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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
タナカタナカは遥か彼方
40/69

私にはあの美少女みたいな若さが……

 ――あらいけない。脳内ブラックロードショーを上映してしまったわ。

「はー……」

「あの、すいません」

 声をかけられ咄嗟に身構えてしまう田中。脳内ブラックロードショーの影響で、血の気が多くなっていたようだ。構えた直後に後悔したのはいうまでもない。

 目の前には美少女が立っていた。美少女、という言葉を躊躇なく当てはめることができる、それほどに美少女やっちゃってる女の子だ。白いワンピースに麦藁帽子をかぶり、帽子からはサラサラの髪の毛が流れている。日の光で茶色く見えているが、実際は黒髪だろう。風で麦藁帽子が飛ばされないように手で押さえる姿は、夏の砂浜で美少女がすべき仕草を心得ている。

 背格好からして高校生ぐらいかな、と田中は踏む。

 ――それにしても……な、なんだろ、この劣等感は……。私が失った色々な何かを全身に貼り付けて武装したような子ね……。

 不本意ながら構えを解く田中である。

「は、はい、なんでござんしょ?」

 受け答えに動揺が溢れる。

「あそこの民宿のお客さんですか?」

 美少女は『民宿熊島』のほうを指差す。

「ええ、そうですけど」

「あの……あら……た……」

「はい?」

「新くんは……お元気ですか?」

「新くん? ああ、元気ですよ。今掃除してますけど、呼んできましょうか?」

「い、いえっ、いいんです」

 美少女は腕をぶんぶん振っている。慌てた様子まで可愛い。憎い。妬ましい。

「じゃ、じゃあわたしはこれでっ」

 そう言い残して、美少女は『民宿熊島』に背を向けて歩いていく。――なんだったんだろう。まあ新くんの友達か彼女ってところかしらね。

 田中は気を取り直して海を眺める。

 ふと、仕事先をやめようかどうしようかという問題が頭をよぎる。

 所長の言うように、転職は厳しいだろう。同じ職ならおそらくほかの事務所に再就職できるだろうが、それでは意味がない。もうあの職業を口にして男達に警戒されるのはたくさんだ。

「とはいえ」

 田中は呟く。――解決策がなーんにも思いつかない。そして私にはあの美少女みたいな若さが……な……ない……ないのじゃああああ! ふえええん!

 錯乱も絶頂を迎える。だが急速にヒートダウン、田中はすぐに冷静さを取り戻す。すぐに冷静さを取り戻せる自分に、田中は嘆息する。そんな芸当、若い子じゃできやしない。

「はー……戻るかな……ん?」

 民宿の二階の窓からこっちを見ている誰かが……新だ。なにやら手を振ってきたので、なんとなく振りかえしておいた。――美少女が君を気にしてたぞー。

 そして再び海を見やる田中。

 遠くに来たいと思って海の見えるところまでやって来たというのに、海を見ているとさらに遠くへ、遠くへ、遥か彼方まで行きたくなってくる。いっそ海が自分を吸い込んでどこかへ運んでくれればいいのに、とさえ思ってしまう。――あらいけない、これでは入水自殺シンクロ率が上がっちゃうわ。

 彼方とは、どこなんだろう。そんなことを思う田中だった。

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