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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
扇風機の中心でアアと叫ぶ
18/69

目の下に隈と皺ができちまうぜい?

 六月二十五日、土曜日、午前六時半。クノイチ起床。――今日は学校はお休み。いえい。

 休みの日、子供はなぜか早起きし、大人は昼まで惰眠を貪る。クノイチは子供の例に漏れることなく早起きで元気いっぱい。パジャマから普段着へ十七秒で着替えて滝川の部屋に行ってみるが、やはり彼女も大人の例に漏れることなく爆睡している。

 仕方なく、クノイチは一人で遊びに行くことにする。まあ、いつものこと。

 クノイチは他の客と違って一階のダイニングでご飯を食べるので、階段を降りて一階に行く。リビングを突っ切ってダイニングに行こうとするクノイチの目に、巨大なおっぱいが映りこむ。男の条件反射的に急停止。春日井弥生がソファの横にある本棚の本を物色中だ。

 春日井は滝川が泊まり始めてから二週間ほど経ったころに、この民宿に来たおっぱいな人である。クノイチは密かに、春日井のおっぱいの体積は滝川の一億倍だと試算している。

「ヘイ春日井ちゃん」

「あら一太くん、おはよう」

「何してんの?」

「本を選んでるのよ。これだけあると迷うわねぇ」

「字ばっか読んでると、目の下に隈と皺ができちまうぜい?」

 クノイチがそう言うと、春日井がギロリと睨んでくる。それは普段の春日井からは想像できんほどの鋭い視線だ。クノイチはびっくりする。でも春日井はすぐに手をぶんぶん振ってちょっと引きつった笑みを浮かべる。

「あ、やーだあたしったらオホホホ。だめよ一太くん、女性にそんなことを言っちゃ。いい? 皺のある女性なんて、この世にはいないのよ?」

「えー、でもこないだクリスタル姉は言ってたよ。『あたしも十年後にはシワシワのババアかなー』って」

「………………………………………………………………」春日井はまるで石化したように沈黙する。「……それは違うのよ、一太くん。滝川さんは未来のことを予想しているにすぎないの。実際は十年後になっても、滝川さんはシワシワになったりしないわ」

「おお、もしや春日井ちゃん、未来人?」

「未来人?」

「だって未来のことわかんだもん。スゲー」

「そ、そうよぉ。大人は何でもわかるのよ、オホホホホ」

「スゲー」

 そうかー大人はなんでもわかっちまうのか。そっかそっかー、ナンパを成功させちまうわけだ。と納得するクノイチである。

「ていうかさぁ、そんなの読んで楽しいの?」

 クノイチは春日井が手に取っている文庫本を見やる。背表紙は日焼けしてページは泥水で煮込んだように茶色い。――つーかタイトルすらちゃんと読めねー。

「ええ、楽しいわよ」

「ふーん、おれにはわかんねーや」

「それは勿体無いわ。せっかくこれだけの書物があるのに」

 リビングにはソファとガラステーブル、それに大きなテレビとテレビ台がある。いささか年季が入っていることに目を瞑れば、それなりに見えなくもない部屋である。けれどソファの横にある本棚の存在がやけに浮いている。並ぶ本のラインナップは国内外の古典文学ばかりで、クノイチ的には病院の待合室にあるしけた本棚よりひどいと思っている。

「古いっちいよね、ここの本」

「ああ、ここのご主人が若い頃に買ったものみたいよ。ご主人ね、若い頃は小説家を目指してたんですって」

「ショーセツカって小説を書く人?」

「そうよ」

「はーん」

 おっぱいは大きいけどあまり話は面白くない春日井と少し話をしたクノイチは、ダイニングに行き用意されていた朝ごはんを一分十七秒でかき込んで、すぐに外へ遊びに行く。

 ウッドデッキのテーブル席で煙草を吸っている紀伊介、それに浜辺のゴミを拾っている新が目に入る。

 紀伊介に「よージジイ。まだ生きてるみたいだなー」とブラックな挨拶をかまし、ゴミを拾っている新に見つからないようにそろりそろりと民宿の裏に回って国道に出た。

 新に見つかると手伝えだなんだとうるさいのだ。――まったく、こっちはお客さんなんだぞ。

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