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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
アイ・アム・クリステル
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なんかねえ、記憶喪失らしいよ

 滝川が『民宿熊島』に泊まり始めて二週間ほど経ったころ、一人の女の客がやってきた。

 滝川は自分の部屋の窓から、その女が民宿に入ってくるところを見ていた。凛としたキャリアウーマン風の感じだったが、実際に話してみるとスローで上品なマダムといった佇まいだった。

 とてもきれいな女で「妖艶」という単語を当てはめたくなるような雰囲気をかもし出していた。見たところ三十過ぎぐらいか。なんだか滝川クリステルと似たようなオーラを感じないでもない。

 上品、気品、品格。

 それら上等な質感めいたものを体の表面にぺたぺた貼り付けて歩いているように見える。

 あーそうそう。コレも忘れちゃいけない。

 巨乳。

 胸元が目立たない服装で誤魔化しているようだけど、誤魔化しきれていない。まごうことなき巨乳ちゃんである。鷲掴みにしようにも手からこぼれるに違いない。

 彼女は滝川の部屋の隣の隣、203号室に泊まり、三日経っても四日経っても泊まり続けている。

 ――いったいいつまで泊まるつもりなんだ? いい大人が平日なのに休んで民宿に泊まるなんて何かワケありかも。警察から逃げてるとか?

 自分のことは棚にあげて好き勝手考える滝川だった。

 そして彼女は五月の末日の夜、クノイチを偵察にやった。クノイチは十分ほどで戻ってきた。

「どうだった?」

「スゲーおっぱいだった」

「んなこと訊いてないよ」

「クリスタル姉ちゃんよりずっとおっきいおっぱいだった」

 ぶっ叩いたのは言うまでもない。

「あだだだ……なんかねえ、記憶喪失らしいよ」

「あ?」

「だからね、記憶喪失。自分の名前以外はぜーんぶ覚えてないんだって」

 うそ臭いことこの上ないが、どうも本当らしい。名前だけは覚えていて春日井弥生かすがいやよいという。

 ――ま、いいや。韓流ドラマじゃよくあるみたいだしな。うん。

 滝川はすぐに春日井のことなどどうでもよくなった。とりあえず無害みたいだし、自分の休みを邪魔するふうでもない。春日井は一日のほとんどを民宿一階のリビングにあるソファに座って、お上品に読書をしているだけなのだ。

 そう、春日井のことなんて気にするときではないのだ。

 目下のところ『この休みがいつまで続くのか、いつまで続けるのか』というのが問題なのだった。滝川はその問題を先送りし続け、本日六月二十五日、土曜日の朝を迎えたのだった。

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