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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
タナカタナカは遥か彼方
41/69

鼠?

 その日は結局浜辺を散歩し部屋に戻り、ごろごろして終わった。まるで学生時代の怠惰な夏休みをリピートしているような気分だった。

 そして今は夜、時刻は午前一時を過ぎている。

 田中は布団の中で眠れずに目を開けている。昼寝が長かったらしい。――眠れない……私、阿呆すぎる……ん?

 天井のほうでゴトゴトと不気味な物音が聞こえてくる。

「鼠?」

 田中はベッドから起き上がり、天井から聞こえる不穏な音に耳を傾ける。

 ギシ、ギシ、ギシ。

 ――これは歩く音ね。鼠じゃなくて、人が。あ、そういえば屋根裏部屋があったわね。

 ゴトッ……ビリビリ……ゴトッ、ゴトッ……。

 ――これはたぶん、段ボール箱を降ろしてガムテープをはがし、中身を取り出して床に置いたのね。

 その後も物音は断続的に続いた。

 田中は聞かなかったことにして眠ろうとしたが、気になって眠れなかった。時折聞こえるコトッという何かを床に置くような音が、気になってしょうがない。――これも職業柄、なのかしら。あるいは職業病……それは嫌だな。

 田中はベッドから降りてパジャマの上からカーディガンを羽織り、ドアを開ける。屋根裏部屋から聞こえる物音を除けば、至って平和な夜である。昼間の熱気の残骸が舞っていて蒸し暑い。だが田中はカーディガンは脱がずにそのまま歩みを進める。いざというとき、何が役に立つかわからないのだ。

 廊下の奥に、まるで隠されるようにその階段は存在する。

 普段は朽ちかけた板ッ切れのようなドアが閉まり、その前に何が入っているのか知らないがダンボール箱が三つも重ねて置いてあるものだから、入ろうと思う者はほとんどいない。田中は前に一度入ったが。――ただの物置だったけどなぁ。整理でもしてるのかしら。でもこんな時間に? っと、あらあら。

 ドアは閉まっているが、ダンボールは端に寄せられている。誰かが入った証拠である。田中の中ではクノイチが悪戯で侵入した線を疑っている。好奇心旺盛なちびっ子ならやりかねない。

 ドアを開け、音を立てないように階段を上がっていく。徐々に高まる不安、それに興奮。興奮? と田中は思うが、すぐに打ち消す。そんな自己分析などしている場合ではない。

 階段はかなり急で、一段一段の幅が狭い。足が半分近くもはみ出してしまう。心臓の鼓動が5・1チャンネルサラウンドばりにうるさい。屋根裏部屋にいる何者かに聞こえてしまうんじゃないかと焦る。

 やがて階段の頂上に到達、顔を僅かに出して、屋根裏部屋の様子を窺う。

 天井の裸電球が点いて卵色の明かりを室内に投下している。ぬーっと浮かび上がるように聳え立つダンボールタワーの群れ。そして床に座ってドライバー片手に何かを修理? しているらしい背中。見覚えのある白髪ポニーテール。――ああ、推理ハズレ、か。

「こんばんわ」

「ちょわっちゃーっ!」

 奇怪な叫び声をあげて、紀伊介はなぜかその場から横にごろごろと転がり、ダンボールタワーの一つに激突した。「ふぎゃっ」

 崩れそうになるダンボールタワーを、すかさず田中が支え、崩壊の危機は免れた。

「な、なんじゃなんじゃ、なにごとじゃ!?」

「それはこっちのセリフですよ」

「おや、おっぱい田中多菜香さんじゃ」

「下品な芸名みたいで不愉快です。やめてくださいね」

「そいつは失敬じゃったな。じゃはははっ」

「で、何をしているんですか?」

「いやーなんちゅーかのーじゃはははは」

「答えになってませんよ」

 紀伊介は片手に目覚まし時計を持っている。床にはドライバーやネジ、それに赤や青のコードがうねうねと床を張っている。

「いやーあれじゃよあれ」

「どれですか?」

「めーめーめー……」

「め?」

「めーめーめー……めーざましっ。そうじゃそうじゃ、目覚まし時計が壊れてしまってのう。たしか屋根裏部屋にあったかなーと思って捜して発見、したのはよかったんじゃが壊れていてな。直しておったのじゃっはっはっは」

「そうですか」

 ――めちゃくちゃ嘘っぽい。でも取り立てて追求することもないな。どうせお下劣な本でも見ていたんでしょう。男なんてどいつもこいつも下種ばかりだもんね。

「目覚まし時計、直るといいですね」

 心にもないことを言う春日井。

「まったくじゃっはっはっは」

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