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第23話 勝手に諦めるな

 雨が、崩れかけた礼拝堂を叩いていた。


 重い沈黙。

 張り詰めた空気。

 誰も動かない。


「教会は、カイト・レイヴンを敵性認定します」


 グランベルの声だけが、

 静かに響いている。


 レオンが目を見開いた。


「……敵って、何だよ」


 誰へ向けた言葉か、

 自分でも分からなかった。


 理解できない。

 目の前の男は。

 誰より人を助けてきたはずなのに。


「魔王との接触。及び保護行為」


 淡々とした返答。


「危険因子と判断します」


 エリシアの肩が震える。


 黒い紋様は、

 さらに頬まで広がっていた。


「……私なら」


 掠れた声。

 エリシアが、

 震える指でカイトの服を掴む。


「置いていって、ください……」


 騎士たちが息を呑む。


 カイトは、数秒だけ黙った。

 そして。


「断る」


 短い声。


「……っ」


「勝手に諦めるな」


 涙が滲む。

 胸が苦しい。


 でも。

 その言葉だけで、

 少しだけ救われてしまう。


 カイトは、

 静かに周囲を見渡す。


 騎士。

 包囲。

 グランベル。


 この人数を相手に、

 エリシアを守りながら戦うのは無理だ。


 いや。

 勝てるかどうかじゃない。


 今のエリシアが、耐えられない。


「立てるか」


「……え?」


「逃げるぞ」


 騎士たちがざわめいた。


「待て!!」


「動くな!!」


 魔法陣が展開される。

 騎士たちが一斉に前へ出た。


 その瞬間。

 レオンが、カイトを守るように騎士達の前に立っていた。


「……レオン?」


 自分でも分からなかった。

 なんで動いたのか。


 でも。

 目の前の男が、敵扱いされるのだけは嫌だった。

 騎士たちが眉をひそめる。


「どけ」


「……嫌です」


 掠れた声。

 震えている。


 怖い。

 相手は教会だ。


 でも。

 それでも。


「教官は、誰かを傷つける人じゃない」


 短い沈黙。


 カイトが、

 僅かに目を細めた。


「レオン」


 低い声。


 だが。

 レオンは振り返らない。

 騎士たちを睨んだまま、歯を食いしばっていた。


 その時。


「待ってください」


 静かな声。


 ルーメリアだった。

 騎士たちの動きが止まる。


「勇者様?」


「現在、魔王は不安定状態です」


 銀色の瞳が、エリシアを見る。


「ここで刺激すれば、被害が拡大する可能性があります」


「ですが――」


「教会は、被害の最小化を優先するべきです」


 機械的な声。

 合理的な意見。


 だからこそ、騎士たちは反論できなかった。

 その僅かな沈黙。


 カイトは、エリシアを抱き寄せる。


「行くぞ」


「……っ」


 次の瞬間。

 黒いコートが、雨の中へ消えた。


「なっ――!?」


「追え!!」


 騎士たちが飛び出す。


 だが。

 ルーメリアが静かに前へ出た。


「このまま追えば、魔力暴走へ巻き込まれます」


 騎士たちが動揺する。

 その数秒。

 もう、姿は見えなくなっていた。


 レオンは呆然と、雨の向こうを見つめる。


「……教官」


 胸の奥がざわつく。

 嫌な予感しかしなかった。


 その時。

 グランベルの声が響く。


「勇者様」


 ルーメリアが振り返る。

 グランベルは、穏やかな笑みを浮かべていた。


「随分と、慎重なのですね」


「……被害を避けただけです」


「そうですか」


 短い返答。

 だが。

 その目だけは、全く笑っていなかった。


 ルーメリアの胸が、小さく痛む。

 まるで。

 何かを試されているみたいだった。


 雨はまだ、静かに降り続けていた。


読んで頂き、ありがとうございます。

もし少しでも続きを読みたいと思って頂けたら、

フォローや評価を頂けると嬉しいです。

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