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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
タナカタナカは遥か彼方
31/69

203号室の掃除

 クノイチの部屋の掃除に時間がかかってしまった。

 ――やれやれ、客室っていうより子供部屋だよなぁ。

 新は首を回しながら、今度は203号室のドアをノックせずに開ける。203号室の春日井弥生は午前中はいつもずっと一階で読書をしているのだ。ついさっきもソファに座って読書中の春日井を見かけたばかり。

 春日井の部屋はクノイチとは違いきれいだ。旅行鞄がぽつんと隅に置かれ、あとはせいぜいハンガーにかかったカーディガンがあるのみ。ほかの荷物はクローゼットの中に納まっているのだろう。なぜかベッドの布団もシーツもしわ一つない。ベッドメイキング直後と言っても差し支えないほどである。

 ――僕が掃除をする意味あんのかな……。散らかりすぎは気が滅入るけど、これはこれでやりがいないかな。

 複雑な気分で新はまず窓を開け、空気の入れ替えをする。空気の入れ替えは口実で、ただ単に今日子がまだいるかどうか見たいだけなのだけど。

 外を見ると、今日子はもう帰ってしまったのかいない。梅雨らしからぬ真っ青な空から太陽光線が降り注いでいる。波は穏やかで、サーファーにとっては退屈かもしれない。

 ついさっきアフロ兄弟がいたあたりに、春日井の姿を視認する。海を眺めているようだ。春日井は時々ああやって砂浜に佇んでいることがある。時間にすると五分ぐらいだけど。たぶん本ばかり読んでいて目が疲れるのだろうと、新は睨んでいる。

 ……と、春日井がこちらを振り向く。遠くだからよくわからないけど、目が合ったような気がした。新は手を振ってみた。春日井も振ってくれた。

 ウッドデッキのほうを見やると、紀伊介はいなくなっていた。灰皿に突っ込まれた吸殻からふわふわと煙が漂っている。

 新は「さて、と」と呟き、あまり掃除しがいのなさそうな春日井の部屋を掃除し始める。手を動かしていないと、今日子のことばかり考えてしまいそうだから。

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