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無限英雄3  作者: okami
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第2話『10年前の魔法少女』

 学校の屋上。

 一年の時からの京介の憩いの場である。

 金網の囲いが高く作られており、あやまって落下することもない。

 その割りに人気がないのは、ここが特別教室の練の屋上だからである。

 もう一つ隣の練の屋上は数年前の建て直しの際にちゃんと整備されており、他の生徒たちも多く活用している。

 わざわざ休み時間に遠い方の屋上までは行かない。ついでにこちらは古いままで粗雑である。

 そしてまた生徒が自殺して云々なんて噂が立ってたりもする。

 そんなわけで人はほとんど来ないといっていい。


「おやっ」


「あっ」


 京介が屋上のドアを開けると、思いがけない先客がいた。

 小手先まほである。

 まほは持っていたタバコをさっと隠した。


「…へえ、タバコやんだ?」


「悪い?」


 悪い事は悪いだろうが。

 見た目がスレていないので意外ではあった。

 まほは開き直って隠したタバコを口に戻した。


「落ち着くのよね」


 と一本薦めてきたが京介は断った。


「真面目そうなのに」


「真面目だよー、コレ以外は」


 と煙を吐いた。

 能力者とは関わり合いになりたくなかったが、ここでそそくさと帰るのもどうかと京介は思う。


「小手先の言ってた、魔法ってさ…具体的には何が出来るんだ?」


 その話題にまほは、うっと固まる。


「…あんまし言いたくないんだけどね」


 まほはポケットから卵くらいの大きさのピンクとホワイトの丸い玩具を取り出した。


「正しくは魔法使い、じゃなくて魔法少女なの」


「うん?」


 まほの持っていた玩具は蛍光ピンクの光を放つと伸びて30センチ弱くらいのステッキに変化した。


「小学4年の時にね、妖精界の使いにコレ渡されてね」


「…よう、せい、かい?」


「…人の心に夢を与える任務を妖精界の女王から与えられて、一年ほどアイドル活動を…」


「えっ、何?意味がわからない」


 妖精と夢とアイドルの関係性がもう何か。

 個々に突っ込みたいところも多々にあるが。


「1000年に一度、妖精界に選挙があってね。人間界で夢をどれだけ集めたかで有利になるんだって」


 なんだか一気にキナ臭い話になってきた。


「結局、選挙では負けちゃったらしいんだけどね」


 現在はその時に勝った妖精が女王になっているそうだ。


「でー、その際に有耶無耶になってこの魔法のステッキも回収し忘れたみたいで」


 手に持ったピンクのステッキを見せた。


「しかしアイドルってなあ…」


「知らない? フェアリー・マナって」


「あー…人気だったのに突然失踪したって話題になってたな」


 当時10歳前後の京介は女性アイドルには詳しくはなかったが、メディアの露出で人気は理解できていた。

 失踪騒動も1年くらいは尾を引いていたが、時間とともに触れられなくなっていった。


「…そういや、似てるか」


 京介は記憶の中のフェアリー・マナと目の前にいる小手先まほを照らし合わせる。

 化粧や体格の違いはあるが、言われてみればな感じである。


「魔法で18歳になってたのよ」


「んー…? ちょっと待てよ…」


「そうなのよ。私あと2週間で18歳になるのよ」


 沈黙。


「……意味ねーな」


「だからあんまし言いたくなかったのよ…いやその一応、歌とか踊りとかうまくなるのよ?」


 アイドル技能特化である。


「もうなんか魔法少女とも呼べなくなってくるな」


「そう、魔女ってのもナンだから、とりあえず魔法使いで通したワケよ」


 ため息をつく。 


「名前売れちゃったから、あんまし変身も出来ないだろうしなあ」


「だから正直、特殊能力者ってくくられても、わりと困りものなのよねぇ」


 確かに。

 京介が今まで出会って来た能力の中でもトップクラスに使い道がない。


「あー…そうだな、ちょっと変身して見せてくれよ。せっかくだし」


「えっ」


 会話をつなげようといった言葉であったが、まほは固まる。


「いいけど色々と恥ずかしいので、向こうむいててくれる?」


「なんで?」


「変身する時一瞬全裸になるのよ」


 お約束である。


「…ああ」


 京介は後ろを向く。


「じゃ…フェアリラ!ラルラ・リリル・ラ・ルラ…」


「ぶっ!」


「笑うな!…省略!」


 後ろを向いててもわかるほどの蛍光ピンクの光が広がり、収まった。


「どうぞ」


 言われて振り向くと、記憶の中にあったフェアリー・マナそのものがそこにはいた。

 ピンクのふわりとした髪に黄色と白のステージ衣装。

 まほとの大きな違いは刺さるようなまつげと胸の大きさであろうか。


「うわあ」


「うわあって何よ」


「この寂れた屋上の風景で見ると、またシュールだなって」


「うっさいあね」


 マナは苦笑した。


「こう見ると、小手先の時とは似てるようで大分違うな」


「当時の私の願望とか、偶像になる為のカリスマオーラとか色々あるからね」


 と、ふくよかな胸を自分の両手で持ち上げてみた。


「全然育たなかったなあ…」


「やめなさい、はしたない」


 マナはふふっと笑うと、変身を解いてまほに戻る。


「私の能力はこれでおしまい」


 そう言ってステッキを元に戻すと、スカートのポケットの中にしまった。


「すごい事は…すごいな」


「任意君もさ、何か見せてよ」


 ただ見はズルイとでも言いたげだ。


「んー…じゃあ、俺も変身を見せるか」


 テスト中は外していた通信機に合図を送る。


「変身!なんてな」


 スーツが転送されて京介の姿がインフィニティへと変わった。


「うわっ、本当にインフィニティだ!?」


 最初の事件の時に結構メディアで取り上げられたので、それなりに有名なのである。


『まあコレは俺の能力ってワケではないんだけど。解除』


 元に戻る。


「変身ジャンルとしては似たようなものか」


 と京介は笑った。


「30分くらい放送時間は違いそうね」


 そこで予鈴がなったので、別れた。

 まほが思った以上に話しやすい相手だったせいか、また立ち入ってしまった感がある。

 京介は苦笑する。




『なるほど、妖精の世界なんてものまで存在するのだな』


 サイコの声が通信機から響いてくる。


「自分って存在は棚に上げて言うけど、世の中は思った以上に不思議に満ち溢れているのだなあ…」


『まったくだ』


 変身ヒーローとスーパーコンピューターはしみじみと言った。  

 

  

   

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