樹だよ!テレポウトォー!』
路利樹はそう言うと手を勢いよく空にあげた。
そうそう小さい頃流行ったなアレと京介は懐かしむ。
路利樹というタレント(知識人枠)は破天荒な言動と高いテンションがウケて半年ほどブームになった、よくいる何でか流行っちゃった一発屋枠だ。
勢いよく腕を上げてのテレポウトォ!は子供に流行りすぎて一時禁止されたくらいだ。
そのトシの流行語大賞にもノミネートされて惜しくも3位であった。
見た目の老いと後退が進んでいるが確かにあの時の変なタレントだ。
ここに来て京介は今回の敵があの路利樹だったのかと理解した。
「なつかしいなー…」
『フフフ、君くらいの年代なら思い出してくれると思ったよ』
なんだかちょっと嬉しそうだ。
「…本当に超能力研究者だったんだなあ」
テレビに出る人は自称国際弁護士やら自称セレブ姉妹みたいなキャラ付けタレントも多い。
路利樹もその類だと思っていた。
『テレビジョンを通してでは私の思想はなかなか伝わらないようだからね』
「その路利樹さんが何で俺を狙うワケ?」
まあこの状態で考えられる可能性は一つしかないが。
『ご名答。君はもう気がついているね』
路利樹はニッと笑うと何かを掴む動作をして画面に見えるようにそれを持ち上げた。
『元は教え子とはいえ、そう簡単に信じると思うなんて…』
髪の毛を掴まれた吉岡の顔が映し出された。顔だけだが傷だらけで衰弱しているのが見て取れる。
『まだまだ教育が足らなかったカナ?』
吉岡が捕まって漏れてしまったようだ。
『…すまない任意くん…君の正体も…』
吉岡が苦しそうに言う。
『そう君の正体。それが問題だ…』
路利樹は掴んでいた吉岡の髪を離す。落ちて画面外に吉岡が消えた。
『本来なら…そう本来なら君たちは私に共に歩むべき存在である』
「…」
『人より優れた力を持つ君たちは次代を担う進化した人間…そう』
路利樹の目が妖しく光る。
『ネクスターだ』
聞き覚えのある単語に京介が反応する。
『そうなのだ任意京介君…いやインフィニティ! 君はネクスターでありながら我が友を殺した…許されるものではない』
「…友」
『そう、お前に殺された佐羽鬼統治は志を同じくする友…盟友であったのだ!!』
路利樹は自身の胸元を掴むと、苦しげな表情を作り叫んだ。
佐羽鬼統治は蒼き雪の能力者をネクスターと名付け、その数を集めてインフィニティと戦った。
最後は刑務所の中で病死したと聞いている。
『まさか今になってインフィニティの正体を知る事になるとは思わなかったよ…
だから革命の日を前にしても君を捕らえねばならなかった…』
「随分友情に厚いんだな」
『当然だ! 本来は私の超能力スクールの生徒がネクスターと呼ばれるはずだったのだ!』
しかしスクールは警察の介入で解散する事となった。
この時に路利樹は海外へ逃亡。佐羽鬼統治の手引きで数年前まで雲隠れをしていた。
(なるほど、それでこのタイミングなのか)
『人は優れたものに先導されるべきだ…今の世界を見ろ! 愚者が上に立ち世界は腐敗している…!』
「ああ、そうテのは、もういいから」
京介はため息を漏らす。
『…なんだと?』
「…ようはあんた含めて佐羽鬼統治に見捨てられたって事だろ? あんたが結果を残せないまま何年もくすぶってる間に、統治は見つけた」
京介は挑発するような視線を路利樹に向けた。
「俺たちネクスターを」
『…ぬっ』
路利樹が小さく呻く。
「お前の育てた超能力者よりさらに上の存在の俺たちがいるというのに、何がいまさら革命なんだ? 普通の人間まで巻き込んでよ」
京介は銃を向けている能力を持たない男たちを見渡す。
『私の生徒たちが…お前たちに劣ると? その体たらくでよく言えたものだ…』
怒りを抑えて、動けない京介を見下すように言う。
「すぐにわかるさ」
京介がそう言った瞬間。
ホテルのドアから轟音とともに凄まじい風と砂煙が入ってきた。
それはホテルのロビーを一回転して、そこにいた人間たちを一瞬で吹き飛ばし、念動力から解放されて落ちてきた京介を受け止めた。
『…な、なんだ!?』
砂煙が晴れて、京介をお姫様抱っこした仮面の男が姿を見せた。
「…ナイスタイミング、早馬さん」
「遅くなったな、45秒前までロスにいたもんでよ」
インフィニティと共に戦ったマスクヒーロー・ハイスピード、早馬瞬足は仮面から覗く口元でニッ笑った。




