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成川はうおうおんと声を上げて泣き散らす
ぐんぐんスピードを上げる痛車。運転する滝川の元彼、成川は『もうこんな町出てやるぅ!』と半べそでハンドルを握っている。もうこのサーキットみたいな形をした国道を何周したかもわからない。疲れたら県営駐車場で一休みし、また体力が戻ると悲しくなって走り出す、なんて不毛な行為を延々リピート中である。
そして悔しさがいよいよ臨界点を突破して理性がゴマ粒程度しか残っていない。ついさっきも、間違えて国道を逸れて住宅街に突入してしまった。
――ううぅぅ!
頬にはまだ滝川から殴られた痛みがじんじんと熱を持ってその存在と出来事を示している。
――ちくしょうっ、俺が何しったってんだよっ。あのチビが赤い彗星号を盗んだに決まってんじゃんかよーっ!
成川はうおうおんと声を上げて泣き散らす。夜鳴きの赤ん坊にも引けを取らないそのやかましい泣き声は、外にまで筒抜けだった。
成川は窓を開け放している。