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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
扇風機の中心でアアと叫ぶ
24/69

「……ふざけんなよ」

 ――あっちぃ。

 ガードレールの上に座り、クノイチは休憩中。赤い彗星号はすぐ横に停めてある。ナンパの戦績は無勝記録を更新中だ。――コンビニ行ってジュースでも買うかぁ。

 クノイチはガードレールからぴょこっと飛び、地面に着地――した瞬間、背後から背負っていたデイパックを奪われる。

「えっ……」

 一瞬、何が起こったのかわからなかったが、後ろを振り向き納得する。アフロ兄弟の兄のほう、鉄平がいる。ニヤニヤしながらクノイチのデイパックを片手で振り回している。

「何すんだよっ」

「へへへ、ナンパは上手くいったかクノイチ?」

 クノイチを無視して鉄平は言う。「二十七連敗したみたいだけど?」

 ――見てたんじゃないか。しかも数えてるし。

「いひひひ、いい加減諦めろよ。お前じゃ俺らみたいに成功しねえって」

「そんなのやってみなきゃわかんないだろ」

「わかるぜ」

「つうかそれ返せよ。俺んだぞ」

「いひひひ、なーに入ってんのかなぁ?」

 やたらと語尾を上げて言う鉄平に、クノイチの頭は敏感に反応、血管を巡る血液が加速度的に流れを速くし熱を持つ。そんなクノイチをあざ笑うかのように、鉄平はデイパックのジッパーを開け始める。

「オイやめろよっ――あっ」

 鉄平に突撃しようとするクノイチを、誰かが後ろから羽交い絞めにする。動こうにも磔にでもされているかのようにびくともしない。――だ、誰だよ。

「ぎひひひ、よークノイチちゃーん」

 アフロ兄弟の弟のほう、銅平だった。「まあ落ちつこうよ。な? ちーっと持ち物検査するだけらからさ。なー兄ちゃん」

「おうよ。俺たち兄弟はいつだってこの町の平和を守っているのだ」

「いるのだ」

 弟が調子を合わせる。

 そして鉄平はデイパックに手を入れて中をまさぐる。「……ん、こりゃ何だ?」

 鉄平が取り出したのは滝川からもらった手帳である。「本か?」 

「あー! それに触るんじゃねえよっ!」

 クノイチはじたばたと暴れるが、銅平の羽交い絞めは全く外れそうにない。「離せバカアフロっ!」

「離せって言われると離したくなくなるなぁ。俺、反抗期なんだよねぇ」

 銅平はゲラゲラと笑いながら言う。笑うたびに唾がクノイチの頭に降ってきて汚いことこの上ない。

 そうこうしているうちに、鉄平は手帳のページをめくり始める。「なんだこれ、落書きじゃねえか。変なの」

「兄ちゃん兄ちゃん、俺にも見せてよ」

「待て待て。もー少し」

「兄ちゃんっ」

「だから待てって。もー少し。もー少し」

「うーうー、いっつもそれだよー」

 銅平がむくれる。そのせいか僅かだが羽交い絞めの力が緩む。クノイチはその隙を逃さない。思い切り飛び上がり、銅平の顔面に頭突きをお見舞いする。「おごっ!」

 銅平が悲鳴を上げて鼻を押さえている。羽交い絞めは完全に解かれる。

「あっバカ! 何やってんだよ銅平!」

 鉄平が叫ぶ。

「お前もバカだっ! それ返せ!」

 クノイチは鉄平が持っている手帳のページの部分を掴む。だが鉄平は手帳のカバー部分をぎゅっと掴み、その手を離さない。

「くされアフロっ、手離せよ!」

「うるせえチビクノ!」

 綱引き的な様相を呈している。クノイチも鉄平も全く譲ろうとしない。左右からの引力に、手帳は徐々にその形態を変化させ――限界を突破する。

 びりりりっ。

「ああっ!」

 手帳のページが破ける。クノイチの手にページの部分が、鉄平の手には手帳のカバーがそれぞれ納まっている。

 クノイチは手にしているページを見やる。破けたところがキザキザでボロボロ、『民宿熊島』の本棚の古っちい本より無残な姿だ。

「あーあ、破けちまったよ」

 鉄平が眠たそうに言い、手帳のカバーをひらひらと団扇のようにあおいで自分に向けて風を送る。手帳がぞんざいに扱われているその様は、クノイチの怒りの炎に油を注ぐ。

「……ふざけんなよ」

「あ?」

「ふざけんなって言ってんだよ!」

 クノイチは鉄平に体ごと向かっていく。頭の中に滝川の顔が浮かんで泣きそうになるのを、拳を握って誤魔化して。

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