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無限英雄3  作者: okami
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第1話『別アプローチの能力者』

 アークスとの戦いから数ヶ月が経ち、3年になった京介たちは期末テストの最中である。

 3年のこの時期というだけあって、テストに向かう生徒たちには妙な気迫が漂っている。

 そんな中で涼しい顔で問題を解く二人。

 任意京介と天舞彩子である。

 すべてのマスを埋め切ると、京介はふっと息を吐いた。

 解答欄はすべて埋めた。まず90点台は確実だろうと思える。

 時計を見るとまだ少し時間があった。

 京介は昨日の事を思い出す。




「だから、何ていうかこう…記憶の間口を広げてあげればいいの」


 期末試験の為に彩子に泣き付いて家まで来た京介に、彩子が言った。

 部屋に通してもらい、テーブルを囲んでいる。

 この一年でそれくらいの距離は縮まったが、お目付け役がいる為に仲はそれ以上発展しない。


『彩子の場合、私が記憶情報を整理して引き出してやっている』


 彩子の溢れ出る、いや溢れ出た才能を移したスーパーコンピューターの擬似人格サイコ・ブレインが続けた。

 こいつがいるせいで二人きりという感じがしない。

 ブレイン自身は彩子の分身なので同一人物といってしまえばそうなのだが。


「でもなあ…テストに特殊能力使うって言うのも」


 彩子が提案したのは、京介の持つ特殊な能力を使ってテストに挑むという事である。

 なんとなくズルをしてる感が京介には感じられる。


「何言ってる京介くん、自分の能力を使って挑むのがテストなのだから。何も責められる事はないわ」


 天舞彩子はメガネをくいっと上げた。

 ロングの黒い髪が揺れるとシャンプーのいい匂いがした。

 彩子に気がある京介は少しくらっと来てしまう。


「それに私が言っている方法は別にカンニングとかではないのよ? 記憶をうまく取り出す方法なのだから」


「でも俺とお前の能力は全然違うだろう?」


 彩子の持つ能力は超頭脳。京介は増幅能力者である。

 その力を使って幾度が俗に言うヒーローのような事をやっていた。


「例えばね」


 彩子はノートにペンを走らせて図を描いた。


「私の場合は、私の脳に取り込んだ情報をブレインが整理して、必要な時に出してくれる訳なの。

 人間の脳は一度記憶した事はなくならないの。整理されなくて取り出せなくなってしまう事はあっても、消えはしないの」


 さらさらと簡単に人の頭を描いて、脳と漢字を頭の中に書き込む。


「任意くんは増幅能力で処理能力か、記憶を取り出す為の出口を広げてあげればいいのよ」


「…やっぱズルじゃね?」


『いいや。何故ならこの方法を行うには、事前に勉強は必須だからな』


「取り込んでない情報は引き出しようがないからね」


 サイコと彩子が畳み掛けてくる。

 そこからの一夜漬けである。




 テストの終わりを告げるチャイムがなった。

 一気に静寂が安堵と無念のざわめきに溢れかえる。

 彩子の提案した能力の使い方は成功した。

 ちょっと成功しすぎて一夜漬けの必要なんてなかったくらいだ。

 平均40点台程度だったところが跳ね上がってカンニング疑惑などを向けられたりしないか心配ではあったが。

 テストはすべて終わり。あとは夏休みを待つまでだ。

 高校3年の夏休みは遊ぶ時間なんてほぼないのだろうが。

 京介は伸びをする。


「任意京介君」


 そこに声をかけられる。


「3組の吉岡だけど、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」


 見慣れない男。同級生とはいえ他のクラスとなると顔に覚えのない人間も多々いる。

 サボりがちな京介なら尚更だ。

 見ると顔に特徴もない。背は少し高めか。


「…何?」


「ここではちょっと話し難い事なんだ…屋上まで同行してもらってもいいかな?」


 うーんと彩子を見ると、クラスの女子と話をしている。


(掃除当番って言ってたな…)


