アフロ兄弟と爆弾
*
アフロ兄弟の兄、鉄平は、シャベルを担いで作戦を遂行すべく暗躍をしている、つもりだった。だが暗躍するには爆発しているアフロ頭が目立ちすぎていることに、本人はまだ気付いていない。
後ろからやはりアフロ頭のアフロ兄弟の弟こと銅平が、兄と同じようにシャベルを担いで「ぎひひひ」とニヤついている。
「やっぱスコップじゃなくてシャベルを持ってくればよかったなー」
「なー」
「でもあの落とし穴を完成させれば、絶対にクノイチのヤツ引っかかるぜ。この前の仕返しだっ。あんときはあのクリスチャンだかって変な姉ちゃんが加勢したせいで負けちまったけど、今度はそうはいかないぜ!」
「ぜ! あ、でもさー兄ちゃん、どうやってクノイチを誘い込むんだ?」
「あー……っと」
穴を掘る以外何も考えていなかったらしい。鉄平はぽりぽりと側頭部をかく。
「あー、あれだぜ銅平」
「どれだい兄ちゃん」
「クノイチはナンパに失敗しまくってるからな。『ナンパ必勝法を教えてやる』とか言って誘い込めばいいんだよ。俺たちは穴の外側で待つ。クノイチは何も知らずに階段をとことこ降りてくる。そんでもってえぇぇぇ……どっぼーんっ! だぜい!」
「どっぼーんっ!」
どっぼーんっどっぼーんと連呼しながら、二人は砂浜に掘った穴に着いた。
「よーし掘るぞー。深さ百メートルが目標だぜ」
「待って兄ちゃん、なんかさっきより穴が浅くなってないかな……」
「おお? んー、そう言われるとそんな気がしないでもするようなしないようなしちゃうぞ」
否定と肯定を繰り返しすぎてわからなくなった鉄平は、とにかく穴に入って掘ることにする。弟もそれに続く。
穴を掘り始めてすぐに、銅平がシャベルの先から伝わる感触に土以外の何かを感じ取る。
「ありゃりゃ、なんだろ……おお? 兄ちゃん、なんか変な箱みっけたよ」
「あん? なんだそりゃ」
箱はどこにもふたがなく、開けようがない。銅平はシェイカーのように振り回してみるが、箱は箱のままだった。
「ちょっと貸してみろ」
今度は鉄平が箱を調べ始める。匂いをかいでみる。うっすらと煙草のにおいがする。「なんかジジイ臭い気もするぞ」
続いて耳をつけて中に生き物が閉じ込められていないかどうか調べてみる。「なんだこれ、チクタクいってるぞ」
「チクタク? 時計かなぁ?」
「わかんね。よーし」
無理やり箱を開けようとしてみるが、爪を引っ掛ける場所すらない。「うんむむむっ」
鉄平は落とし穴のことも忘れて、箱の分解法を模索する。中に何が入っているのか、気になって仕方がない。
「あ、家帰ってノコギリで切って開けちまおうぜ」
えらく短絡的な結論に至った。
「ちまおうぜ」
二人は穴から這い出て階段を上がり、国道沿いの歩道へ出る。わくわくしながら家に向かって歩いていると、この前のお巡りさんが前方からやって来た。先に気付いたのはお巡りさんのほうだった。
「あ! お前達! 捜してたんだぞ! この前のお姉さんは痴女でも何でもなかったじゃないか! ただおっぱいが大きなお姉さんていうだけだったじゃないか! 大きなおっぱいだったぞ!」
力説するお巡りさん。よほど良い思いをしたようだ。その証拠に、怒鳴っているのに顔はニヤけている。
「うわっ、マジかよ!」
「かよ!」
アフロ兄弟は百八十度ターンして駆け出す。
「……えへへへ、あっ、こら逃げるな!」
お巡りさんは田中のおっぱいのことを思い出してかスタートが若干遅れてしまった。その隙にアフロ兄弟はお巡りさんとの距離を取ることに成功する。だが現役小学生より現職警察官のほうが足は速かった。当たり前だ。アフロ兄弟はみるみるその差を縮められていく。
「ど、どうしよ兄ちゃんっ!」
「うんむむむむ……お、そうだっ。俺たちはそっくりな双子なんだ! そこを利用しない手はないぜ!」
「どういうことだい兄ちゃん?」
「名付けて! 分身の術もどき作戦だ!」
「おお」
しかし兄鉄平はすぐに気付く。分身も何も最初から二人に分かれているじゃねーか、と。
「…………」
「兄ちゃん! どんな作戦なの!? 早くしないと追いつかれちゃうよ」
「…………作戦変更! 総員退避! 繰り返す! 総員退避!」
既に作戦が破綻していた。
それでもどうにか、アフロ兄弟は県営駐車場に逃げ込む。それから唯一停まっているスポーツカーの陰に隠れた。だが隠れる直前、鉄平が石につまづき転んでしまう。その拍子に持っていた箱が手を離れ、スポーツカーの屋根の上に乗っかる。その衝撃なのか、箱から『ピッ』とスイッチが入ったような音が鳴ったが、鉄平の声にかき消されてしまう。
「あっ! 俺の箱があああ!」
「兄ちゃんしゃがんでよ! 見つかっちゃうよ! それと地味に所有権を主張しないでよっ!」
「むぅ!」
銅平に頭を押さえつけられるようにして、鉄平はしゃがんだ。だが……。
「そんなところに隠れても無駄だぞー!」
あっさりと見つかる。
アフロ頭がはみ出ていた上に、停まっている車が一台しかないのだ。隠れる場所もおのずと決まってしまう。しかもそのスポーツカーにはアニメ絵の女の子がべたべたと貼り付けられて、嫌でも視線がそっちに行ってしまう。
「うひゃあ」
「ひゃあ」
そこからさらに逃げるアフロ兄弟。
それを追うおっぱい好きなお巡りさん。
そしてそれから十分後。
爆弾は爆発し、スポーツカーは鉄くずと化してしまった。