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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
扇風機の中心でアアと叫ぶ
28/69

おお? 掴みにくいぞ

「さーて、阿呆もいなくなったことだし、古道具屋に行くかー。クノイチも来る?」

 よくわからないけどクノイチは「うん」と頷く。古道具屋に行く間、滝川はモンハンの話ばかりしていて、さっきの男のことには一切触れなかった。本当は男のことが気になって仕方がないクノイチだったけど、訊いちゃいけないような気がしてやめておいた。よく考えたら、滝川だって自分のことをほとんど訊いてこない。触れなくていいこともあるんだなー、とクノイチはぼんやりと思った。

 古道具屋で滝川は時計を買い取ってもらっていた。千五百円だった。滝川は買い取り金額の安さをブーブー言っていたけど、その割にサッパリした顔をしていた。

 そして帰り道――。国道の歩道を歩いていた滝川が唐突に立ち止まる。

 クノイチは男のことはもうどうでもよくなっていたが、手帳のことがどうしても頭を離れないでいる。――あんなにビリビリじゃあ直すのは無理っぽいよなぁ……おっと。

 滝川が立ち止まったことに遅れて気付くクノイチ。滝川はクノイチのほうをじっと見たまま活動限界っぽく止まっている。

「クノイチ」

「ん」

「おっぱい揉ませてあげよっか」

「えっ! いいの!?」

 ――おっぱい!? おっぱいってあのおっぱいのこと!? 二つあってぽよぽよしてそーなあの物体のことだよね!? やべーよ! アフロ兄弟だって絶対に触ったことないんじゃね!?

 にわかに興奮するクノイチである。もはや手帳のことなど忘却の彼方だ。

「おうおう。どーんとこいや」

 滝川はぐいっと胸を張る。こんなときに限って歩道を歩く人が結構いて、何事かとじろじろ見てくる。けれどクノイチはそんなこと気にしない。この期を逃してはもしかしたら二度とおっぱいを触ることなんてないかもしれないのだっ! と勢いづき、ぐんと腕を伸ばして滝川の胸を鷲掴みにしようとする。

 が。

 ――おお? 掴みにくいぞ。

 想定外の平たさに困惑する。おかしい。おっぱいというのは、もっとこうふにふにとできて、ぷにぷにとした感触が楽しめるものだと言い伝えられているはず。けれど滝川のおっぱいはどうにもおっぱい伝説で聞くものとは随分と違った形状をしている。肉をかき集めるようにして膨らみを一転に集中させ、ぐいぐいと絞るように揉む。「揉む」と言えるのか甚だ疑問であることには目を瞑って頂きたい。

「どーよ、あたしのパイオツは」

 感想を訊かれてしまった。しかもかなり得意げに。――ど、どうしよ。おっぱいっぽくないとか言えないよなぁ。平たいけど柔らかい。そんな感じなんだよなぁ。

 滝川の胸を的確に言い表す言葉は何かないのか、とクノイチは頭をぐるぐると回転させる。ナンパするときのキメ台詞を考えるとき以上に。――おっ、あったぞっ。平らだけど柔らかいもの!

「例えて言うなら」

「例えて言うなら?」

 ――へへへ、クリスタル姉、喜ぶぞきっと。

「はんぺん」

 力のこもったチョップを食らうクノイチだった。――えー、はんぺん白くてカワイイじゃんかー。おでんの具としても最高だぞ。

 頭蓋骨に衝撃を受けたせいだろうか。クノイチの頭に、ふと昨日壊れてしまったエアコンとさっき行った古道具屋が浮かぶ。 

「あ、そーだ。クリスタル姉、ちょっと古道具屋に戻っていい?」

「いいけど、なんか買うの? あたしのことはクリステルと呼びな」

「エアコン。クリステル姉」

「エアコンだって?」

「うん、おれの部屋のやつ、壊れちまったんだ。ジジイは直してくんないし、こうなったら中古でもいいから買うかなーって」

「クノイチ、金あんの?」

「二千円もあるぜい」

 こんぐらいあれば十分だろう、クノイチはそう思って疑わなかった。クノイチが知っている物の相場は、せいぜいゲーム機が上限であるのは言うまでもない。

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