202号室の掃除
201号室――滝川の部屋の掃除が終わり、続いてお隣の202号室を掃除しようと、新はドアをノックする。しかし無反応。でもまあ、これはいつものこと。ドアを開けてみると、案の定誰もいない。久野一太――クノイチは外に遊びに行ったのだ。
部屋の中を見渡す新。とにかく散らかっている。ゲームソフトはプレイ済み未プレイ問わず床に山積みにされ、ゲーム機は据え置き型が三台(もちろんそれぞれ違う機種)、携帯ゲーム機が二台(これはなぜか同じ)。それと漫画の数も半端ではない。いつの間に買ったのか部屋の隅に三段のカラーボックスが置いてあり、全ての段に隙間なく漫画が詰まっている。
――なんかどんどん増えてるような気もするなぁ。
新はぼんやりとそう思う。新はゲームや漫画にはあまり興味はない。ここに来る前――小学校四年まではかなり入れ込んでいたが。
ひとまず窓を開け放ち空気の入れ替えをする。外を窺うと、まず紀伊介と滝川がウッドデッキのテーブル席で話しているのが見える。二人とも煙草の煙をもくもくと立ち上らせ、周囲を煙たくしている。
浜辺のほうに視線を移すと、天羽今日子が浜辺を歩いているのが見える。真っ白いワンピースに麦藁帽子をかぶっているその姿は、浜辺の美少女のあるべき姿を具現化したものと言っても差し支えない。案の定、まるで餌に釣られた魚のように、一人の男が近寄って声をかける。無視されている。どこかのナンパ少年のように肩を落としている。
――ていうか今日子……何をしてるんだろ。
今日子は民宿熊島のほうを見ては視線を逸らしうろうろし、また民宿を見やっては視線を外す、なんてことを繰り返している。なんだか挙動不審だ。
――どうしよう……会いに行きたい……けど、いったいどんな顔して会えばいいんだろう……。僕だって……東京に……。やめよう、今は掃除だ。この民宿が僕にとっては全てなんだ。
新は今日子にロックオンしていた視線を引き剥がし、別の方向へと向ける。
挙動不審といえば、そこから少し離れたところにいるアフロ頭の少年二人も不審だ。彼らは海で波に乗っているサーファーに目を向けていた。双眼鏡越しに。サーファーに憧れているのだろうか。それにしてはなんだか監視の目を向けているように見えなくもない。――あのアフロ頭の子たちはクノイチの同級生じゃなかったっけ。
氷で薄まったコーラみたいな記憶を抽出してみるが、はっきりした回答は導き出せなかった。
「さて、と」
窓から見える景色から、ゲーム漫画天国へと視線を移す。「掃除、するかな」