 一緒に帰る算段を頭でしつつ、少しくらいなら付き合ってもいいと思い、席を立った。





 屋上へのドアを開けると、3人ほど生徒がいた。

 一対一での話し合いだと思っていた京介は、少し身構える。


「大丈夫、彼らは仲間だ」


 躊躇したが、吉岡が促したので、京介は屋上へと出る。


「で?」


 吉岡とその仲間らしい4人を前にする形になる。


「任意君、君は不思議な能力を持っているね?」


 吉岡の言葉に一瞬、京介は身を強張らせる。


「…何言ってんだ?」


「コレ、君だろう?」


 とインフィニティが写った写真を見せた。

 数枚ある。

 背景から屯公園の時の写真である事が読み取れた。


「…まさかだろ?」


「安心してくれ。ボク達は別にその事を世間に公表しようとかじゃないんだ。ただ君はボク達の仲間なんじゃないかってね」


 吉岡は仲間を見渡す。


「…どういう事だ? お前らもコスプレ・ヒーローごっこでもやってるのか?」


 京介はわざと馬鹿にしたように、鼻で笑ってみせた。


「いいや。他人とは違う特殊能力者…君、いやインフィニティはそうなんじゃないかと思ってね」


 特殊能力者。京介はそういう人種を大勢知っている。


(補足し切れなかった蒼い雪の能力者がまだ…?)


