自由意思
自由意志
何体もの自律巡回ロボットを破壊し、壁を越え、セキュリティを破り、ようやく辿りついた外の世界は、緑に満ち溢れていた。
「やっぱり、嘘だったんだ。外には不毛の大地が広がっているだなんて」
戦争による環境汚染が進んだ世界で、わずかに生きられるスペースを壁で囲み人類が引きこもり始めてから一体どれだけの年月が経ったのか。
俺の想像した通り、自然の浄化力は偉大で、外の世界は十分生存可能な環境を回復していた。
バックパックの中から簡易食料を取り出し、齧りながらひたすら進む。
舗装された道はない。
どこへ行くにも、何をするかも全ては俺の自由だった。あの閉塞した、何もかも全てを管理されたあの都市とは違う。
広大な緑と瓦礫で構築された世界に、孤独が背中を這いずるが、 きっとどこかに、俺と同様に逃亡に成功した人類がいるはず、と信じて突き進む。
たとえ誰とも出会えずとも、あそこで家畜のように生きるより、はるかにマシだ。
そうして俺は、ついに小さな村へたどり着いた。
最初から外で暮らしていた現地民と、壁内からの逃亡者が協力して生きる場所。
そこは壁内都市と比べればはるかに不便だったが、最初、俺には楽園に見えた。
井戸から水を汲む、畑を耕やす。均一で完璧な量産品ではない、一つ一つ形の違うパンを食べる。
それらのささやかな日常は、俺に生きているという実感を与え、そして——恐怖させた。
「明日は何が食べたい?」
「今度畑を拡張しようかと思うんだが、どっちに広げようか?」
「今日は雨だから外には出れないね。何をして過ごそうか」
そんな風に優しく声を掛けられるたび、俺は言葉を詰まらせた。
壁内都市の生活は、何をしたいかなどとは考えさせるようにできていない。
俺はずっと、壁の外に出たいと思ってきた。死んだ目をした他の連中と違い、俺には自分の意思が、願いがあるのだと。
……そう、思ってきたのに。
一月が経った頃、俺は村からも逃げ出していたのだった。
行き場もなく、一人で生きる力もなく。
白銀色をした遠大な壁の前に立ちつくす。
久方ぶりに出会う巡回ロボットが、俺に銃口を向けながら迫ってきた。
『帰還者No.192。処分します』
あぁ、俺は特別でもなんでもない。意思を持つと勘違いした、哀れな家畜の一匹に過ぎなかった。




