第10話『突入』
100人近い人間が一斉に尻餅をついてる状態の中心で、京介とハイスピードが二人立っていた。
「なんでロスなんかにいたんです?」
「とあるミュージシャンのお供でね。バックバンドとしてだけど」
「コンビニバイトのロッカーから、かなり出世しましたね」
己のバンドは差し置いて、バックバンドとしては最近は有名どころのミュージシャンに気に入られて忙しい。らしい。
能力が再び戻ってきた時からか、同族のネクスターの存在をお互いに感知できるようになって来ていた。
特に能力を全開でこちらに向かってきているハイスピードを感じるのは容易かった。
『…この一瞬で…何が起こったというのだ!?』
「…俺が思うに。俺たちネクスターの能力が、あんたらのソレより一歩完成した能力なんだろうな」
京介は首をコキコキと鳴らすと前に出る。
「この一件に、どうも緊張感が持てなかったのがわかった気がする」
辺りを見回すと、倒れていた男たちも立ち上がって体勢を立て直していた。
「…インフィニティ!」
ハイスピードのおかげで電波妨害も解消された。
京介の体が強化スーツで覆われる。
『…傲慢な口を利くな』
『違うね、あんたの了見が狭いって言ってるのさ。
あんたが思ってるよりこの世界はとんでもないぞ。
ちょっと超能力が使える程度のやつが新人類なんて言っちゃうのはおこがましい位にな』
インフィニティはスッと構えを取る。
宇宙刑事に改造人間、魔法少女に宇宙人。
そのうち未来人や異世界人とも出会えそうである。
無数のマシンガンの銃口が、インフィニティとハイスピードに向けられた。
『撃ち殺せ!』
路利樹の怒号と共に一斉にトリガーを引かれる。
が、100近くある銃口からは一発も弾が発射されることはなかった。
「残念」
ハイスピードがいつの間にか抜き取ったマガジンを山にして積み上げながら言った。
この数の人間が誰も気がつかない速度である。
『…じゃあ相手になってやるか』
インティニティがそう言うと、武装していた男たちはマガジンの入っていないマシンガンを投げ捨てて一斉に逃げ出した。
ホテルの入り口が詰まるほどに我先へと外に向かい、気がつくとロビーはインフィニティとハイスピードを除いて7人残っていた。
『…残ったのは超能力者かな?』
「しかし超能力者って本当に存在したんだなあ」
ハイスピードがしみじみと言う。
広い括りで言えばハイスピードも超能力者ではあるが、外的要因で超人と化した京介たちとは根本の部分で違う。
「なんていうか…エラいよね」
持ち合わせた才能と努力で凄いことできるんだから。とハイスピードは続ける。
薬で発芽させているパターンもあるから一概には言えないのだが、ハイスピードの認識はそうらしい。
「いやー俺もギターとかやってっから、鍛えた才能とかって話には割りと敏感なわけよ」
と相手にも聞こえるように声のトーンを上げる。
「そんなヤツらを…なんとなく手にしちゃった力で瞬殺しちゃうっても気が引けるんだよなあ」
はははと笑った。
次の瞬間7人超能力者たちは一瞬にして同時に弾き飛ばされた。
「…俺、変身した意味なかったなあ」
京介はメットを脱ぐとため息をついた。
「俺の方があんま時間なかったんでよ。おっと休憩時間終わっちまう またなインフィニティ」
ハイスピードは指でVサインを作ってニッと笑うと。
砂煙を上げて行ってしまった。数十秒後にはロサンゼルスであろう。
「…今度お礼するんでー、って聞こえてないか」
京介は路利樹の映っていたモニターに視線を映すと、そこにはすでに姿はなかった。
映像が消えていないという事はこちらの装置を消さないと切れない仕組みらしい。または動転して忘れているか。
(この抜けっぷりが過去の失敗の原因と見たね)
そうこうしているとバイクに乗った遥とマナが戻ってきた。
まほではバイクの運転が出来ないのでマナのままである。
「…うわっ、本当に終わってる」
遥がボロボロになっているホテルのロビーを見回して言う。
「助っ人がかるーく撫でてってくれてな」
この主人公、ここでの戦いほとんど何もしていない。
『相手の位置は割り出せだが、どうする?』
ブレインの声が響く。
「相手の底は見えた。このまま一気にカタをつける」
「ちょっと待って?今から攻め込むって事? 無茶じゃない?」
「吉岡が捕まってるみたいだからさ。親玉ツブすのはともかくとして、救出は必要かなって」
