第12話『平和でありますように』
「さて、みんなは助かったけど…次はどうする任意?」
マナがふわりと舞うと京介の横につく。
「このおっさんを元に戻すとかできるか?」
「出来るよ?」
軽く言う。
「そうか、じゃあ……いや、俺をパワーアップしてくれ、こいつと戦えるくらいまで。ちょいと今回暴れ足りない」
「ほい」
マナが軽く杖を振るうと、京介の体を光が包み、ヘルメットが再生した。
そして虹色の光が沸き立つ。虹色インフィニティ。
そこからその虹色の光が収束し、黄金の光が全身を包んだ。
『おお…』
金色インフィニティというところか。
『待たせたな』
目の前で淡々と行われて出来事に路利樹は邪魔に入る事もなく固まっていた。
「…スーパーな感じになったじゃないか」
『おかげさんでね…さて』
金色インフィニティは軽く拳に力を入れると路利樹の腹に打ち込んだ。
ズッ。
たいした抵抗もなくその拳は路利樹の体を貫いていた。
『うえっ!?』
「げっ…!?」
予想外の出来事に双方から間抜けな声が上がり、路利樹は後ろに倒れた。
『…これはちょっと強くしすぎだぜ』
「あれ? ははは…まあいいじゃない、おしまいで」
マナは誤魔化し笑いをすると路利樹の傷を治し、姿を元に戻した。
「…まったく今回は、最後までパワーバランスが釣り合わない戦いだったな」
メットを取りながら京介はつぶやく。
消化不良を残しつつ、倍々ゲームの空しさなどを感じる主人公であった。
崩れた建物を魔法で復元すると、突然マナはまほの姿に戻った。
そして魔法のステッキは音を立てて砕けた。
「壊れちゃった」
「やっぱ無理させたかな」
京介は苦笑する。
「返す直前で壊しちゃうとは…怒られかも」
「一緒に頭下げてやるよ」
妖精も見てみたいし。
そうこうしていると、どこにいたのか吉岡が姿を現した。
「…終わったのかい?」
「ああ、気はすんだか?」
京介はスーツインナーの胸元を直しながら返した。
「…何の事だい?」
「個人的復讐がしたかったんだろ?路利樹に」
京介は吉岡を見ないで言う。
「あおり方の芸がないんだよお前。結果的に革命とやらは防げたからいいけどな」
「なんの根拠があって…」
「お前サイキ達を洗脳してるだろ?」
京介の言葉に吉岡はびくりと反応した。
「元の仲間のあいつらだけじゃなくてコスモや菱田に対しても、洗脳もしくは暗示か?
何回か俺にも試そうとしたろ? 能力でガードしたけど」
「あっ…」
京介の言葉に後ろにいたまほが反応した。
「小手先は気付いてたのか?」
「うん、というか…エスパーに変身してテレパスを理解してからだけど。
変なアクセスが幾度かあって」
視線を吉岡に向ける。
「能力はともかくとして、精神は普通の高校生の菱田達がなんでお前助けるのについてきたのかって、ちょっと疑問だったんだ。
あの場の全員とそんなに深い友情関係を築れるもんなのかなって。
確信したのは路利樹が説明した時だけどな」
「…その通りだ。僕は路利樹の陰謀を知ってこれを潰してやる事が一番の復讐だと思ったのさ」
「恨みってのは…まあ超能力関係の事なんだろうな。聞きたくもないが」
京介は首を数度回すと。ため息を一つつく。
「帰るか」
と吉岡に背を向けて歩き出した。
「待てよ! ボクを馬鹿にして…!」
そう言った吉岡に京介は振り向くと、手の平を向けた。
吉岡の体が捕縛されて空中に持ち上げられる。見えない力で首が締め付けられて声がでない。
「聞きたくもねぇ、つってんだろうがよ」
少し語気を荒めに言い放つ。
「テレキネシス?」
「そうなんだよ。練習したんだけど、披露する機会が今までなくてさ」
と苦笑。
