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♯3

「なあ、将来どうするー?」

垣紅毛子の周りで友達が話していた。

「将来?」

「なんとかなるっしょ。」

「そうだよね。世界は幸せだからねー。」

垣は言った。

「でも、何が起こるかわからないからちょっとは考えた方が・・・・」

「はあ?何がおこるかって?お金かせいでー、素敵な男性とラブラブになってー、結婚してー、幸せになる。それでいいじゃない。他に何が起きるの?」

「だから稼げないかもしれないし、とんでもない変な人に狙われるかもしれないし・・・・」

「ばかねえ垣は。そういう否定的なことを考えるから否定的なことがおきるんだよ。全ては幸せハッピーさ!!!!」

「でも・・・・・・」

「ほら、垣も言おうよ。幸せの合言葉。せーの、あいうえお!」

「・・・・・」


垣はどうも違和感を感じずにはいられなかった。まるでこの前の大ヒット曲「幸せのあいうえお」を聞いてるような。最近愛先生もおかしくなった。なにが変なのかわからない・・・・・。どうしよう・・・・・ひょっとして私が間違ってるのではないか・・・とさえ彼女は思うようになってしまった。

だが、彼女は思った。こういう疑念があの愛先生と絡んでいるなぞの男―歪という名前だが―の作戦なのではないか。簡単に引っかかってはいけない・・・・そう思い、彼女は家の近くの祖父の家に訪ねた。



祖父は刺数千僧さし・すせ・そうという高名な僧侶であった。家族思いで孫からは刺じいちゃんと呼ばれていた。なんでも物知りで、困ったときはいつも射じいは相談に乗ってくれた。


「刺じいちゃん。」

「おおおおう。紅毛ちゃんか。髪の毛はずっと赤いのう。」

「地毛だからね。」

「そうじゃな。紅毛ちゃん、どうしたのじゃ?」

「ちょっと分からない事があって・・・・。」

垣は一連の違和感を打ち明けた。

「・・・・で、なんか変なの。なにが変なのかわからないけど・・・・・。」

「わしはわかった。だが言葉に出来なくて、苦しいのじゃろ?」

「うん・・・・・。」

「わしは、ちょっとコネがあってな、いろんな話を聞いておる。政府の連中が何を企んでるか、その『幸せの』うんちゃらでわかった。」

「どういうこと?」

「簡単じゃ。政府は国民の頭を悪くさせようとしてるのじゃよ。」

「ええ?」

「国民的アイドルをつかって、『幸せ』という言葉をつかって、国民の関心を、言ってしまえば世俗的なほうに向けさせているのじゃよ。お金とか自分とか愛とか。まるでそこしか世界がないようにな。そうすることで、たとえば学問とか政治とかそういう広い世界に関心を持たせないようにしているのじゃよ。」

「ええ?」

「現に紅毛ちゃんの周りもそうなってるではないじゃろか。幸せだからそれでいい、何も余計な事をする必要はない、おとなしく社会に従順な存在。政府が求める国民と言うのはそういう存在じゃよ。現に否定をいやがっている。否定を嫌がるという事は現状維持が第一なのじゃよ。政府が何か法案を発表しても、自分が『幸せ』だから何も考えずに受け入れる。とな。まあこの考えに大きな根拠はないが、政府が関わってるということはそれしか考えられないじゃろ。」

「ということは、おじいちゃん・・・・もしかして皆が浮かれてる間に政府が何かしようとしてるの・・?」

「まあ考えられる話じゃな。」

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