初めの1
「しまった」
つい声に出していってしまう程度には頭が回らない、朝だから。
高校の駐輪場で私が何を言ってるのかといえば、要するに弁当を忘れたというだけの話で。
腕時計に目をやる。時刻は七時三十五分。始業は八時二十分。家から学校まで自転車で片道五分。
「余裕だ」
妙な悦に浸りながら自転車のスタンドを蹴る。ガシャアンと高い音がして私の耳を切り裂いた、ような気分になる。
なぜかため息が出てきて、早く行こうとさっさとサドルに跨った。
ずぶわぁーと回るタイヤから音が鳴る。「よしよし今度空気入れてやるからなー」とひとりごち、そのまま自転車を走らせる。
家は駐輪場の入り口から見ると真反対で、半周分学校の外周を回らなければならない。
つまり、通学中の私は登校中の生徒の奇異の目にさらされる。
気にする性質ではない。いっそのこと鼻歌でも歌ってやろうかと思ったが一応の羞恥心が働く。いつもは感情の起伏を感じないのだけれど、なんとなく感じ取れた自分自身という存在が嬉しい、気がした。
「なんとなく」
またひとりごちる。
しばらくペダルをこいでいると、弓道場が見えた。そして、そこにいる向かい合う男女一組。
「好きですっ!!」
聞こえた告白。
通り過ぎる私。
坊主な彼にはばれなかった様だ。もちろん相手方の後姿なサイドテールのお嬢さんにも。
おーぅそーりー聞いちまったぜー。
今度は口には出さなかった。偉い、私。
…………よくよく考えると坊主君は見たことある気がする。
が、女子としては異端とされるほど興味のない私は特に思い出す必要もなく、サァーっと自転車をこいでゆく。
三分ほどこいで、小学校が見えた。小学校前を曲がれば、すぐ自分の家がある。
が、やはり小学校も登校時間だ。小っちゃい子が横断歩道を渡るので、特に暖かくもない目で見守る。
私にはきっとあんな時代はなかったのだろう、という現実逃避。
「……む」
前方からうちの学校指定ジャージを着たおっさん、に見える高校生男子が走ってくる。顔が怖い。あと長髪テンパが揺れる揺れる。
足が速いようでぐんぐん近づいてくる。
「怖いわぁ」
近づいてくる。どんどんどんどん、どんどんどんどん、どんどんどんど……。
どすっ
鈍い音が響く。
ぽーん
ジャージのテンパが空を飛ぶ
キャーという小学生の高い声が住宅街を駆ける。私は自転車から降りてゆっくり彼に近づいた。
「あちゃー」
外傷は見当たらないが、気は失っている様だ。
周りはざわざわしている。手旗を持っている小学校の保護者様も呆然とこっちを見ている・
仕方ない、そう腹をくくってケータイを取り出す。いち、いち、ぜろ。
「…あー、もしもし。救急ですか?」
面倒事に巻き込まれたな、と内心思いながら私は淡々と説明を続けたのだった。
初登校です。
色々不安です
群像劇形式でやっていきます。一話の中でも視点がコロコロするかもです。ご了承ください。
きほん連載速度は異常に遅いです。受験生のため、あしからず