それが、天羽今日子との出会いだった
四月末になると大きなこいのぼりを飾るのが『民宿熊島』の恒例行事だった。
昔は、だが。
子供(新の父)が上京し、さらに紀伊介の妻が他界して紀伊介一人でここを経営するようになってからは、その行事はしばらくなかった。しかし、新の両親が交通事故で死に、新がここにやってくると、こいのぼりは再び恒例の行事として復活した。
新を元気付けるという意味で。
そのときの新は小学校四年生で、両親の死がいったいどういうことなのか、頭でわかることも拒否している状態だった。有り体に言えば、心を閉ざしていた。転校の手続きは済んでいたが、学校にも行かず、自分の部屋で何をするともなくじっとしていた。
新にとって初めてこいのぼりが上がるのを見た日、地元の子が偶然見に来た。母親に連れられて、珍しそうに空を泳ぐこいのぼりを見上げた。
「すっごーいっ」
「……」
「すごいねっ」
「……うん」
「えへへー、あたし、きょうこっ」
「……ぼくは、あらた」
それが、天羽今日子との出会いだった。
新は今日子に引っ張られるような具合に一緒に遊ぶようになった。クラスは違ったが学校も学年も同じだったので、今日子と一緒に学校に行くようにもなった。
中学も高校も同じところに行き、二人はエスカレーター式に進学するかのように、幼馴染→彼氏彼女という遍歴を遂げた。その間、毎年こどもの日になると、二人で『民宿熊島』のこいのぼりを眺めるのは何かの記念日のようになった。それは新と今日子にとって、クリスマスをも越える大事な行事だったからだ。
そして今年のこどもの日。
二人で毎年のようにこいのぼりを眺めることはできなかった。
ここ最近、新と今日子は口を聞いていないのだ。