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フライ・フィッシャーズ  作者: カカオ
アイ・アム・クリステル
10/69

馬子にも衣装って感じだなぁ

 その日の夜。

 滝川は自分の部屋の鏡で、己の顔を凝視していた。童顔でふわふわぽわぽわした感じの女子がそこには映っていた。本当に大人なのかと首をひねってしまう。

 ――どうしてあんたはクリステルじゃないんだ? なんで花子なんだ?

 クリステルならきっとこの時計も似合うし、あの手帳だってしっくりくるだろう。あの手帳のページを繰ってスケジュールを確認するクリステルというだけで、絵になるし様になる。でもあたしはどうだ? 福岡にバカにされて叩かれるのが落ちだ。

 ――それか……元カレに笑われるか。

成川なりかわくん、元気かなぁ」



「ぎゃははははっ、なんだよお前それー。馬子にも衣装って感じだなぁ」

「あははは」

 会社員生活がスタートしてから最初のデートの日、滝川は成川修なりかわおさむに爆笑された。成川は大学のゼミで一緒になり、二年生からずっと付き合っていた彼氏、だった(過去形を強調)。

 仕事帰りに飲みに行こうということになり、スーツのままで馳せ参じた結果がこのザマだった。滝川としては自信があった。ビシッとしたあたしを見ておくれ、といわんばかりに。ちなみに成川は普通にスーツandネクタイ姿だった。悔しいけど似合っていた。

「なんつーかさー、お前はいつものスポーティーな感じがいいと思うよ」

「あははは」

 普段の滝川はジーンズorジャージ、トップスは夏はTシャツ、冬になるとその上にジャージの上着を着ていた。スポーティーというか、普通に部屋着だった。動きやすい格好が滝川は好きなのである。

「つーかなんだよそのヒール」「あははは」「高そうだなーその時計、巻く腕間違ってるくさいけど」「あははは」――しばくぞゴラァ! お前こそなんだ、趣味の悪いスポーツカー乗ってんだろうがっ。休日になると海沿いの道をぐるぐると飽きもせず走って何が楽しいんだ。嫌なことがあると物凄いスピードでぐるぐると走って気分爽快って阿呆か! しかも実は隠れオタで『花子には俺の秘密を見せる』なーんて重々しい口調で言うから何かと思えば美少女フィギュアの群れでそのくせ乗ってる車にアニメ的な外装を施すんだから隠れてんのか堂々としてんのかわかんねーよ!

 ……とは、思っても言わないでおいた。

 どうしてそんな彼氏と付き合っていたのか、自分でもよくわからない。――学生時代は楽しかったんだけどね。

 ただ、成川の車趣味のおかげで、滝川は自転車で砂浜に辿り着くことができたのだ。

 民宿熊島の近くを通る国道はきれいな楕円形の形をしていて、サーキットのような趣をかもし出している。実際、夏の夜なんかは走り屋たちがブオンブオン愛車を走らせる。成川もそんな走り屋さんたちの一人で、滝川はよく車の助手席に乗ってお供していた。

「いやぁ笑った笑った。やっぱ花子って最高だよ」

「あははは」

 おめーは最低だよ。

 そのデートの帰り道、滝川は別れのメールを送った。



 ――おっと、いかん。またも黒歴史がフラッシュバック。

 滝川は自分の顔面を凝視したまま、意識をぶっ飛ばせていた。時間にすると十分ほどだったようだ。物凄く時間の無駄遣いをした気がして、気が滅入る。

「成川のアホー」

 独り言を呟いてみる。――鏡の中のび、美……美人さんも怒っちゃってるぞー……はぁ。

『美人さん』と発音することに躊躇した自分が情けなくなる滝川である。

「わたしはクリステル。滝川クリステル」

 今度ははっきりと発音する。やはり鏡の中の美人さん(躊躇してない)は同じように口を動かす。

 けれど。

 鏡に映っているのはジャージ上下を着た女子だった。どう好意的に見ても滝川クリステルではない。そして不覚にも、似合ってる、と思ってしまう滝川だった。

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