ずっと……ずっと……ずっと……
『うへーハズレだわー』
『クリスタル姉、くじ運わりー』
『このクジってホントに当たりあんのぉ? そしてあたしのことはクリステルと呼びな』
『おれはあるぜい。それも二回!』
『なんてこったい』
『ていうかさー、大人なんだからクジまるごと全部買っちゃえば? そうすれば当たるよっ』
『わかってないねークノイチ。そりゃあ情緒にかけまくりだよ』
『チョウチョ?』
『情緒、だよ。まあ、大人になりゃわかるぜ』
『ふーん』
『よーし、決めたっ。あたしはこのクジが当たるまで絶対に帰らないぞ。ぜーったいだ! 誰があたしを連れ帰ろうとしても、絶対にここに踏みとどまってやる!』
そのくじ引きは当たると大きなスーパーボールを、ハズレだと小さなスーパーボールがもらえる。滝川はそれから幾度となくその駄菓子屋に行ってくじ引きを引くが、未だに当たりを引いていない。滝川の部屋にはハズレの小さいスーパーボールがそこかしこにころころ転がっている。
誰があたしを連れ帰ろうとしても、絶対にここに踏みとどまってやる!
滝川の言葉がクノイチの口をぴったりと閉じる。
――あのくじ引きが当たるまでクリスタル姉はここにいるんだ。……ていうか、当たらなくても当たっても、ずっと……。
ずっと、なんだ?
ずっと……ずっと……。
「おいこら、何黙ってんだよ。何か言えよ。滝川を知ってんのか? 知らないのか?」
男がクノイチに詰め寄る。ぐいっと顔を近づけ凄んでくる。「やっぱてめえ、自転車泥棒なんだろ。車から滝川のチャリが見えておかしいと思ったんだ。滝川にガキの知り合いがいるなんて聞いたことないからな」
――ずっと……ずっと……ずっと……。
「おい、だんまり決めこんでじゃねえよっ。ガキだからって許されると思ってんじゃねえだろうな。あめーよ。とりあえずお前を警察に突き出すぞ俺は。警察のこわーいオッサンと一緒に取調室でデートだ。はははっ!」
男の笑い声はかなり大きかったけど、クノイチの耳には一切入ってこない。ただ『一緒に』という部分だけは頭の真ん中を突き刺して、クノイチに答を示した。
――おれ、クリステル姉と、ずっと、一緒に、いたいなー。なんて、思ったり? えへへ。
思うだけで恥ずかしくなってくるクノイチ。でも、それが本当の気持ちなのだ。クノイチはもう迷うことなく、男がいうところの「だんまり」を決め込むことにする。警察なり刑務所なり好きなとこに連れてけといわんばかりに。