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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
恋のぼり
65/69

彗星に乗った高校生、町の中心で叫ぶ

 ――ぐにゅにゅにゅにゅにゅ!

 一方リヤウイングにつかまる新は気が気じゃなかった。凄まじいスピードだ。当たり前だが顔に当たる風圧が自転車の比じゃない。頬肉が千切れちゃいそうである。

 運転席のほうからはなぜか『うわあああぁぁぁん!』と運転手らしき男の泣き声が聞こえてくる。何があったかは知らないが、このまま曲がらずに駅まで行ってくれと願う新である。――ただし安全運転で!

 痛車は新の願いを聞き入れたのか、脇道に曲がることなく駅の方角へ一直線に進んでいる。『ただし安全運転で!』という願いは無視されているが。無理な追い越し当たり前、黄色信号から赤信号(切り替わって五秒後)までは青信号と見なし、減速することなくアニメ絵の女の子と共に駆け抜ける。

 ――ふぬぬぬぬぬぬぬぬーっ! で、でもこれなら追いつけるっ。今日子の家から駅まではこのまま一本道だし。このスピードならバスなんて目じゃない。上手くいけば今日子の姿が見えて……見えたーっ!

 白いワンピースに麦藁帽子、帽子からはみ出ている長い黒髪は背中まで届いている。間違いない、今日子だ。今日子はちょうど駅のロータリーに着いたところらしく、旅行鞄を持って、駅の切符売り場に向かおうとしているようだ。

「今日子ー!」

 新は声の限りに叫ぶ。

 足を止める今日子。きょろきょろと周囲を窺っている。首をかしげている。新に気付いていない。

「今日子ー! こっちこっちっ!」

 危険だが片腕を離してぶんぶん振ってみる。――どぅわおっ!

 バランスが物凄く崩れてしまった。一瞬、アスファルトにかつお節みたいに削られていく自分が脳裏をよぎる。――違う違ーう! 僕はかつおじゃなーい!

 かなり混乱しているらしい。

 それでも新はとにかく声を今日子に向かってぶつける。「今日子おおぉぉぉっ! 僕だ僕っ! こっちだってばーっ! 僕のことは新と呼びな――――――――!」

 新の滝川の口癖まじりの叫びは、ようやく今日子の背中を捕らえた。今日子が声の方角を認識、振り向き、そして、ぎょっとした顔になった。「な、何やってんのよっ!」

「僕も東京行くよ!」

「わかったから! わかったから!」

「だから! 僕も東京行くってば!」

「だから! わかったから! 一緒に東京行こう! うん! それはもういいの! わかったから! それよりも新――」

 今日子はそこですうぅぅぅぅっと息をチャージし、続く大出力の絶叫に供える。

 以下、その絶叫です。

「それー! どうやって降りるのよ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」

「あ」

 と思ったときには遅かった。そんなこと、新は考えてもいなかったのだ。

 しかしそのとき、赤い彗星号がその場の空気を読んだのか、まず後ろのタイヤをパージ、次いでハンドルをパージ、さらにチェーンをパージした。がっこんがっこんと続けざまに各部位がすっ飛んでいく。

 つまり、スポーツカーの速度に耐え切れず、ぶっ壊れた。

 自転車のフレーム部分がアスファルトに直接接触し、火花を撒き散らし始める。フレームとアスファルトの接触部分が星のような輝きを見せ、それはまるで宇宙を流れる彗星のようである。

 新は虚空に浮かぶハンドルを握ったまま、叫ぶ。奇しくもそこは、町の中心だった。

「間に合ったああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁー!」


 翌日の新聞の地方欄にこんな記事が載ったという。

『彗星に乗った高校生、町の中心で叫ぶ』

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