何せ直後にまほが大抵の事は出来る能力を披露したものだから。
「別にお前にどうこうする気はないが、遙とサイキには話しておくからな。何だかんだで戦友だしな」
京介が念を解くと、吉岡は空中から落下して地面に叩きつけられた。
「お前の顔は二度見たくな…無理か。二度と話しかけてくんなよ」
そう言い放って京介は歩き出した。まほもその後に続き、横に並ぶ。
サイキが遙を助けおこしているのが見えた。
「…任意はああ言ったけど、私は吉岡の事嫌いじゃないよ」
「へえ」
興味なさげに返す。
「実は私ヘタレ系男子にキュンキュン来るタイプなのよ」
「…へぇ」
こちらはどう返答していいか困る。
「これからどうするの?」
まともな質問に京介は少し考える。
「路利樹は警察に引き渡す。元々海外逃亡していた身だし、公園の一件ですぐ繋がるだろう。
超能力者たちに関しては…もう懲りたんじゃないかな。
吉岡に対しては任せるわ。とりあえず俺は…」
「俺は?」
「彩子とのデートの事を考える!」
照りつける太陽。耳に心地よい波の音。
そして天舞彩子の水着姿がまぶしい。
そうここは海。
砂浜から波と戯れる美しい夏の妖精がー…
「はー! 泳いだ泳いだ!」
全身に水のしずくをまとった水着姿の円奈瞳が砂浜にひいてあるシートの上に勢いよく座った。
「……」
「クールボックスあけるよー」
と京介の後ろにあったクーラーボックスに手を伸ばす。
「…なーんでお前がいるんだろうなぁ…」
と深くため息をつく。
「いやー私もさすがにここの邪魔はどうかなーって思ったんだけどねー」
とかわいく舌を出す。
「私もまだ、狼と一対一で向き合う覚悟がなくて、ね」
海から上がってきた彩子が言った。
「受験勉強はどうした円奈ぁ!」
「ちゃんとやってますー息抜きですー」
今度は憎たらしい顔で舌を出す。
ゲンナリとした目で逆方向に目をやると、水着の下の三角形が目の前にあった。
「かき氷買ってきっちゃった」
と、京介の横に座る小手先まほ。
さくさくと苺のかき氷にストローを突き刺す。
「お前もね…」
「海の話してたら、遙と行きたいねって事になって」
「どうせならお前のデートの邪魔してやろうって思ったら、必要なかったでやんの」
と、きわどい水着をつけた伊道遙が続けた。こちらはメロンシロップだ。
「なー今度私と二人で来ようぜ? 泊まりでさ」
京介に後ろから抱きつき、胸を押し当てながら遙が言う。
彩子と瞳の目が鋭くなる。
「…やめとく」
死にたくないし。
「えー? すっごいのにぃ」
と舌を小さくレロレロとさせた。
「あっはっは、ハーレムだね任意」
愉快そうにまほが言った。
まあ遙の場合はからかっているだけであるが。
「…本当にハーレムだったらよかったけどな」
あちらから向かってくるサイキとコスモに視線を移しながらため息をついた。
「んだよこの浜、全然ひっかからねぇよ!」
「チキュウノ キュウアイコウイ キョウミブカカッタデス」
二人はナンパに勤しんでいたようだ。
ちなみに菱井は部活の合宿中との事。
3年の最後の試合が秋にあるらしいのだ。
「任意よぉー、後でお前もナンパつきあえや。3人組で来てる女って結構多いんだよな」
「…成功したところで俺にどうしろというのだ」
この女の群れの中で。
「ちぇ、じゃあ吉岡でもつれてくるか、おい遙!」
「もう好きにやってくれ…」
ため息混じりに言い顔を上げると、彩子が笑いながらこちらを見ていた。
太陽光に照らされる天使の微笑み…
「はいはい、その恥ずかしいのやめてね」
「ぎゃっ!?」
まほがかき氷の入ったカップを京介の首元に当てた。
今年はこのまま平和でありますように。
京介は冷えた首元を押さえてそう思った。
おわり。