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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
タナカタナカは遥か彼方
43/69

家出っぽい

 緊急事態なのはとりあえずわかったが、何はともあれ一階のダイニングに移動する田中と紀伊介。話の内容からして、あまりパブリックな場で協議するような内容でもないのだが、なにせ依頼人が老人とはいえおっぱいな男である。ベッドのある部屋では、一抹の不安を感じてならない。

 ――まあ、今もパジャマのまんまだけどね。

 ダイニングのテーブル席にて、紀伊介から事情を訊く。

 紀伊介によると、朝起きたら紀伊介の部屋のドアに手紙が挟まっていたという。それを読む限りでは、


『じいちゃん、さようなら。今までありがとう。俺は、男になってきます』


 とだけ書いてあったという。田中も確認してみたが、たしかにそう綴られている。家出っぽい。

「どうじゃな?」

「いえ、これだけではなんとも……」

 ――でも何だろう。この違和感は。何がおかしいんだろ、この手紙。うーん。「ちょっと待ってください。考えますので」

「あいあい。じゃあちょいと朝のコーシーでも淹れるとするかのう」

 紀伊介が淹れたコーヒーは思いのほか美味しい。まともな仕事もできるらしい、と田中は感心する。――っていけないいけない。それどころじゃない。

「警察には連絡しましたか?」

「んや、まだじゃ。時間もそれほど経ってないしのう。それに官憲の連中はどうにも信用できん」

「同感ですね」

 田中は力強く頷く。

 そのとき、階段のほうからダンダンダンとアクロバティックに階段をかけ降りる効果音が聞こえてきた。クノイチだった。

 話を訊かれないように小声で話していたので、クノイチには聞こえていないらしい。ひとまず秒速で笑顔を作り、クノイチに微笑みかける田中。クノイチは少し首をかしげている。――ううん、ちょっと不自然だったかも……。私のキャラ作りもまだまだね。

 クノイチが何やら朝食を要求している。紀伊介はカップ麺を出して要求に応えた。案の定、クノイチはブーブー文句を言っているが、諦めて食し始める。クノイチが食べている間は無言でいようと思っていたが、彼は三分も立たないうちに平らげて外へ遊びに行ってしまった。それから「そうじゃった。クリステンのやつにもメシを用意せんとのう」と紀伊介は言って、カップ麺を持って二階へ上がっていった。廊下に置いたに違いない。

 紀伊介が戻ってきて、調査を再開する。

「新くんの携帯電話に連絡は?」

「したんじゃが電波が届かんだか電源がどーとかでかからん」

「では最近の新くんに何か変わったことなどありませんでしたか?」

「変わったこととな? 新は普通の高校生じゃが」

「そういう変わった、ではなくて、普段と違う行動に出たとかそういうことです。どんな些細なことでもいいんです。何かありませんか?」

「ふうむ……あいつのベッドの下のエロ本のラインナップに、最近眼鏡系のオナゴを多く扱った……」

「ほかに何かありませんか?」

 そんな実りのないやり取りを続けているうちに、今度は滝川が降りてきた。やはりカップ麺の文句をギャーギャー言っている。なんだか言語レベルがクノイチとそう大差ない。文句をひとしきり言うと、滝川は外にふらっと出て行った。

 ――さて。

「新くんの部屋を見せていただいてもよろしいでしょうか」

「いいともじゃ」

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