京介は肩をすくめる。
「相手の体勢もガタガタだろうしな。俺は賛成だ」
いつの間にかサイキが来ていた。
遥がテレポートで連れてきたのだろう。
「…まあ吉岡は心配か」
マナも同意する。
「じゃあこの4人で」
「コスモたちは?」
「あいつらは完全に巻き込まれた形だし、それなりに因縁のある俺らで決着つけようぜ」
京介もまた妙な因縁が出来てしまった以上は叩き潰す義務があると感じていた。
バイクのモニターに座標が表示された。
京介はそれを記憶して遥の頭の中にテレパシーで送る。
「わっと…ちょっと一言断ってからにしろよな!」
急に頭に映像を送られた来た遥はこめかみを押さえて渋い顔をした。
「俺の見た漫画の超能力ものはこうやってたんだけどな」
「私は特別テレパシー嫌いなんだよ! 漫画と一緒にすんなバカ!」
「そりゃ悪かった。座標はわかったろ?」
「ああ、つかまんな」
その場の全員が遥に触れると遥は飛んだ。
路利樹は焦っていた。
戦力の半分を投入したインフィニティ抹殺作戦は失敗に終わった。
佐羽鬼統治の選んだネクスターの力がここまでのものとは思わなかった。
あの武装した人間たちは、同志である。
新しい未来。優れた人種に支配される事を望んだ人間たち。
300いたその数も、全て逃げていってしまった。
無理もない。より強い力を持つ者が現れたのだから。
(全ての戦力を投入すべきだった…!)
そんな問題でもない事は路利樹も頭の中ではわかっている。
だが認めたくないのだ。
そして取り乱したあまりにモニターを消し忘れていた事を思い出す。
(…奴らがここに乗り込んでくる!?)
「もうあなたも終わりだね」
床に転がされていた吉岡が痛みをこらえたまま口を開いた。
路利樹はくっと唸り、そのわき腹にケリを入れると、部屋を後にして超能力者たちに招集をかけた。
テレポートを終えると、何かの訓練施設のような場所についた。
「オイ、ここって…」
「そうだよ、スクール」
サイキの言わんとした事に遥が答える。
「お前たちが英才教育受けたって場所か…警察の手が入って閉鎖されたって聞いたが」
京介は辺りを見回す。
かなり前に閉鎖されたが、施設の中の機具らしきものはそのまま放置されていたようである。
「革命成功の暁にはこの施設でまた育成を…とかって考えてたんじゃないのかな」
京介は特に興味がなさそうに言うと、天井を見渡す。
「…地下かな?」
「そう、訓練施設は地下に広がってて、5階のあるうちのここは3階」
「路利樹は上か下か…」
「下だな」
サイキが答える。
「そのこころは?」
「下ほど重要機関になってんだ」
「ここから下はアンチ防壁でテレポートもテレパシーも通らない。実践場所だったからね」
未熟な超能力によって過度な被害を出さないための処置か。
話によるとテレポートで入る事は出来ないし出る事も出来ない。
テレパシーもまたそうであり、念動力でもその壁は破壊できない。
「次の階で待ち伏せされている確率が高いな」
京介はこれが有利になると踏んだ。
案の定、人の気配が多く感じ取れた。
数は17。おそらくここに残った超能力者全てだろう。
(テレパシストは3人か)
京介はヘルメットかぶって飛び出すと、スピードをあげて超能力者の群れに突っ込んでいく。
スーツを身につけたインフィニティの速度には普通の人間では反応が追いつけない。
それでも1人の念動力の重圧がかけられだが、そのまま力技で引き剥がす。
マナが感知したテレパシスト3人を瞬時に意識を奪うと、跳躍して襲ってきたテレポーターの一人を振りむき様に叩き伏せた。
マナがテレポートの『道』を割り出し、テレパシーで京介に出現場所を教える。
これを行うためのテレパシストの排除であった。
幾多の超能力を扱えるマナがいてこその戦法だ。遥でも『道』は読めるが、口伝では対応が遅れる。
あえなく5人のテレポーターが沈黙した。
(こう言っちゃアレだけど)
念動力者二人の念が絡むが、力で振り払う。
(スーツつけると途端に相手じゃなくなるな)
肉体強化系が多かった今まで違い、今回は一芸が破れれば手加減して殴って一撃でダウンする程度の敵なのである。
精神感応はヘルメットで防げるし念動力もスーツの力で振り払える。テレポートは厄介だが攻撃自体がスーツを越えてダメージを与えられることはほぼない。
あえなく超能力者たちは全滅した。