表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
アイ・アム・クリステル
13/69

十分遅れとるよ

 滝川とクノイチはその足で古道具屋に向かった。道中、滝川は首を傾げた。クノイチの体の傷、それに赤い彗星号がところどころ凹んだり傷ついているのだ。車輪が回転するたびにガラガラと奇妙な音まで立てている。ここまでボロかったかな、と思う。

 ――成川め。クノイチをイジメやがったうえに赤い彗星号にまで……おのれ。正拳突きでもかましておけばよかったぜい。できないけど。ってありゃ、あたしはこんな凶暴な女子だったかしらん。

 なにはともあれ古道具屋にゴールイン。古道具屋の名前は『近堂』だった。

 古い商店街の中の一角に店を構えていて、様々な商品が所狭しと並んでいた。テレビからエアコン、冷蔵庫などの電化製品から巨大な招き猫やウクレレ、百科事典、たんす、卓袱台、カツラ、竹刀、兜、藁人形……ぱっと目に付いたものを挙げてみるがキリがないのでやめる。まあ、ゴミ屋敷と僅差、といった佇まいである。その混沌とした空間の中で、主らしきおばあさんは丸椅子に座り、ノートパソコンの画面を眺めてマウスをかちかちしていた。意外とデジタル通なおばあさんなのかもしれない。

 滝川が「買い取りなんですけど」と言うと、おばあさんは顔をLEDばりに明るくして「いらっさーいらっさー」と奇怪な挨拶を寄こしてきた。

「……これなんですけど」

 滝川はおばあさんに腕時計を差し出す。おばあさんは老眼鏡をくいくいと指で持ち上げ位置を調整、腕時計を受け取り鑑定を開始、した直後、鑑定は終了した。

「千五百円だーね」

 店主のおばあさんはあっさりと言った。

「えぇ!? おばあちゃんっ、そりゃいくらなんでも安すぎだよっ! ロレックスだよ!?」

「ロリックス?」

「そんな幼女好きみたいな名前じゃねえ!」

「本来は二千五百円で買い取るところなんじゃがねー」本来的な買取値がそもそも安い。「これを見てみぃ」

「どれ?」

 おばあさんはずずいと腕時計を滝川の眼球のまん前に近寄せる。ふーむ、きれいな時計である。どこにも欠点は見当たらないように見える。

「十分遅れとるよ」

「……」

 十分遅れてるから千円引かれたらしい。――意味わからん。なんてこったい。

 しかし、滝川はその値段で納得していた。実はそんなに価値があるものだとは思っていなかった。持っていても虚しいだけの代物だ。大体、見る人や見る場所、見る大人が変われば、価値なんてころころ変わってしまうんだ。

 うん、そう。

 いくらでも、変わっちまうんだ。変わっていけるんだ。

 さて、あたしはどんな大人になろうか。とりあえずクリステル級のすげー大人になってやる。

 いつかクノイチに、大人になる方法を教えないとね。

 滝川はおばあさんから千五百円を受け取る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