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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
タナカタナカは遥か彼方
39/69

ひええ

 お見合いパーティー。

 それはパートナーのいない男女が集い、自己紹介と他愛ない会話を通して互いを品評、つがい相手を探すことを目的としたパーティーである……と、田中は考えている。

 まさか自分がお見合いパーティーに参加することになるとは思わなかった。自分の美貌と肉体にはかなりの自信があった。いや過去形ではない。今も自信がある。が、就職してからがよくなかった。いや就職先がよくなかったというべきか。いやいや、職業そのものがよくなかったというべきなのか。

 名前もよくないが、それは見た目でカバーできる。やはり職業、それしか考えられない。

 田中はお見合いパーティーに出席した。出席しまくった。

 だがお互い名乗ってまず笑われ、職業を言うと今度は警戒された。そんなことの繰り返しだった。まるで自分を何度も否定されているような気分だった。

 それでもどうにか一人と連絡先を交換し、後日デートと相成った。映画を見てフレンチレストランで食事、いい感じだった。

 ――アレさえなければ。

 二人ともいい具合に酒が回り、上機嫌だった。田中は男の腕に絡みつき、体の密着率は今にも暴走を余儀なくされるほどだった。そして足は自然ホテル街へと運ばれた。

 しかしホテルを前にして、お見合い相手の男が、前から来た柄の悪そうな男の肩にぶつかった。お見合い相手は謝ったが、ぶつかったほうは許してくれず。

「あたたたたっ、こっせつしちまったーよー」と右腕を押さえ白々しい演技を混ぜつつ「オラァ! どうしてくれんだよっ! ああ?」と凄んできて、お見合い相手の襟首を掴んで持ち上げた。骨折したという右腕で。

 さらにもう一人別の男がホテルとホテルの間の路地から現れた。

「おい偶然だなー。どうしたんだよーオイ」

「コイツが肩にぶつかって右腕が……うぐおおおぉぉぉ」

「なんだとー。そりゃあたいへんだー」

 あたかも偶然会ったかのように装っているが、明らかに芝居だ。棒読みの演技に辟易とする。

 ――ハメられたか。

 見ればお見合い相手は半べそをかきながら謝っている。しかし襟首をつかまれ息も絶え絶え。「ぼべんばさい」(ごめんなさい)と、手を離されたら間違いなく土下座しそうな勢いだ。

 ――どうしよう……。

 どう対応するかで田中は迷った。田中にとって、こんな二人を伸してしまうのはテレビのリモコンの電池を交換するぐらい容易いことだった。職業柄、危ない目にあった経験もしてるから、その対策として護身術を習っていた。それに元々空手と合気道は幼い頃から続けていて、日々の鍛錬に余念はない。最近ではエクササイズも兼ねてボクシングまで習い始めたほどだ。仕事中、これらの武術が役に立ったことは実際にある。仕事中でなくても、まさに今が鍛錬の成果を発揮するとき、なのだが……。

 一つのリスクが、取れない染みのように田中の頭を支配する。

 けれど見合い相手のプリンみたいにぷるぷる震えている姿を見ていたら、もうリスクがどうとか言っていられなくなった。

 ――ったく、しょうがないなぁもう!

 田中は例によってキャラを崩壊させ、リミッターを解除、絡んできた男たちを潰しにかかる。最初に絡んできた男はお見合い相手に気を取られて防御も何もなかった。顔面に重い右ストレートを叩き込み、一撃でダウンさせる。右の拳にじんわりと男の命の欠片めいたものがへばりついているようで気持ち悪い。

 もう一人はすぐさま身構えた。目の前の女が只者ではないとすぐさま判断したらしい。「オンナアアアアアアアアアアァァァァ!」絶叫しながら飛び掛ってきた。

 が。

「――ぎゅふぅ」

 気の抜けるようなうめき声と共に、男の顔面が真っ青になる。唇の端からよだれと胃液がまじった汁が垂れ始める。

「隙だらけだっての」

 田中は伸ばした脚を引っ込めた。

 男は地面に倒れ伏した。腹を押さえながら。

「どうする? まだやるの? まー別にいいけどさ。私、手加減って苦手なんだよ。殺しちまうかもよ?」

 田中の言葉に、地面に倒れている二人は戦慄した。

 さらにひと睨み利かせ「消えな」と田中は言い放った。

「ひええ」

「ひええ」

 男達はよろよろとしながらも逃げていった。

「さて、と。もう大丈夫……よ」

「ひええ」

 見合い相手も一緒に逃げていった。

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