【第四章】 休息
日が沈んだ頃、アルマは少女を連れて新しいホテルにチェックインした。
少女は疲労困憊といった様子で、ソファに座るアルマに寄りかかっている。
戦闘では、かなり無理をしたのであろう。
眠たそうな瞳をして、アルマを見ずに話しかける。
「天使ってね、新しい兵器のことなの。だから私も兵器なの……」
アルマは答えずに少女の髪を撫で付けた。
艶やかな髪がいとおしい。
こんなに幼い少女が将来兵器として活用される使命にあるとは……本当に気の毒でならなかった。
「さっきの人達、みーんな本当のお兄さんとお姉さんなんだよ。私は六人兄弟の末っ子なの。
名前呼ばれてたけど、実験用の名前なんだよ、あれ……」
自分の髪を撫で付ける腕に擦り寄って、少女はうとうととした。
それから、甘えるようにアルマを見つめる。
「名前……考えてくれた?」
「……」
「私、普通に人間らしい名前がほしいの」
少女は眠たそうに、目の端をこすった。
「名前……何でも良いのか?」
「うん。数字じゃなかったら、何でも良い」
(数字……実験用の名前は数字と同じ意味だったのか)
少し哀しくなったが、それを紛らわせてアルマ微笑って言った。
「リーリア……」
「リーリア?」
「そう、リーリア……俺の大切な人の名前と一緒だ。あまり名前を付けるのは上手くないんだ。
……それで良いか?」
(人の名前と同じだなんて、少し失礼だったかな?)
「イヤだったら、また別のを考えるが……」
「ううん。良い」
少女は、にっこり笑った。
満足そうな笑顔で、アルマにもたれかかる。
「リーリアで良い。リーリアが良い……ありがとう、アルマ」
あまりにもあっさり、受け入れられてしまった。
「どういたしまして……リーリア」
その言葉に、またリーリアはにっこり笑った。
そして、再び眠たそうな表情になる。
「アルマ……優しい人。アルマ、大好き」
「え?」
突然の言葉に、アルマは驚いた。
恋の告白にしてはあまりにも、緊張感がない。
(人間として……って入れろよ。びっくりするなぁ。でも、まぁ仕方がないんだろうけど)
「大げさだぞ、名前くらいで」
「ううん。アルマは良い人。だから、好き」
つたない言葉使いが、いっそうリーリアの幼さを引き立てた。
それが可愛らしくて、変に息が詰まりそうになる。
アルマはリーリアの髪をまた撫で付けた。
「ありがとう、な?」
「アルマになら、全部あげられるのに……」
「え?」
「私の力も……私自身も何もかもあげて良いのに」
実に眠たそうな声音だったが、アルマの脳に鋭く響き渡った。
おそらく彼女は兵器、つまり今まで物として扱われてきたのであろう。
だから、きっとこんな言い方しかできないのだ。
(哀しい……やつ)
「子供が……ませたことを言うもんじゃない」
半分泣きそうな声でアルマは呟き、リーリアの頬をつねった。
本当はもっと優しく触れて、抱きしめてやりたかったが、理性が彼を押し留めた。
「だって、わかんないんだもん……いっぱい好きな感じってどんな言葉を使えば良いのか……」
それから暫く沈黙した後、リーリアは思いついたように言った。
「アルマは私が守る……!」
逆だろう、とアルマが指摘しようとした時、彼女は既に夢へと誘われていた。
長いまつげで影ができた頬が愛らしかった。
「一緒に、逃げような……」
ソファからリーリアを抱きかかえてベッドに移すと独り言のように呟いた。