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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
アイ・アム・クリステル
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大人って何なの?

 ――古道具屋の名前はコンドウ、コンドウ。近いの「近」に任天堂の「堂」で近堂……。

 滝川は頭の中でそんなふうに暗証しながら、紀伊介に教えてもらった古道具屋に向かうべく、海沿いを延々と走る国道の歩道を歩いている。赤い彗星号に乗らないのはダイエットのため、というのはここだけの秘密だ。だが早くも疲れ始め自転車を使用しなかったことを後悔する。

 腕時計をちらりと見やる。時間を見たんじゃなくて、腕時計そのものを睨んだ。――もういらない、こんなもん。

 天気は快晴、けれどとにかく蒸し暑い。歩き始めてまだ十分ぐらいしか経っていないのに、早くもTシャツが汗で肌に張り付いている。――いやーん透けてブラが見えちゃうわー。

 誰も見ていなかった。

 ほろ苦い寂しさを感じつつ歩みを進めていると、前方二十五メートルほど先に三人の少年少女たちの姿を視認。少女は二人でどちらも中学生ぐらい。私服なのは、今日が土曜日で休みだからなのだろう。

 もう一人は、今や滝川にとって親友にして相棒にして弟分になりつつある久野一太ことクノイチだった。

「ヘイヘイ、オネーチャンたち、おれが泊まってるホテルに遊びに来ないかい? ゴージャスで有名人御用達、キングサイズのベッドもあるぜい」

 ――嘘八百じゃねーか。そもそもホテルじゃなくて民宿だし。

 クノイチの果敢で嘘まみれのナンパは大方の予想を裏切ることなく失敗、女子中学生二人に「阿呆」とバカにされ笑われてしまった。女子二人は何事も無かったかのように楽しそうにおしゃべりをしながら去っていく。

 ――ったくクノイチは。どうしてあんな阿呆なナンパしかできないかなぁ。

 滝川は溜息をつき、肩を落としているクノイチに近づき、声をかけた。

「おはー、クノイチ」

「おははははは……」

 クノイチは壊れかけだった。心神喪失中らしい。

「どうしたんクノイチ、ナンパしくったぐらいで気落とすなって。何度もナンパしていくうちにきっと成功するよ」

 滝川はクノイチの頭をぽんぽんしながら言った。

「うん……そうだな。うん、そうだそうだ」

「そうだそうだそうなのだ」

 便乗する滝川。恐ろしく適当なテンションである。

「うん、俺もよくわかんないけどそう思うのだ」

 とりあえずクノイチは元気を出してくれたようだ。「けどさー、大人はスゲーよなー。ナンパなんか簡単に成功させちゃうんだもん」

「んー、それは違うぞクノイチ。大人だからってナンパが上手いとは限らないよ」

「えっ――」

「大人の中にだってナンパの上手いヤツもいれば下手なヤツだっているよ。ナンパすらしたこともないヤツだっているよん」

「……じゃあ、大人って何?」

「クノイチ?」

 クノイチの様子がおかしいことに、滝川は気付いた。クノイチは拳を握り締め、肩を小さく震わせている。泣きそうなのか、悔しいからなのか、それとも両方なのか。判然としない。

「大人って何なの? ねえクリスタル姉、教えてよっ!」

 いつもなら「クリステルだ」と訂正を入れるところだけど、滝川はクノイチの剣幕に二の句がつげない。まるで食い殺す勢いで、滝川に迫っているからだ。

 滝川は頭をフル回転させて必死に考える。

 大人大人大人……これまで関わったたくさんの大人の顔が思い浮かぶ。でも、答えは一向に出てこない。自分のことを考えてみる。余計わからなくなった。

 ――大人って……何だろ。あたしが訊きたいよ。福岡あたりにさ。

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