#6
「もともと、できないやつはできないんだよ。弱者を支援する理由などない!」
「某国は犯罪者しかいない国だから」
「行政は机上の理論でしか動かないクソどもだ。」
数々の暴言を吐く伝藤だが、彼は何故か人気だ。何故なら某国は、我が国の経済を苦しめる悪者で、そいつから救う存在と信じられていたからだ。おまけに彼の暴言は「キャラクター」として許容されていた。国民は、彼の暴言がある種うわべの物だとは無意識では気づいていたが、それを彼が真実に突き進むが故の暴言だと錯覚していた。ただの演出に過ぎないのに。
テレビでのそういった活躍を見て学は言った。
「計画通り、伝藤さん頑張ってるね。父さん。」
「ああ、むしろ遊んでいるな。」
父の歪飢男は言った。歪学は言った。
「お父さん」
「なんだ?不正を学ぶ我が息子、歪学よ。」
「私のクラスに、反逆者がいます。垣紅毛子です。」
「なに?」
「伝藤さんが救世主ではない、政府の陰謀だとあちこちに触れ回ってます。幸い誰も信じてませんが。」
「しかし手を打たねば…」
「ここに、写真があります。」
「…なんの写真だ?」
「僕の盗撮写真です。」
「なに、学、貴様…」
「やだなあ、父さん、僕の盗撮の腕前を見てくださいよ。」
歪飢男は写真を見た。まるで映画の一シーンのように、盗撮とは思えない美しすぎる構図とポーズ。飢男は息子の腕前に感心した。
「さすが我が息子!スナップ写真!立派な写真家になれるぞ!」
「いやあ父さん照れるなあ。でも写真ちゃんと見て。」
歪飢男は写真をしっかり見た。赤毛にメルヘンのような服装…歪はハッとした。
「こいつは…最初に愛飢男と打ち合わせした時に愛の家の前にいたやつだ!会話を聞かれたのだな!畜生!」
「どうしましょう。」
「逮捕だ。」
「だめ。」
「なぜだ。」
「紅毛ちゃんは、このように可愛らしい服装をしてるけど、変に根性のある人。大体海ガールブームに反抗してるし。逮捕ごときで凹んだりはきっとしない。」
「では…」
「簡単です。紅毛ちゃんを殺せばいいのです。」
「…!」
「お父さん…どうしたんです?」
「いや…我が息子ながら…びっくりした…そうか、それが一番良いわな。」
*
愛飢男は未だに愛に飢えていた。と言うか最近になって愛を感じなくなった。果てしない虚無感。人々は自分が好きだから自分を買っている、というより、それをするのが当たり前だから自分を買っている、というように思う。こんなのでは買われても仕方ない。いっそう寂しくなる。なぜだ、なぜこうなった。
あいつのせいだ。あいうえおに対するわゐうゑを…歪飢男。あいつとの呪われた関係を切りたい…だができない。一度繋いでしまった関係から逃れるのは非常に困難だ。最初は彼は、普通のアドバイスをしただけなのに、段々変な要求をするようになった。あいうえおを崇める歌のはずが、ただの愛を歌った歌、やがてたちつてとを崇める歌になった。伝藤太刀め。ちくしょう…だが始めた物は戻せない。
*
授業。刄結男は窓際の席にいた。対角線上にいる紅毛子は先生の話を聞いていた。刄は、窓の外を眺めていた。
ふと校庭に不審な人物を発見した。スーツ姿。よく見るとバッジをつけている。それは…。
「紅毛子!」
突然刄は立ち上がって、垣の元に向かい、垣の手を引いて教室を出た。先生は一瞬黙って、「なんでしょうね」とせせら笑いながら授業を再開し、クラスの人々は、ひそひそと噂した。
廊下で垣は訊ねた。
「刄くん、なんなの?」
「秘密警察だ!逃げないと殺される!」




