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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
タナカタナカは遥か彼方
33/69

っっっっっっっっっっっっかーん!

 長期休み最初の休日、田中は自宅アパートにて何をするともなくぼーっとしていた。

 いつも昼夜問わず働いて、依頼をこなしてきた。じっと同じ場所で息を殺していることもあったし、一日中歩きっぱなしのときもあった。電車を乗り継いでいるうちに隣の県に行ってしまったときもあった。スケジュールは常に流動的に変化、前後、修正を繰り返し、自分の時間など皆無だった。

 それが突然『じゃあお休みね』と言われて手帳に真っ白な欄が整列すると、もうどうしていいかわからない。そもそも辞めて再スタートを切るつもりだったのだ。休むつもりなど田中には全くなかった。

 ――真っ白な欄のとき、私は何をしていたのだろう。

 真っ白な手帳のページを目で追いながら考えをめぐらせてみるが、ここ十年ぐらい真っ白な時間などなかったことに気付く。十年以上前というと学生時代だが、そこまで時代を遡ると、なんだか別の人間の過去を探るような気分になる。もはや別人。

 ――若い頃の私は別人……。あー最悪に嫌なこと考えてしまった。

 このままじゃ自己嫌悪スパイラルに飲み込まれると警戒した田中は、なんとなくパソコンの電源をつける。――動画サイトでも巡ってみようかな。それとも通販サイトで服でも漁ってみるか。

 なんて考えていたのに、いつの間にか出会い系サイトで男を漁っていた田中だった。

「っっっっっっっっっっっっかーん!」

 いかーん! と言いたかったらしい。田中は気合が空回りしたふうに吠えた。独りで。

 田中は出会いサイトから検索サイトに移り、思いついてホテルを捜し始める。

 なんとなく海の近くがいい、と決めていた。どうせこんなふうにぼーっとするなら、景色の良いとこが精神衛生上いいだろう、という考えである。

 しかし調べ始めて一時間、田中が決めたのはホテルではなく、とある民宿だった。その民宿は旅行サイトのレビューで面白い感想がいくつも寄せられていた。

『引き篭もり中学生になった気分だった』『孤独に徹するならココ!』『海が見えて一人静か時間が味わえる』『波の音を聞きながら思った。世界に俺一人だ、みたいな』『客との距離を突き放しまくったアンチアットホームな民宿。でも超落ち着くからフッシギー』『海辺で静かなる放置プレイ』

 これらのレビューは氷山の一角。まだまだたくさんあった。どうも水面下で流行っているらしい。料理はドアの前に置かれるだけだし、宿主の人も無愛想なのだそうだが、その静かな環境が一人になりたい人にとっては良いとのこと。変態的なレビューも散見されたが、気にしないことにしよう。

 海沿いという条件は満たしているが、ホテルではない。そこが田中を悩ませたが、とにかく一人で誰にも邪魔されずぼーっとしようと、そこに泊まることを決めた。

 ――ていうかいつの間にか『一人ぼーっとする』が目的になってる……。本当は一人は嫌なんだけど。でも……相手、いないし。

 予約の電話を要れ、翌日、田中はアパートを出た。

 目的地は『民宿熊島』である。

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