 しかし何か違う。

 うまく言えないが、蒼い雪の能力者特有の何かが目の前に生徒達からは感じ取れない。


「オカルト系か? 勘弁してくれよ。

 お前らだってこれから大事な時期なんだから、こんな事にかまけてていいのかよ?」


「やはり、見せない事には話が進まないか…菱田君」


 吉岡が名指しにすると、背は低いがガッシリとした体系の生徒が前に出てきた。

 そして京介に手を差し出す。


「…握手?」


「握ってくれ」


 京介は言われて菱田の手を握った。

 手の平の皮がごつごつとしていて硬い。

 体型から見て何か運動系の部活に勤しんでいる感じか。   


「硬くなるよ」


 菱田がそう言うと、握った手が段々と変色して硬くなっていく。


「うわ、な、何だ…!?」


 黒く変色した手は金属的な硬さだ。手からひんやりとした感触が伝わる。


「これは…鉄か」


 京介は空いている方の手で肘の辺りから手の平にかけて鉄化している菱田の腕を指で軽くつついた。

 コンコンと硬い音がする。


「そう、俺の能力は鋼鉄化。体を段階的に硬質化できる…」


「へえ…」


「やはり、あまり驚かないんだね」


「まあ…体変化形はいっぱい見てきたしな」


 吉岡の言葉に京介は答える。


「任意くん、やはり君は?」


「はあ…そうだな。俺も能力者だ」


 硬質化を解いた菱田の手を離す。

 あちらから正体を明かし、敵意はないように思えたからだ。


「任意君、君の能力は?」


「うーんまあ何と言うか…肉体強化系だと思ってもらえればいいかな」


 正しくは違うのだが、話が早いのでこういう言い方になった。


「なるほど、ヒーローをやるには向いてる感じだ」


 とりあえず納得はしてもらえたようだ。


「ワタシは天空(てんから)コスモ、宇宙人デス」


 痩せ型の色白で黒目の大きい男子が自己紹介した。

 説明されなくても、なんか『ぽい』外見ではある。


「私は知ってるよね?」


 紅一点か、ショートヘアの女の子が言った。

 スレンダーでなかなか整った顔立ちだ。


「…んー?」


「小手先まほ!小学校から一緒だったよ!?」


「あー、ああ」


「うわ、曖昧な反応」


 京介は記憶を検索すると、まほの情報を引き出した。

 確かに小、中、高校と同じで、同じクラスになった事も数度ある。

 かしあまり関わりがなかった上に、この時期の女性は変化が激しい。

 しかし記憶の引き出しの映像の彼女と一致する。


「こてっちゃんか」


「やめてよ小学生の時のあだ名…それに任意君そんな呼び方してなかったくせに」  


 記憶の中の当時のまほの女子仲間が呼んでいるのを再生したからだ。

 記憶としてあっても、どうも実感がない。


「で、小手先はどんな能力持ってるんだ?」


「私は…私はその…魔法、使い…かな?」


 歯切れの悪い言葉に周りの三人が苦笑を浮かべる。

 何か含みがあるようだが。


「宇宙人に魔法使い…?」


 菱田はいいとして他の二人のはどうも種類が違う。


「まあいいや。で、能力者集めてどうしようっていうんだ?」


「別に」


「別にってお前な」


「能力者探しが面白いってだけだから。今は」


 今は。という言い方が気になったが、それ以上の追求は止めておく事にした。

 何というか能力者に関わると、またろくでもない事に巻き込まれる予感があるからだ。


「そうかい、まあ中には正体知られたくないヤツもいるから、気をつけた方がいいぞ」


「やっぱり、まだ特殊能力者はいっぱいいるんだね?」


 目が嬉しそうな吉岡。


「ああ10人くらいは知ってる」


「ははっ!」


 吉岡は歓喜の声をあげた。


「すばらしいよね! この学校だけですでにこれだけの特殊能力者がいるんだよ!おそらくまだいるんだろうね」


 京介は少なくともあと二人はね。と心の中でつぶやく。彩子と瞳の事であるが。


「他の能力者の事については教えられないからな」


 とりあえず釘は刺しておいた。




 教室に戻ると、彩子の姿はすでになかった。

 まあ約束をしていた訳ではないが、なかなかに切ない。


「任意くん、テストどうだった?」


 いつの間にいたのか、円奈瞳(つぶらな ひとみ)が後ろに立っていた。


「ああまあ、わりと…って何でうちのクラスにいるんだよ?」


「テスト終わったし途中まで一緒に帰ろうと思って」


 瞳はにっと笑った。

 そういえばテスト期間中はあまり絡んでこなかった。

 それなりに真剣に勉学には勤しんでいるようである。


「…まあ彩子には帰られちまったからなあ」


「天舞さんがなんだって?」


「…いんや。帰ろうぜ、ちょっと話もあるしな」


 京介は鞄を取った。




 道中、先ほどの吉岡との話を瞳に話す。


「えー、吉岡君が?」


「知ってるのか?」


「中学同じだったし」


 わりと話す事もあったらしい。

 超常現象同好会なんてものも作って部長をやってたりもしたそうだが、彼の代で終わりそうだ、なんて話も出てきた。


(本気でただのオカルト好きか?)


 その一念で本物の超能力者を見つけるのだから、たいしたものというべきか。


「悪い子じゃないよ。悪気もないんだと思う」


 能力者が連続で見つかってテンションが上がって楽しくてしょうがない状態じゃないかと瞳は続けた。


「…たまったもんじゃないけどな。彩子にも一応知らせておくか」


 ブレインに報告しておく必要はあるだろう。


「秘密基地行くの? 私も付いてく!」



 

 毎度おなじみ天舞家の地下にある秘密基地。


『別アプローチからの能力者か』


「考えてみれば…奈月さんが宇宙刑事なんだから、当然宇宙人は存在するんだよなあ」


 天空コスモが本当に宇宙人かどうか確かめてはいないが。


『しかし、能力者が別にもいるとなると、蒼い雪の能力者はそれこそネクスターという呼称が相応しくなるな』


 ネクスターとは前に倒した組織が能力者に使っていた呼称である。


『面白いじゃないか、宇宙人に鉄人に魔法使い、もう少し情報が欲しいな』


「俺は関わり合いになりたくないぜ」


「そう言えばさー」


 不意に瞳が言葉を挟む。


「吉岡君は能力者じゃないのかな?」


「…『ボク達の仲間』って言い方をしていたから、何かしら能力があるんじゃないかな」


 そういわれてみれば吉岡の能力だけ明かされていない。


「案外、能力者を見つけるって能力だったりしてね」


 彩子が特に興味がなさそうに言った。

 能力者でありながら事件に関わったことがない彩子にはピンと来ない話のようだ。


「ま、何でもいいや。関わるつもりはないからよ」


 京介はそういってソファに座り込んだ。




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